第31話 幽鬼との決着
残り香のように残るモンスターの足跡。
リリルの力でそれを追いかけて行くと、地下へと下りる仕掛けを見つける。
相手の姿はまだ確認できない。
だが追跡をしていると仲間たちと合流することができ、皆は追いかけていたモンスターと戦っているではないか。
私の到着に感激したような表情のルキア。
鬼のようなモンスターは私の姿を見た瞬間、横に伸びる通路へと逃げて行く。
「シャル!」
「わたくしを気安く呼ばないでいただきたいですわね!」
「ダメだ、毒消しの効果が切れてる。リリル、お願い」
「うんなの、シャルに毒消しを飲ませてくるなの!」
リリルはすばしっこく動き、拳を振り回すシャルの肩に乗り上げ、彼女の口に毒消しを放り込む。
「ううう……」
「シャル」
彼女の元に近づく。
毒素のようなものが彼女の全身から抜ける様子があり、顔を上げた彼女は、いつも通りの表情になっていた。
「ごめんなさい……チドリ様、ごめんなさい」
大量の涙を流すシャル。
どうやら鬼と化してしまったことを謝罪しているようだ。
そんなの謝らなくてもいいのに。
悪いのは鬼自体であって、シャルは被害者なんだから。
「いいんだよ。謝らなくていいの」
「チドリ様……チドリ様」
彼女を抱きしめ、優しく頭を撫でる。
「チドリ様。あの鬼はチドリ様が現れたら逃げたなの。多分、チドリ様を警戒して逃げたと思うなの」
「なるほどなー。シャルの攻撃が当たってなかったみたいだから、魔術が通用するのかな?」
「その可能性が高いとボクは踏んでいる。ただ実際にやってみないと分からないけどね」
「じゃあやってみますか」
私はシャルから離れ、彼女たちにルキアの背後に行くように促す。
「相手は姿を消しています、チドリ様、気を付けて」
「相手の闘気で居場所が分かるけど……迷路みたいな場所を逃げようとしている。このままじゃ逃げ切られてしまうな」
「大丈夫。もう勝ちは確定してるみたいなものだから」
「え、どういうこと、チドリさん?」
私は皆の方を向き、笑みを浮かべる。
怪訝そうな表情をしているルキアは、何かに気づいたのか顔を真っ青にしていた。
「えっと……何をするつもりなのかな?」
「もちろん、モンスターを倒すつもりだよ。ルキア、皆のこと守ってあげてね」
「ああ……責任重大。私にできるだろうか」
ガタガタ震えるルキア。
彼女には皆を守る障壁を出してもらわないと困る。
「ルキア、勇気を出すなの。勇気が無かったら、強い障壁を作れないなの」
「出します、勇気を出します! 私だってまだ死にたくないもん!」
覚悟を決めたのか、泣きながらも勇気に満ちた瞳をするルキア。
私がこれからやろうとすることを理解していないアーシャは、唖然としてこちらを見ている。
「チドリ、何をするんだ? 何でルキアはこんなに怯えているんだい?」
「それは簡単な話。これを使うだけのこと」
「チドリ様……」
腰にある刀を握る。
シャルはそれを見てゴクリと固唾を飲み込み、自分の胸元をギュッと握り締める。
「相手の居場所が分からないんだよ、どうやって倒すのさ?」
「こうやって倒すんだよ!」
刀を引き抜いた瞬間、刀身から漏れるようにして炎が生じる。
相手が逃げた通路。
そちらの方向に向かって刀を突き出す。
「なっ――」
眼前を全て燃やし尽くす炎。
相手がどこに逃げようが関係無い。
全てを燃やしてしまえば、それで全部解決だ。
「グワァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
炎を食らったのだろう、化け物の叫び声が聞こえる。
まぁ自分で生み出した炎が激しすぎて、辛うじて聞き取れた程度ではあるが。
迷路のような通路、その全てに炎が走る。
その威力と規模に、皆が驚愕の声を上げていた。
「ぎゃあああああああああ! 怖い怖い怖いよおおおお!!」
「ど、どどど、どうなってるんだ、この威力はぁ!?」
「チドリ様……規格外すぎますわ」
「流石はチドリ様なの!」
ルキアの障壁によって皆は無事。
自分ではコントロールできないけれど、ルキアがいてくれたおかげで力を振るうことができた。
「ふーっ、倒せたかな?」
「これで倒せなかった何をしても倒せないよ。しかしチドリってとんでもない女の子だったんだね」
「ふふふ、チドリ様、前は山を燃やしてしまいましたものね」
ようやく炎が消えるが、周囲の壁や通路はマグマのようにグツグツいっている。
温度も上昇したのか、じんわりと汗をかくほどだ。
後はモンスターを見つけるだけだが……どこにいるんだろう。
「悲鳴はあちらから聞こえて参りましたね」
「うん。行ってみよう」
声がした方角へと歩いて行く私たち。
すると通路の途中で、黒焦げとなった化け物の死骸が見つかる。
「倒してる……良かった。もう戦いに巻き込まれなくて済むよぉ」
「バッチリだったね。皆無事でよかったよ」
「チドリのおかげだね。ボクも『奥の手』があったけど、通用するかどうか、分からなかったから」
「迷惑をおかけしました。皆さん、申し訳ございません」
シャルが私たちに向かって頭を下げるが……全員でそれを止める。
「だから謝らなくていいんだよ」
「そうさ。悪いのは鬼なんだからね」
「うんうん。鬼みたいになったシャルさんは怖かったけど、何事も無かったからそれで良し」
「リリルは毒消しを飲ませただけなの。被害は無かったからいいなの」
「皆さん……ありがとうございます」
化け物を倒し、ようやく私たちの間に優しい空気が流れ始める。
しかし危険なモンスターがいたという本当の話だったんだな。
私が倒せたから良かったものの、シャルもアーシャも危ない目に遭った。
誰か一人でも欠けていたら、生きて帰れなかったかもしれない。
そんなことを想像すると、胃の辺りが痛くなる。
「チドリ様、これを見るなの」
「どうしたの?」
化け物の死骸を見ていたリリル。
彼女は走って死骸に近づき、何かを手に取った。
「これって……何?」
「ちょっと調べてみるなの」
リリルの目が光る。
彼女の手には石の欠片のような物があった。
リリルの手からすれば大きめ、私たちのサイズからすれば小さい物だ。
しかし変哲も無い石に見えるが……何だろう?
「分かったなの。これは『鬼魂の欠片』なの」
「鬼の……もしかして鬼だったの、今の化け物?」
見た目は確かに鬼っぽく感じたけれど、まさか鬼そのものだったとは。
私は驚きながら、リリルから手渡された欠片を見下ろす。
「ふむ。鬼の心か……これに支配されて鬼になったってところか」
「恐らくそうだと思います。そうでしたか。わたくしと同じで……」
少し寂しそうな表情を浮かべるシャル。
何か思うところがあったのだろうか。
あるいは自分と同じで鬼と化した化け物に同情しているのかな。
「さてと。これで今回の事件は解決だね」
「うん。これも憶測だけど、鬼がゴブリンを支配していた。奴の命令にゴブリンたちが従っていたのだろうね」
「リリルもそう思うなの。鬼が死んで、ゴブリンたちがダンジョンから退散した気配があるなの」
「そうなんだ……じゃあこれにて一件落着ってやつだ!」
ゴブリン集団襲撃の事件はこれで終わり。
後は町の人たちに報告するだけだな。
「よーし、帰ろうか。美味しいご飯を食べて、今日はゆっくり寝よう」
「私も頑張ったから、特別美味しいの用意してね」
「分かってるよ。シャル、カトルさんにも報告しないといけないから、早く行こう」
「……はい」
シャルは泣きそうな表情で頷く。
彼女の意図が分からず、私は首を傾げる。
まぁ皆無事だったから、それだけで今はいいや。




