0.5話 水の中
痛い!痛い痛い痛い。
頭をこねくり回されるような激痛で、俺は目を覚ました。
目を開くと、視界に映る光のすべてが柔らかく滲んでいた。
淡い桃色の靄が、辺りを満たしている。
水の中、なのか?
いつの間にか、頭の痛みは引いていた。
しかし、徹夜明けのような気怠さがずっとまとわりつき、うまく思考がまとまらない。
手を動かそうとする。
ひどく動かしづらい。命令してから反応するまでにラグがある感じだ。
それでも、どうにか動かせる。
何かをつかもうと腕を伸ばす。だが、柔らかな壁のようなものに阻まれ、ほとんど伸ばせない。
壁に触れ、つかもうとした。けれど、指先の感覚は曖昧だった。指が閉じているのか、開いているのかさえ、はっきりしない。
次に、声を出そうとした。
駄目だ。声が出ない。
というより、呼吸をしている感覚すらなかった。
一瞬、パニックに陥りかける。
だが、どうにか冷静さを取り戻した。
そもそも、俺は誰だ。
……いや。俺は、俺だ。
頭にかかった靄を振り払うように、必死で思考をまとめようとする。
覚えているはずなのに、記憶の輪郭だけがひどく曖昧だった。
奇妙な感覚だ。
何か、、、何か、思い出せそうなのに、、
まだ試していなかった足を、全力で伸ばす。
だが、足も柔らかな壁に当たって止まった。
それが最後の気力だったのか。
俺は、そのまま眠りへ落ちていった。
***
どれだけの時間が経ったのだろう。
何度も目を覚まし、眠りに落ちることを繰り返した。
眠ってしばらくすると、頭をこねくり回される痛みで目が覚める。
激痛が収まれば、また眠りへ落ちる。
その繰り返しだった。
だが、繰り返すうちに、少しずつ記憶の輪郭が鮮明になっていった。
そして、また目が覚める。
けれど、今回は頭痛がなかった。
頭がすっきりしている。
思考も、きちんとまとまる。
よし。よし。よし!
俺は思わずガッツポーズをとる。ポーズが取れているかわからないけど。
やっと、まともに人間らしい思考ができる。
まずは状況を整理しよう。
俺は、どうなった?
覚えているのは、高校からの帰り道。
突然、周囲の時間が止まったかのような現象に巻き込まれたこと。
あれはなんだったんだ、、、
考えられることとしては、意図せず薬物とかをしてしまって、幻を見ていたというあたりか、、
にわかには信じがたいが、現実的な案はそれくらいしか思い当たらない。
そして、今は病院に運ばれて、ベッドの上、、、、、って感じではないんだよなぁ。
これだけここにいれば嫌でも分かる。
今いるのは水の中。
そして、
俺の体は明らかに縮んでいる。
現実を見るべきだな。
とても現実的なことではないが、今、俺は、、
突如足が締め付けられる感覚に襲われる。
なんだ。何が起こっt
周りの壁が急に自分に迫ってくる。
まずい。これは、、おそらく、、
体全体が強く締め付けられる。痛みはそんなにないが、どうも息苦しい。
息はしていないはずなのに。
今から向かう先はなんとなく察した。
でも、まだ頭が追い付かない。
柔らかい壁が、急かすように体を押してくる。
覚悟を決め、俺は出口に向け全力で頭を突き出した。




