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第29話 遺跡での戦い① ※シャル視線

「結構時間が経ってしまったけど……チドリは無事だろうか」


「チドリ様なら大丈夫なはずですわ。リリルもいますし、わたくしたちの中で一番強いのですから」


 落とし穴に落ちたシャルたちは命に別状は無かったが、同じような場所を歩き回っていた。


 落ちる前と似たような造りではあったが、道がいくつにも分かれた迷宮みたいになっており、どちらに向かったらいいか分からない。

 所謂迷子になっており、ルキアは一人震えている。


「あわわわわ……このまま帰れなくなったらどうしよう。このまま死んだらどないしよう!」


「不吉なことを言うんじゃない。大丈夫。ボクがいたら帰れるはずさ!」


「ええ。皆で帰りましょう。そしてまたチドリ様に美味しい手料理を振る舞っていただきませんと」


「そうだね。チドリの料理を食べないと満足できない体になってしまった。彼女にはずっと責任を取ってもらうんだ」


 笑いながらそんな会話を交わすシャルとアーシャ。

 だがルキアだけは緊張した面持ちのまま、周囲を警戒するように周りを見渡している。


「なんだか寒くない?」


「そうかい? 普通だと思うけど」


「わたくしも少し寒いですわ。冷たい空気が流れていて……さっきまではそんなことありませんでしたよね」


「そうだよね。やっぱり気の所為じゃないんだ……」


 背筋を震わせる寒さ。

 シャルとルキアは、言いえぬ違和感を覚えていた。


「ボクは体が熱いままだけどね」


「アーシャさんはちょっと変わってるんだって。こんな寒いのに熱いって……」


「熱いものは熱いから仕方ない! 寒さなんてなんのそのだ」


「羨ましい。どんな環境にも馴染んじゃうんだろうな、アーシャさんって」


 元気に笑顔を振りまくアーシャ。

 ルキアはそんな彼女を見て、心の底から羨ましいと感じていた。


「寒さの正体はなんだろう……もしかしてあれかな?」


「あれ?」


「うん、あれ。そこに隠れてるあれのことだよ」


「?」


 アーシャの視線の先を見るシャルとルキア。

 だがそこには何も無く、自身の熱さに頭がやられたのかと思い出す。


「アーシャ様。少々頭を冷やした方が……」


「頭は冷えているつもりだよ。ボクのスキルは【闘気】。人やモンスターが放つオーラみたいな物が見えるのさ。姿を隠しているつもりだろうけど、姿がクッキリ見えているよ」


「なっ……何が見えてるのよ、アーシャさん!」


 アーシャの背後に隠れるシャルとルキア。

 彼女たちの視線の前の空間が歪みだす。


「まさか僕の姿を認識できる者がいるなんて……驚きだよ」


「あなたは……」


 とある人物が姿を現す。

 その正体に、シャルは目を見開いていた。


「カトル様!?」


 そう、それはカトル。

 気配を消し、彼女たちの前に姿を現せたのだ。


「さっきは油断して闘気を見てなかったけど……ボクたちをここに落としたのは君だね?」


「ご名答。頭が悪そうなタイプだと思っていたが、意外と頭が回るようだ」


「それ、悪口だよね?」


「そんなことより……どういうことですの、カトル様?」


 クツクツと笑うカトル。

 シャルは顔面蒼白となり、アーシャは彼をきつく見据えている。

 ルキアは怖がり三人と距離を取って、遠くからその様子を眺めていた。


「どういうこととは?」


「何故あなたがここにいらっしゃるのですか? それにわたくしたちを落としたって……」


「彼女が言っている通りさ。何かおかしなことでもあったかい?」


「あなたはここに強敵がいると教えてくれました。それがゴブリンたちの原因かもと……」


 カトルは肩をすくめ、大きくため息をつく。


「ああ。嘘じゃない。実際にここにはゴブリンキングがいたはずだ。まさかあれを倒せるとまでは思っていなかったけど……想定以上の強さみたいだね」


「何を仰っているのですか? 何を言っているのかさっぱりで」


「シャル。簡単な話だ。こいつは敵で、ボクたちが倒すべき相手なのさ」


「それは少し違うね」


「どういうことだい?」


 不敵なカトルの笑み。

 アーシャは拳を鳴らし、臨戦態勢に入る。


「君たちが倒せる相手じゃない。倒すべきとは、倒せる場合に使おう言葉だ」


「じゃあ正しいじゃないか」


「だから言ってるだろ、僕を君らは倒せないと」


 フッと笑うアーシャ。

 次の瞬間、彼女はカトルの眼前に現れる。


「もう一度言おう、ボクは正しいとね」


 爪を振るうアーシャ。

 だがそれはカトルの体をすり抜けてしまう。


「なっ……」


「もう一度言うのは僕の方だったね。君たちが倒せる相手じゃないんだよ、僕は」


「くっ!」


 ゆっくり揺れるカトルの体。 

 そこから繰り出される、凄まじい速度の拳。


 アーシャは辛うじてそれを腕で防いでみせるが、後方に吹き飛ばされてしまう。


「アーシャ様!」


「見てみなよ、シャル。彼は敵だ……人間じゃない」


「そんな……」


 カトルの体が変化していく。

 角が生え、赤い瞳を持つ化け物に。


「鬼……鬼だよ、あれ!!」


「その姿は……カトル様、説明してください!」


「説明する必要は無い。君たちはここで僕に食われるんだから」


「そういうことか……チドリとシャルをここにおびき寄せ、食料としようとしてたったえところか」


「やはり頭は冴えているようだ」


 鬼と化したカトルの姿を、まだ信じらえない様子で眺めるシャル。

 だがここでようやく決意する。

 カトルを倒さなければならない、敵と認識しなければならないと。


「どういうことか分かりませんが……私とリリル、そしてチドリ様を騙してたということですわね」


「僕の話は町のやつらに聞いていたんだろ? 『ホラ吹きカトル】ってね」


 シャルは理解する。

 町の人々が言っていたことは真実だったと。

 カトルは最初から嘘つきで、自分の都合でここに自分たちをおびき寄せたと。


「わたくしを騙していたことは構いません。ですが、チドリ様を騙したことは許せませんわ」


「そうかい。だからどうしたって言うんだい? さっきから言っているように、君たちじゃ僕には勝てない。そう、この――幽鬼にはね」


 幽鬼。

 それはまさに幽霊の如く、存在感がユラユラしている鬼であった。


 幽鬼はゴブリンキングよりも強い。

 恐らく一筋縄ではいかないだろうと、アーシャは判断していた。


(さっきは攻撃を避けらえた。無暗に突っ込んでも、また避けられる可能性が高いな)

 

 猪突猛進に見えるアーシャであったが、彼女はよく思考し、行動をするタイプ。

 相手の特性を一瞬で判断し、冷静に対処しようとしていた。


 だが冷静な彼女に対し、シャルが熱くなっている。


「人を騙し、人を食らう化け物……わたくしが成敗してさしあげますわ!」


「シャル、止まるんだ!」


 アーシャの言葉はシャルの耳に届いておらず、そのまま一直線に突っ込んでいく。

 拳を振り上げ、幽鬼の顔面を捕えた――ように見えたが、霞を叩くようにして手ごたえが無い。


「当たらない……どういうことですの!?」


「ゴブリンたちとの集団戦、僕は遠くから観察してたのさ。それを見て判断した。僕は君たちに絶対に負けないとね」


 幽鬼の突き刺すような手刀打ち。

 それはシャルの頬をかすり、頬から赤い血が流れる。


「うっ……」


 距離を取るシャル。

 すると幽鬼は闇に溶けるようにして姿を消してしまう。


「そこの女性には僕の姿が見えるようだが……君には認識できまい」


「シャル、相手の言う通りだ。見えるボクが相手をするよ」


「アーシャ様……お願いします」


 前に出るアーシャ。

 敵の姿はいまだにハッキリとしていないが、彼女にはクッキリと見えている。

 アーシャは大きく深呼吸し、相手が動くのを静かに見据えていた。

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