11話 聞きなれない言語
三歳の誕生日を迎えた。
食卓には肉やパン、魚の丸焼きなど、例年よりも豪勢な食事が並んでいる。
「「ユート。三歳の誕生日おめでとう。」」
どうもこの世界では『三歳』というのは重要な節目とされているらしい。
日本の七五三と似たような感覚だろう。
「ほら、お前の好きなナイトウェアラーの肉もあるぞ。」
ヴェルトが皿をこちらに押し出してくる。
去年の秋に食べたナイトウェアラーの肉があまりにも美味かったので、ヴェルトにまた見かけたら狩ってきてほしいと、せがんでいたのだ。
「やったー!嬉しいです。父さん。」
「ちゃんと。鳥のお肉も食べなさいよー。」
「わかってますよ。母さん。」
「それじゃあ、食べましょうか。」
「「「いただきます!」」」
指をヌルい水に浸す。
食前のルーティーンが終わって直ぐに、目の前の薄切りにされた肉にかぶりついた。
やはり美味い。
そうそう。このジューシーな味。
けれど前回食べた時よりも少し硬いような、、
まあ乳歯でも噛め切れる獣肉というのが謎ではあったのだが。
「父さん。美味しんですけど、前食べた時より少し固い気がします。」
「あー。前回の個体よりも若い個体の肉だからかもな。ヴェムの扱いが未熟だったのかもしれん。」
パンを食いちぎりながらヴェルトが返してくる。
「?」
どういうことだ?普通は若い個体の肉の方が柔らかいようなイメージがあるが。
納得のいってなさそうな俺の顔を見てヴェルトが解説する。
「ナイトウェアラーは自分の体温を上げる魔法を使うんだが、その技量が高ければ高いほど、肉が柔らかくなるんだ。年老いて魔法の熟練度が高い個体ほど、肉が美味いってことだな。」
なるほど?体温を上げる魔法を使うという前の予想が当たっていたのは嬉しいが、
肉は、熱ければ熱いほど固くなるものじゃないのだろうか?
ほら、焼き加減でレア、ミディアムとか言うじゃん?
「噛みづらかったら、俺がナイフで小さく切ってやろうか?」
「いえ、歯ごたえも楽しみたいので、大丈夫です。」
もう一度、肉に食らいつく。
やはり固い、、けど、美味い。肉汁が染み出るのがともらない。
無限に噛める肉のガムのような感じだ。
歯が疲れてきた。
肉の合間に別の料理にも手を出しているのだが、肉を噛む時間が長すぎて、気づけばヴェルトがほとんど平らげてしまっていた。
「ちょっと父さん。ユートのお祝いなのにあなたが全部食べちゃったら駄目でしょう。」
「す、すまん。腹が減ってて。」
「だいじょうぶ。おれはこのにくがくえればまんぞくなので。」
肉を噛みながらモゴモゴとした声になってしまう。
「まあユートがそれで良いなら良いのだけど、、でも、もうお肉も冷めてきてない?」
「さめてもおいしいのでだいじょうぶです。」
それを聞いて、セリナが何かを考えるような面持ちになる。
少しして、考えがまとまったのか、口を開く。
「せっかくのお祝いのお肉なのだから、最後までおいしく食べましょう。」
そういって、セリナが席を立って、俺の席まで来る。
「どうしたんですか?」
「ユート、ちょっとだけ離れてなさい。」
「え?あ、はい。」
言われるがままに、今噛んでいた肉の切れ端だけ口に含んで、席を立つ。
なにをするんだ?
俺が脇に捌けたのを見て、セリナが両手を肉に向けてかざす。
あ、これ魔法だ。
いつも水魔法を使う時も、こんな風に両手をかざしていた。
この世界に生まれてから、未だに火魔法と水魔法しか見れていない。
新しい魔法の気配にワクワクが止まらない。
なんだろうな。美味しくする魔法。みたいな?
全直で魔法を感じるために、五感をセリナの手と皿の上の肉に向けて集中させる。
セリナが一息つく。
部屋の空気がなんとなくピリつくように感じる。
「AGITATE WATER。」
は?
耳を疑う。
英語だよな。今の。
もう俺の耳は、この世界の言語に慣れていた。
三年前に聞いていれば懐かしさえ感じたであろう言語に、
俺は聞きなれなさを感じていた。
あじていと ウォーター って言ってたよな。
ウォーター?つまり水?
あじていとってなんだ?知らない英単語を出さないでくれ。
理解が追い付かない頭だが、視線はまだ皿の上の肉に向けられている。
次の瞬間、肉から湯気が湧いてくる。
湯気が湧いてすぐ、セリナは手をかざすのをやめる。
「よし。出来た。最近やっていなかったから焦がしそうで怖かったけど、上手くできたわね。」
そう言って、人差し指を肉につける。
「うん。温度加減も完璧!流石私ね。」
パチパチパチと小さくヴェルトが拍手をする。
「流石母さん。」
俺の頭は、未だに状況を整理しきれていなかった。
「ほら。また冷めちゃう前に食べなさい。」
そう言って、セリナは席を引く。
俺は、言われるがままに席に座り、一旦肉にかじりついた。
肉はホカホカになっていた。




