天使を欺く悪魔の計画
「私が考えてきた計画、粗もあるんだけど簡潔に伝えるね。」
「うん。お願い。」
「イシリアルに入るには、年に1回、決められた日時に志願者がルクスの噴水前に集まって、専用のソリに乗ってサンタクロースの街に行くの。採用試験は無い。今年は、今から8か月後にソリが来るから、それに上手く乗り込むの。それで、」
と、話を続けようとしたニコの言葉をノエルは遮った。
「話を止めてごめん。イシリアルっていうのは何?悪魔はサンタクロースになれないから、そういう詳細な話は教えてもらった事がないんだ。もしかしたら授業で話に出てたかもしれないけれど、あんまり聞いていなくて…。」
「そっか。でも私もほとんど情報が分からなかったの。サンタクロースの街にあるイシリアルというのが、サンタクロースの会社。そこで色々と仕事をしているみたいだけど、実は私も会社の名前しか知らないんだ。先生たちに聞いても、会社では何をするのかも知らないみたいだったし、街の事も詳しく分からなかった。ただ、希望をするなら噴水の前に行けばいいみたい。」
「そうか、サンタクロースの会社があるんだ。イシリアル。うん。分かったんだけど、そこに行くためにはまず、僕はルクスに入らないといけないという事だよね?天使の街の悪魔の僕が入ったらすぐにバレちゃうよね。」
「それは大丈夫だと思う。街に入るのにチェックは無いし天使は疑わないから、悪魔とバレないように天使に変装すればたぶん大丈夫。イシリアルに入ってからの事は、向こうに行かないと分からないから、流れに身を任せるしかないね。」
話を聞いている限り、天使にバレないようにするのが難関だし、イシリアルに入ってからの事はもはや計画でもなんでもないのに、ニコが根拠もなく自信満々に話している事に驚いた。
天使特有の性格なのだろうかと自分を納得させた。
「変装と言っても、黒い羽を白くするだけ。黒い羽のままじゃ、さすがに門を通る前にバレるから。だから羽を白く染める必要があるの。」
「羽を染めれば、見た目では天使と悪魔を見分ける事は難しいかもしれないけれど、本当に大丈夫なのかな。いや、でも厳しい確認があるわけではないしいけるのかな。」
自信満々なニコにつられて、ノエルも、いけるかもしれないと根拠の無い自信が湧いてきた。
天使も悪魔も、それぞれの街に入るときに何か身分証明が必要だったり、警備があるわけではない。
天使の輪っかや悪魔の角は人間のイメージ上だけの事で、実際には羽の色でしか区別していないのだ。
たしかにそれであれば、不自然な行動さえしなければバレる事は無いのかもしれないとノエルは考え始めていた。
「ノエル、仕事で人間界に行ったら、白の染料をたくさん盗んできてね。」
「盗む?ルクスにもノクスにも染料はあるから、そこで買えばいいんじゃないの?」
「ルクスに入るとき以外にも、今後ずっとサンタクロースの街でも羽を白くし続けないといけないでしょ。そんな大量の染料、手に入れられないから人間界から盗んだ方が早いでしょ。」
悪魔も天使も、一定期間で羽が生え変わる。
その度に強く艶のある、綺麗な羽になっていく。
「だからって、盗みか…。少し抵抗があるよ。」
「ノエルは悪魔でしょ?そのくらいの悪い事、悪魔なんだからできるわよ。天使の私に盗みは絶対できないけど。」
と、冷やかすようにニコは笑いながら言った。
たしかにノエルは悪魔で、本来悪魔は悪い事に対するためらいは無い。
他の悪魔たちが人間界からお菓子やゲーム機を盗んできているのも見たことがある。
悪魔である事に嫌気が差していたが、まさかこんなところで役に立つとは拍子抜けだった。
「まだ時間があるから、うまく集めておいてね。できる?」
「分かった、うまくやってみるよ。」
ニコがここまでやってくれいている。不安はあるがノエルにも迷いは無くなっていた。
「ソリが来る1日前に、人間界で集合しよう。そこで羽を染めてルクスに向かうの。そのあとは私の家で、作戦の確認と休憩をしよう。」
「うん。まだ少し不安だけど、分かった。ニコを信じるよ。」
「そろそろ仕事に戻らないと。ソリが来るまでの8か月間、お互い準備を整えて、また会おうね。今度はすぐに会えるよ!」
2人は人間界での集合場所と日時を決めて、一旦の別れを告げた。
「ノエル、絶対にサンタクロースになるよ。」
「うん。一緒にサンタクロースになろう。」
ニコは笑った。ノエルも久しぶりに心から笑えた気がした。




