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赤い服を着た悪魔の贈り物  作者: さめもらきん


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9/12

”Ethereal”

全員の期待を乗せてソリが降り立ったのは、誰の想像もつかないくらい、幻想的なのに陽気で、まさにクリスマスを具現化した街だった。


街の入り口に立つアーチはキラキラと光って、天使たちの到着を歓迎しているかのようだ。

ソリを降り、ジョーイに続いて街の中に入っていくと、雪そっくりの白い飾りが積もる石畳の道。

小さいけれど立派な、おもちゃのお家のような可愛らしい外観の建物がいくつも立ち並んでいるのが、天使たちの目に入る。

クリスマスらしい音楽が流れ、鈴の音も微かに聞こえてくる。


街全体が色とりどりの装飾でキラキラと飾られているのに、下品さは一切無く、現実とは思えない光景だとノエルは感じ、心の中で一人感動していた。

つい昨日、初めて天使たちの住む街を見たばかりなのに、今日はまた別の街、しかもずっと憧れていたサンタクロースの街にいる事が信じられなかった。


「これらの建物は全部、イシリアルのスタッフたちの家とお店だよ。街にはイシリアルのスタッフしかいないんだけど、お店も、イシリアルを引退したスタッフや志望者が運営してくれているんだ。君たちには寮に入ってもらうけど後で説明するから、まずはこのままイシリアルに向かうね。」

ジョーイが歩きながら街の事を少し説明をしてくれた。


「さあ、ここがイシリアルだよ。」


ジョーイが示した階段の先に、大きな重厚感のある扉がある。

その上には、”Ethereal”の文字と可愛らしいプレゼントボックスがデザインされている。

街の入り口からまっすぐ歩いている最中にも目に入っていたそれは、まさにサンタクロースの会社、イシリアルだ。

近付くと全体像が全く見えないくらい、縦にも横にもどこまでも大きくて、それを初めて見る天使たちは圧倒されて声を出すのも忘れていた。


階段の先には装飾で彩られたモミの木と、その周りにはプレゼントの山のオブジェが置かれている。

よく見ると遊び心のあるデザインがいくつもあり、圧倒的な存在感なのに威圧感は全く無く、むしろ、その建物の中への期待で誰もがワクワクしてしまうような建物だ。


「すごい!」

天使たちが口々に言葉に出し、ニコも他の天使同様に、目を輝かせて建物を見上げていた。

ノエルはまだ何も、言葉に出来なかった。


「それじゃあ中に入るから着いてきて。」


ジョーイが大きなその扉を開き、天使たちと一緒にノエルも中に入った。


外観の壮大さに負けない程の広く高い天井のエントランスにも驚いたが、目の前の巨大なガラスの奥に見える光景に、その場にいた全員の目が奪われた。


ガラスの向こうでは、カラフルなプレゼントを乗せたベルトコンベアが休む間もなく動いている。

プレゼントが次々と流れて、ある場所では綺麗にラッピングされていたり、別の場所では完成に向けた処理がされている様子を見る事ができた。

機械の音や振動が、ガラス越しに伝わってくる。


「ここがメインエントランスで、みんなが今、夢中になって見ているのがイシリアルのメイン工場の一部だよ。見ての通り、ここでクリスマスに向けた、たくさんのプレゼントが作られているんだ。外からお客さんが来るわけじゃないんだけれど、こうやって皆みたいに目を輝かせてくれるのが嬉しいからって、創設者がこういう造りにしたんだよ。大成功だね。」

と言いながら、ジョーイは笑っている。


そんなジョーイの説明が聞こえているのかどうか、初めてここに来た天使たちは目の前の光景から目を離せずにいた。


ノエルはガラスに近づいて、工場の中を見つめた。

ワクワクすると同時に、胸の奥がむずむずした。


子供たちの幸せのために働く場所に、本当に悪魔の自分が足を踏み入れて良かったのか。

この状況を全力で喜びワクワクしている反面、罪悪感が常に邪魔をして自分でもこの感情をどうしたら良いのか分からず戸惑っていた。

色々な感情が一度に押し寄せてきて、ジョーイの説明も、ほとんど耳に入らなかった。


「ノエル、これに乗って移動するんだって。私たちも早く行こう。」

ニコに声を掛けられて、ようやく建物の中を見渡すことができた。


”これ”と言われた、2人掛けシートのカートに乗り込み、ニコが小さなモニターを操作する。

ノエルはエントランスの床を見て、レールのようなものがずっと続いている事に気付いた。

床のデザインに上手く溶け込んでいるが、このレールに沿ってカートが建物内を移動する。


こんなに大きな建物では移動に時間が掛かるからこのような乗り物が開発されたと、ジョーイの説明を聞き逃したノエルの為に、ニコが代わりに説明した。

前を見ると、先に出発している天使たちが、アトラクションを楽しむように歓声を上げている。


「すごいね。驚きすぎて、ずっと声も出せなかったよ。現実じゃないみたいだ。」

「本当にすごいし、何より私たち、ちゃんとサンタクロースになれるんだよ!楽しみだね!」


カートに乗りながらも、その広い建物の中への興味は尽きなかった。

エントランスの左右には階段があり、上り切ると長い廊下と、いくつもの扉がみえる。

階段ではあるが、ここにもレールが伸びているのでカートは階段を上ったり下りたりできるようになっている。


自分たちには羽があるから飛べるし、カートに乗るのが面倒な時は飛んだり歩いて階段も使うのかな、見た目の為に造ったのかな、と、ノエルとニコはその仕様について面白そうに話し合った。


どこまでも続いていそうな長い廊下といくつもの階段、もう自分たちがどこを移動しているのかが分からなかったけれど、カートが止まって目的地への到着を知らせた。


カートから降りて部屋に入ると、テーブルと椅子が用意されていて先に着いた天使たちが前から順に座っているところだった。


「これから説明会だから、前から順番に詰めて座ってね。」

ジョーイが席へ座るように促し、イシリアルの説明会が始まろうとしている。

ノエルとニコは、後ろの方の席についた。


改めて周りを見ると、思っていたよりも天使たちの数が多いなと、ノエルは感じた。

そして、一瞬、自分が悪魔だという事を忘れかけていた事に気付き、ハッとした。

天使たちを騙してルクスに入り、そのままサンタクロースの街へ来て、ついにはイシリアルの中に入る事もできた。

少し前までの罪悪感も、この順調さと建物への感動で薄れていたのだ。


このまま何もない事を祈りつつ、これだけ周りに天使がいる、というよりもこれからずっと、天使と一緒に過ごしていくのだから油断は禁物だ。

と、膝の上で手を握り、気合を入れ直した。


そして、白い悪魔の羽をそっと触った。

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