なりきれない悪魔
あれから10年が経った。
もうすぐで16歳を迎えるノエルは、悪魔の街ノクスでつまらない日々を過ごしていた。
”ノクターンホール”で他の悪魔たちと生活を共にしているが、10年経っても馴染めずにいる。
ノクターンホールは、人間界の学校や児童施設を参考にして作られた”悪魔の家”と呼べるような場所だ。
天使の街ルクスも、同じような施設がある。
天使も悪魔も、進化を続ける人間界の文化が大好きで、素直に尊敬をしている。
勉強や仕事、ファッション等の様々な概念を、長い年月をかけて人間界から取り入れてきた。
今ではほとんど、人間と変わらない生活をしている。
大きく違うのは、彼らには羽があって、少しだけ特殊な能力が使えて、雲の上で暮らしているという事。
はじまりの木から移ってきた後、16歳になるまでノクターンホールで過ごし、悪魔としての役割や生活を叩き込まれる。
ノエルはこの生活に嫌気が差していた。
「最初は小さな囁きでいい。このくらいならいいか、と思わせて隙をついていくんだ。それを繰り返して人間を悪に引きずり込む。それが悪魔の囁き、悪魔としての最初の仕事だ。これは天使とペアでやるからな。」
先生の授業に、周りの悪魔たちは目を輝かせて聞いていた。
人間が誘惑に駆られるとき、天使と悪魔が目の前に現れて”天使の囁き”と”悪魔の囁き”をするのだ。
これがノクターンホールを卒業したら、全員がやる最初の仕事である事を先生は説明していた。
悪魔の彼らには、悪い事への嫌悪感や躊躇いは一切無い。
人間を騙して悪い事を吹き込んで、悪の道に引きずり込もうとする事を喜び、誇りをもっている。
はじまりの木の前で、心がそう決まったのだから当然の事だった。
だけど、ノエルにはその感覚が分からなかった。最初は抵抗もした。
でもすぐに揉め事は面倒な事だと気付き、結局いつも流れに身を任せるだけだった。
この授業を聞いていても、何も楽しそうだとは思えなかった。
”サンタクロースになる条件は、天使である事”
絵本のサンタクロースに憧れた時から、ニコと一緒にサンタクロースになる事を夢に見ていた。
しかし、黒い羽が生えてきたあの日に、ノエルの夢は終わってしまった。
天使になれなかっただけでなく、ニコとも離れたことで希望も無く、全てを諦めていた。
「ノエル、お前ももうすぐ卒業だろ?人間界、楽しみだよな!」
悪魔の仲間、トーチが隣から声を掛けてきた。
「そうだな。」
気の抜けた返事をした。実際、楽しみでも何でもなかった。
ただ、16歳になればノクターンホールを出て自由になれる事は、唯一の希望だった。
そしてついに16歳になり、ノクターンホールを卒業したノエルは、人間界に降りて悪魔の囁きの仕事をする事となった。
仕事に向かう前に、囁きの仕事を管理しているというオペレーターの担当者から、管理用の専用端末を渡され、はじまりの木の広場から人間界へ向かうように指示されていた。
人間界への行き方は授業でも習うが、ノエルの耳には入っていなかった為ここで初めて、あそこを通るのか、と懐かしい気持ちになっていた。
必要な準備をして、はじまりの木に向かった。
目の前まで来ると、ノエルは思わず足を止めた。
ここで、ニコと一緒に過ごし、絶対にサンタクロースになるんだと、2人で語り合っていた。
あの時の純粋な気持ちや、希望に満ちた心はもう無い。
だけど、ノエルには他の悪魔のような黒い気持ちも無く、ただただ、苛立ちだけが募っている。
「今、ここにニコがいてくれたらな。」
声は誰にも届かず、広場に消えた。
ノエルは少しの期待を胸に、歩みを遅くしてみたけれど、そこにニコが現れることはなかった。




