10話 うるさい音
夏の残暑も消え、寒い冬の風を感じる季節になった。
秋だ。
この森で秋を過ごすのは二度目になるが、
家の周辺の木は、秋になっても変色しない常緑針葉樹だらけなので、
目では秋を感じることはできない。
しかし、耳でなら感じることが出来る。
日が落ちた夜。去年の秋にも聞こえた音が聞こえてくる。
「ファー―――――ン。ファー――――――ン。」
まるでバイオリンで奏でたかのような澄んだ音が、森から聞こえてくる。
去年初めてこの音を聞いた時は、ずっと聞いていたいと思ったほどには、良い音色がする。
今はそうは思わないが、。
「ファー―――――ン。ファー―――――ン。」「ファー――――ン。ファー――――――ン」「ファー―――――ン。ファー―――――ン。」「ファー―――――ン。ファ―――――ン。」「ファー―――――ン。ファー―――――ン。」「ファー―――――ン。ファー―――ン。」
うるさいのである。
この音の元凶は、森に生息する虫らしい。
名前はわからないが、俺は勝手にバイオリン虫と呼んでいる。
いうなれば夏のセミのようなものだ。
この世界でセミの声を聞いたことはないが。
「この音を聞くと秋が始まったって感じするなぁ。」
「そうね。もう冬に備えなくないといけないわね。」
ヴェルトとセリナが晩酌をしながら言う。
二人は滅多に酒を飲まないので珍しい光景だ。
「お酒ですか?」
「おお。そうだぞ。ってお前どこで『お酒』なんて言葉覚えたんだよ、、」
「部屋にあった民話の本を書いてありましたよ。母さんに読み上げてもらいました。」
「最近よく読み上げをお願いしてくるものね。」
最近、文字の学習にも力を入れているのだ。
部屋の棚に入っていたよく分からない本は民話集的なものだったようで、一般的な言葉の文字が学べて、非常に都合が良い。
「そうか。勉強頑張ってるんだな。よし、じゃあそんな良い子はもう寝る時間だな!」
そういって、ヴェルトが俺の手を引いて部屋まで連れて行く。
まぁ確かにそろそろいつもは寝ている時間だが、今日はなんだか強引だな。
時計はもう19時を指している。
この世界の時計は非常に分かり易い。
前世でもよく見た円形で数字が1~12まで書いてある。
というか数字そのものが非常に分かり易い。
自室の壁にはヴェルトが紙に書いてくれた数字表が貼ってある。
この世界の数字は前世の英数字とほぼ同じなのだ。
よく見ると全体的に少し鋭くなっている印象を受けるが、前世で書いても同じ意味で通じるだろう。
4がキモい形をしているが、これはヴェルトの手癖という訳では無く、本当にこういう形なのだ。リビングの壁に掛けてある時計も同じ形をしている。
8の下側が潰れているのはヴェルトの手癖だが。
ともかく、ヴェルトもセリナも俺の勉強に協力を惜しまない。
貴重品の真っ白で綺麗な紙をかなり自由に使わせてくれる。
血も繋がっていない子供にここまでしてくれるなんて、本当にいい人たちだ。
よし、寝る前に読み書きの復習だけ少しするかな。
前世では信じられないほどに真面目な優等生である。
しかし、10分も経たないうちに眠気が強くなり、、
***
「んがっ」
机に垂れかけていた涎が引っ込む。
腰が痛い。
机に突っ伏したまま寝落ちしてしまったようだ。
喉が渇いたな、、、
水、水、水、、、
暗い部屋の中、窓から差し込むルキア狩りを頼りに、机に置いてある水差しに手を伸ばす。
「って空かよ、、」
キッチンの水瓶に汲みにいかないと、、
こういう時水魔法が使えたら本当に便利なんだけどなぁ。
しぶしぶ自室を出て、キッチンに向かう。
秋とは言え、深夜の廊下はかなり冷える。
外からはバイオリン虫の声が響き続けている、
うるさいなぁ。
「ファー―――――ン。ファー―――――ン。」「ファー――――ン。ファー――――――ン」「ファー―――――ン。ファー―――――ン。」「ギシ。」「ファー―――――ン。ファ―――――ン。」「ファー―――――ン。ファー―――――ン。」「ギシギシ。」「ファー―――――ン。ファー―――ン。」
ん?
なんか軋むような音が聞こえる。
思わず耳を澄ます。
「ファー―――――ン。ファー―――――ン。」「ギシギシ。」「ファー―――――ン。ファー―――――ン。」「ギシ。」「ファー―――――ン。ファー―――――ン。」「ギシギシギシ。」「ファー―――――ン。ファー―――――ン。」「ギシギシギシギシ。」
やはり何かが軋む音が聞こえる。
何だどこから聞こえる?
うるさいバイオリン虫の声を掻き分け、音の出所を探る。
二階からだ。
二階に耳を向ける。
なんだろう。餅つきみたいな音が、、、、
・・・・・
俺は考えるのをやめ、速足でキッチンに向かい、水汲みを素早く行い、トンボ返りで自室に戻った。




