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15話 九発目


春が終わり、外の日差しが強くなってきた。

この世界に梅雨は無いので、夏と春に明確な差は感じられない。

だが、日課の魔法練習のために外へ出るのが、少し億劫になってきた。

夏が来た。


貯水室は妙に湿度が高いので、ここにいると日本の夏を思い出す。



「AGGREGATE WATER。」



水の塊が桶に落ちる。


これで今日の二回分は終了。


初めての魔法を使って以来、俺は毎日シャワー用の水を貯める手伝いをしている。

とはいえ、この魔法二回分では大した量は貯められない。

結局、セリナがほとんどの水を生成している。


これでは手伝いをしていると言えるか微妙だ。



仕方ないとはいえ、歯がゆく感じる。



そういえば、セリナは三歳男児ならこの魔法は3回までなら大丈夫、、的なことを言っていた気がする。



ならば、もう一回くらい打っても構わないだろう。


正直、このまま一日二回だけやっていっても、無詠唱魔法に発展させられる気がしない。


セリナに『一度に二度まで。』と強く言われているわけではないから、一度くらい多めに打ってもよいだろう。



よし。

今日は三発目を打とう。

そう決めて、呼吸を整える。



「AGGREGATE WATER。」



魔法は問題なく成功した。

水の塊のサイズも、パッと見だが変わっていないように見えた。


身体に違和感もない。

確かに、魔法を打った直後は脱力感のようなものを感じるが、正直誤差の範疇だ。



まだいける。

四発目の魔法だって打てる。


調子に乗ってはいけないことは分かるが、俺には急がなければいけない理由がある。



元の世界に帰るという目標のためだ。

具体的には、『転生の魔法』を知ったときに、すぐに使えるようにするため。



自室においてあった民話集の本。

そこに転生の魔法を示唆するような物語があったのだ。



様々な知識を持った賢者が現れ、村人に英知を齎したという話。

その話は賢者が自ら魔法を開発して元の世界に帰った。という結末で終わる。



日本の民話にもよくある、すごい人が下界にきて、その後帰った。的な話なのだが、なんとなく、転生に通ずるものを感じた。

この話から、別の世界に移動する魔法が存在すると推測した。


たとえ、それが存在しなくとも、

やはり、『転生』なんて不思議な現象を、もう一度起こして、元の世界に帰る。そのためには、魔法の熟練は必要だ。



今思えば、中目標に据えていた、


・魔法を使えるようになる


はクリアしている。

けど、教えてもらった詠唱をただ口にして、水の塊を作るだけの魔法しか使えない今の状況では何も意味が無い。


だから、


・魔法を使えるようになる

↓

・無詠唱魔法を使えるようになる。及び、魔法の原理を理解する。


に変更しよう。

なんなら、『転生の魔法』を俺が開発するぐらいの気概で行こう。



ともあれ、そのためには今のままではだめだ。

少しでも練習量を多くして、経験値を貯めなくては。



両手を構える。



「AGGREGATE WATER。」



水の塊が問題なく生成される。


身体に特に問題は無い。



行けるぞ!なんだか良くわからないけど、まだまだ打てる!


五発目!

「AGGREGATE WATER。」


バシャン


六発目!

「AGGREGATE WATER。」


バシャン


七発目!

「AGGREGATE WATER。」


バシャン


八発目!

「AGGREGATE WATER。」


バシャン




桶の半分程度まで水面が上ってくる。



すごい。

連続で打ったことで、なんだか感覚を掴めてきたような気がする。

だが、九発目を打つ前に手を止める。


魔法を打った時にある脱力感が抜けない。


教わっていないが、わかる。魔力切れが近い。



魔力切れになるとどうなるかはセリナに聞いている。

魔力が切れた瞬間気絶。というわけでは無いらしいが、かなりひどい倦怠感に襲われるらしい。



九発目、、打つべきか、、、



本来ならやめておくべきだ。

しかし、感覚を掴めてきている。

もう一発撃てば、魔力の『糸』の感覚を掴めるような気がする。



打つか。



両手を構える。


全神経を集中させ、体内の魔力を探る。


ピリピリとしたモノ。


これが体外に出てからの動きを感知する。


それが出来れば、魔法の『糸』の感覚が掴めるはずだ。



「ふー。」

もはや魔法を打つ前の癖になりつつある深呼吸をする。



「AGGREGATE WATER!」



下腹部のピリピリが動く。


指先に集まり、放出される。


放出されたその先。水が生成される位置に生まれる引力。


ソレの形を認識しろ!




一瞬、両手の間で広がる糸を感知できたような気がした。



しかしその直後に、俺の意識は途絶えた。




***




松明の火が弾ける音で目が覚める。



ここは、、自室か。


身体を起こす。


ベッドの横で椅子に座ったまま寝ているセリナがいた。


多分、魔力切れで気絶してしまった俺を看病してくれていたんだろう。



それにしても気絶してしまったのか、、俺は。


魔力切れをしても気絶はしないという話だったが、さすがに九発は打ちすぎだったのだろうか。



身体の中の魔力を感知する。

感じる。魔力の量まで感じられる。

少なくとも、体内の魔力は明確に感じられるようになったようだ。



自分の成長に喜ぶと同時に、セリナに心配をかけたことを申し訳なく思う。


目が覚めたら、ちゃんと謝ろう。



そのまま俺は、睡魔に身を任せて眠りについた。


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