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第30話 遺跡での戦い② ※シャル視線

 幽鬼と距離を詰めるアーシャ。

 すると幽鬼はすぐに実体化して彼女を迎え撃つ。


(実体化した。要するに今は攻撃が通じないってことだ)


 攻撃が通用しない。

 それを理解するアーシャは、あえて軽い蹴りを放つ。

 彼女の予測通り、蹴りは幽鬼の体をすり抜ける。


「なるほど。攻撃が通じないのを確かめるための攻撃か」


「へー、今ので分かるんだ」


「僕を倒す気が無いようだったからな」


「それは違うね。倒す気でいるさ」


 攻撃が通じない。

 ならどうすべきか……

 アーシャは頭をフル回転させ思考するが、その答えは見つからない。


 攻撃が効かない幽鬼は、堂々とした態度でアーシャへと近づいて行く。

 そしてそれを見たアーシャは、固唾を飲み込んだ。


「ふっ、どうやら悟ったようだね。僕の勝利を」


「バカなことを言わないでくれ」


「だが、君の表情はそう語っているよ」


 勝利を確信した幽鬼が全力で駆けだす。

 アーシャにトドメをさすつもりだ。


 幽鬼の攻撃力は高いが、一撃でやられるほど高くない。

 そう踏んだアーシャは、彼の攻撃に合わせるように爪を立てる。


(攻撃の瞬間ならどうだ? 防御に徹してる時のみ、こちらの攻撃を避けるというものだったら?)


 そう考え、カウンターを試すアーシャであったが――


「ううう……」


「残念。君の目論見は外れだ。僕には攻撃が通用しないのさ」


 幽鬼の拳が、アーシャの腹部を叩く。

 激しい痛みに膝をつくが、しかし追撃をされないように距離を取る。


「すばしっこい女性だ」


「いい女は、捕まえるのに苦労するものさ」


「確かに、その分美味しそうだ」


「下衆なやつめ……」


「アーシャ様。次はわたくしが参ります」


 痛みに耐えるアーシャの前に立つシャル。

 幽鬼は代わりに出たシャルを視認し、すぐに実体を消す。


「シャル……君じゃ相手の居場所を掴むことができない」


「ですが、このままではアーシャ様はやられてしまいます。わたくしが時間稼ぎをしますので、その間に敵の弱点を見つけてください」


「…………」


 うすぼんやりとだが、アーシャは幽鬼の弱点に気づき始めていた。


 幽鬼の弱点、それは実体化していない時は物理の攻撃が通用すること。

 姿を消せる代わりに物理攻撃を食らってしまい、実体化している時は逆に物理が通用しなくなるのだ。


 そして幽鬼の一番の弱点は、魔術攻撃。

 チドリと仲間たちを分断したのはそういう理由があったからだ。


 そしてモンスターに見つかることなく遺跡まで到着した能力、それも警戒していた。

 似たような能力を持つリリルがいたら、自分の居場所を突き止められてしまうかもしれない。

 アーシャがこちらの姿を見切れるのは想定外であったが、彼女が物理攻撃しかできないことを分かっており、それでもチドリがいなかったら勝てると断定していた。


 そしてシャルは幽鬼の姿を認識できない。

 なので余計に勝利は確実だと、相手はニヤリと笑う。


「来るなら来るがいいさ。僕を見つけることができるならね」


「…………」


 深呼吸し、一歩ずつ前に出るシャル。

 そんな彼女の様子を見て、アーシャは幽鬼の居場所を伝える。


「シャル、10歩ほど前に進んだ辺りに敵はいる!」


「分かりましたわ!」


 シャルに思いを託すアーシャ。

 彼女の腕力なら、どうにかなるかも知れない。

 そう踏んだアーシャであったが、幽鬼は鋭い視線で彼女を見据えがら動き出す。


「う……」


「僕は慎重派なんだ。不安要素は消しておく」


 素早い動きでシャルに接近し、すぐに離脱する幽鬼。

 その動きの速さに、アーシャの指示が間に合わない。


「離れた……また来る!」


「うっ……見えないのは厄介ですわね」


「次は左から――」


 左から来ると伝えようとするが、それはフェイントで、幽鬼は右側に回ってシャルの腹を殴りつけた。


「右から……駄目ですわ。相手を捉えることができません」


「このまま倒す。その後に後ろの女も殺す。そして最後に、鳥族の女だ」


「ひぃ! 私のことに気づいていた!?」


 離れた場所から見守っていたルキアであったが、当然彼女がいることも把握されている。

 泣きそうになりながらも、だが逃げようとしないルキア。

 友達を置いて逃げる選択肢は、彼女の中には無いようだ。


「はぁはぁ……」


「どうしたんだ、息切れか?」


「ううう……」


「シャル、どうしたんだい?」


 シャルの異変にようやく立ち上がるアーシャ。

 まだ試していないことがあり、それが通用するなら勝てる見込みもある。

 しかしそれを試そうとしていたアーシャであったが、苦しがるシャルを見て彼女の元に駆け寄って行く。


「シャル?」


「……うるさい! わたくしに近づくな、この犬風情が!」


「なっ……」

 

 伸ばされた腕を払うシャル。

 千鳥の毒消しで抑えられている『鬼』の支配。

 想定していたより遺跡に長いこといることとなり、それが切れてしまったのだ。


 鬼の形相となるシャル。

 それを見た幽鬼は、恐れおののくのであった。


「僕と同種……いや、僕よりも上位の存在か」


「匂いますわね、このドブネズミが!」


 相手の匂い。

 実体が無い状態の場合、その匂いまで消してしまうが、鬼が顕現した状態のシャルの鼻では捉えることができた。


 幽鬼に接近するシャル。

 その凄まじい勢いに幽鬼は硬直し、彼女の凄まじい一撃を食らう。


「ぐあわああああああああ!!」


「そこにいるのは分かっていますわ。随分とわたくしに好き勝手やってくれましたわね。これからお礼をさせていただきますから、ご容赦を」


「ぐっ……」


 幽鬼はすぐさまに実体化する。

 鬼化したシャルを相手に、実体を消すのは得策ではない。 

 すぐにそう決断し、そしてその決断は正しかった。


「ちっ! 避けるんじゃありませんわよ、このボケ野郎が!」


 別人と化したシャル。

 アーシャとルキアは、茫然として彼女の後姿を眺めていた。


「ど、どうなっているんだ、シャルは……」


「チドリさんから聞いた。シャルはその身に鬼を宿しているって」


「それはボクも聞いていたけど……まさかあんな風になってしまうなんて」


 友人の変化に驚くばかりであったが、だがこれなら助かるかも知れない。

 妙な安堵と恐怖心を覚えながら、シャルの戦いを見据えることに。


 しかし、シャルの攻撃は空を切るばかり。

 鬼と化した彼女の攻撃でも、物理的なものでは通用しない。


「はは……ははは! 驚いたけれど、どうやら僕には通じないみたいだね、君の攻撃は!」


「わたくし相手に卑怯な真似をするものですわね。本当、ゴミみたいなやつですわ!」

 

 幽鬼に拳を振りながら憤慨するシャル。

 だがどれだけ攻撃を繰り出しても幽鬼には届かない。


「ではさようなら。口汚い君も素敵だけど……やっぱり上品な方がいいな」


「シャル、危ない!」


 幽鬼が拳に魔力を溜め、シャルを殺そうとする。

 アーシャの叫び空しく、その拳を振り下ろされる。


「なっ……」


 しかし、その攻撃は見えない障壁に阻まれ、押し戻されたことに幽鬼は驚愕していた。


「何が起きたんだ……」


「はぁ……はぁ……私の友達は、殺させないんだから!」


 涙目となりながら、障壁を張るルキア。

 彼女はシャルの前に立ち、幽鬼の攻撃を防御したのだ。


「防御能力……まさかルキアにあんな力があるなんて」


「私も知らなかった! でも友達が死んでほしくないって思ったらできたんだもん!」


「流石ルキア! シャルを守ってくれてありがとう!」


「え、この声は……」


 振り向く幽鬼。

 その背後には――チドリの姿がある。


「お待たせ。さぁ、ここからが本当の勝負だ。絶対に倒そう、その化け物を」

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