第28話 遺跡奥の玉座
「モンスターがいない場所なのかな。全然遭遇しないね」
「アーシャが倒してるからなの。倒した形跡があるなの」
遺跡内ではモンスターが出現せず、警戒していたのがバカらしく思えるほど。
だがその理由は、リリルは私たちには見えない何かが見えるらしく、アーシャが倒していると断定していた。
「何も見えないんだけどなぁ」
「キラキラした小さな粒のようなものが見えるなの。これはモンスターを倒した証拠なの」
「とにかくアーシャ様がモンスターを倒しているのですね。遺跡の中に入ったからといって、強いモンスターがいるわけじゃないということでしょうか?」
遺跡の中のモンスターは危険だと思っていたが、その全てがそうじゃないということだろうか。
問題なのは『ボス』であって、他は普通のゴブリン程度なのかな。
「ゴブリンエースぐらいのがいても大丈夫だけど……それ以上となるとどうなるか分からないよね」
「ええ。アーシャ様はそれを知らないのですから……急がなくては」
アーシャとルキアは森の調査に行ってくれたが、私たちはカトルさんのところに寄って迷うことなく真っ直ぐ遺跡に来ている。
時間差はあれど、そんなに大きく変わらないはず。
私たちは駆け足でアーシャたちを追いかけ、彼女たちを探す。
遺跡の中を進むも、しかしモンスターと遭遇することは無かった。
そしてとうとう一番奥の大きな扉の前に到着し、私たちは息を飲む。
「一番奥ですわよね……もしかしてアーシャ様たちは……」
「大丈夫なはず! 中でモンスターと戦ってるんだよ」
一瞬、シャルが不吉なことを言おうとするが、私は寸前のところでそれを止めた。
悪いことを想像したくない。
でも現実はその通りかも知れない。
私は震える手で、扉を見上げる。
石造りの重たそうな扉。
手で触れてみるも、ビクとも動かない。
私の腕力じゃ動きそうもないな。
「任せてください」
「お願い、シャル」
シャルが扉を開くために手を添える。
すると普通の戸が開くように、あっさりとその口を開いた。
「シャルの力は尋常じゃないの」
「本当、女の子とは思えない腕力だよね」
扉の先には、広大な空間が広がっていた。
壁際に壊れた玉座。
足元にはボロボロの赤いカーペットが入り口から玉座まで伸びていたようだが、その大半が古びて消えている。
そしてアーシャたちは中にいたのだが――その玉座に座って、くつろいでいるようだった。
「やあチドリ、シャル、リリル」
「アーシャ、ルキア……無事だったんだ」
二人の安全を確認でき、私たちはホッとため息を漏らす。
アーシャは満足気に玉座に座って、その上でフワフワと浮いているルキアは苦笑いを浮かべている。
「ここに危険なモンスターがいるって話を聞いたんだけど……」
「あー、あれはアーシャさんが倒しちゃいました。それもあっさり」
「え、もう倒したの?」
「ああ。少々強いモンスターだったみたいだけどね。ちょっとぐらいはいい訓練になったよ」
呆れる私とシャル。
危険なモンスターとは何だったのか。
本当に強いモンスターだったのか、あるいはアーシャが規格外なのか。
どちらにしてもアーシャが勝てるモンスターで良かったと安心するばかりだ。
「モンスターを倒した残光で分かったなの。アーシャが倒したモンスターはゴブリンキング。普通は一人で倒せないぐらい強いモンスターなの」
「ああ、あのおデブちゃん、ゴブリンキングって言うんだ」
「ふくよかなモンスターだったよねぇ。それよりそろそろ帰らない? もう怖くないけど、飽きちゃった」
「だね。玉座でふんぞり返る貴族ごっこはもういいや」
そんな遊びをしてたんかい。
危ないといわれる場所で、何てことをしているのだ。
私とシャルは溜息をつき、余裕のアーシャに近づいていく。
「では帰りましょう。強いモンスターを討伐したのですから、用事はもう無いでしょ」
「では、帰るとしますか。いい運動をしたから、今日はいっぱいご飯を――」
「え?」
ガコン! という大きな音と共に、玉座が後ろにスライドする。
アーシャの体は宙に浮き――足元にできた穴へと落ちて行ってしまった。
「アーシャ!?」
「きゃあああああ!?」
「シャル!!」
するとシャルは何かに押されるようにして、アーシャ同様その穴へと落ちて行く。
私は唖然とするばかりで、下の見えない穴を見下ろすしかなかった。
「ルキア! ふたりのことを見てきて」
「わ、私がぁ!? ちょっとどころか、メチャクチャ怖いんですけどぉ」
半べそをかくルキア。
だが彼女は嫌がりながらも、穴をゆっくりと下りて行く。
「どうしよう……二人とも無事かな?」
「無事なはずなの。二人の気配はまだあるなの」
「そう……なら、とりあえずは安心だね」
リリルは二人の生命活動を視認できるらしく、生きていることを教えてくれる。
問題はどうやって助け出すかだな。
ルキアに連れ上がってもらうしかないかな。
「え……あああっ!?」
だがしかし、玉座が元通りになろうとする。
穴が閉じてしまったらどうしようもない。
私は玉座を手で止めようとするが――私程度の力じゃどうすることもできなかった。
「閉じちゃった……え、どうしよう」
「……誰かがいた痕跡があるなの」
「誰か……他のモンスター!?」
私は振り返り、モンスターを全力で警戒する。
刀に手を当てるが……できればこれを使いたくはないな。
こんな狭くて閉じた場所じゃ、リリルもろともになってしまう。
それだけは何とか避けたいが……
そんな不安を抱いていた私であったが、モンスターが襲ってくるような気配は無い。
「どこかに去ったみたいなの」
「良かった……でも注意しないとね。頭がいいモンスターかも知れない」
「うんなの。単純行動しかしないモンスターだったら問題無いけど、他のモンスターを操るような力があったら……危ないなの」
他のモンスターを操るモンスターか……もしそんな能力があるなら、集団で襲って来た理由に説明がつくな。
ゴブリンキングというのはアーシャが倒したけど、別のモンスターが潜んでいる。
私は緊張感を覚えながら、ゆっくりと入り口の方へと歩いて行く。
「皆は生きているみたいだし、どうしようか」
「モンスターが走った跡が、ぼんやりと見えるなの」
「足跡まで見えるの!?」
「ちょっとだけだけど、追いかけることはできるなの。チドリ様、どうするなの?」
モンスターを追いかけられるみたいだけど……どうするかな。
私じゃ勝てないようなモンスターだったら困るけど、でもここで皆を待っているのも違うような気がする。
「玉座のからくり、そのモンスターがやったことなのかな? もしそうだったら、モンスターに吐かせることも……って、モンスターは口を利けないか」
「リリル、モンスターの言葉をちょっとわかるなの」
「リリル、何でもできちゃうんだね。もう最高!」
「えっへんなの!」
リリルが便利で有能で可愛くて、最高以外の言葉が出ない。
モンスターを捕らえることができれば、玉座を動かす方法を知ることができる。
そうすれば皆を助けることも可能だ。
「後はバレずに追いかけたいんだけど……あ、リリルの能力ならいいけるかも?」
「できるなの。気配を遮断すれば、安全に追跡できるはずなの」
「よし、ならすぐに追いかけよう。足跡が消える前に!」
こうしていまだ姿の見えないモンスターの追跡を開始することとなった。
皆、待っててね。
すぐに助けるからね!




