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第25話 カトル

 リリルとシャルと町の中に入る。

 すると町人たちは、さっきの興奮を引きずったまま私たちに声をかけてきた。


「ああ、お嬢さん! さきほどは町を救ってくれてありがとうございました!」


「すごい方々なのね。確かビルライラの家の方とお聞きしましたけど」


「わたくしたちは当たり前のことをしたまでですわ。それよりもお聞きしたいことがあって参りました」


 私たちは町の人々に囲まれ、身動きを取れなくなってしまう。

 話を聞きに来ただけなのに、大変なことになってしまった。


「あの、ゴブリンがあれだけ大量発生した理由って分かるかな?」


「原因か……さっぱり分からないな」


「確かに、よくよく考えるとおかしな状況だったな。あれだけのゴブリンが現れたことはこれまでに無かった」


「やっぱりそうだよね。でも原因は分からないのか……」


 大量のゴブリンに強襲されたのも初めてのことだったらしく、町の人たちもようやくその異常さを理解したようだ。

 だがこれ以上原因を見つけることはできない。

 そもそも理由なんてあるのだろうか。

 聞いたからって何かが分かるような問題ではなかったのかも知れない。

 

 だがそんな時、一人の男性が苦笑しながら口を開く。


「もしかしたらカトルが原因かもな」


「カトルが? でもあの子、嘘ばかり言ってるだけでしょ」


「嘘が真実になった。あいつはいつも、モンスターがやってくるとか騒いでいるだろ?」


「偶然でしょ。そんなことあり得ないわ」


 カトルというのは、この街に住む青年のようだ。

 町人たちは彼のことを嘲笑するように話をしているようだが……どんな人なんだろう。


「その人って、どこに行ったら会えるの?」


「カトルか? あいつなら海の近くの家に住んでるよ。漁師もせずにモンスターを倒して生計を立ててるって言ってるけど、あれも嘘だろな」


「ホラ吹きのカトル。君たちも会えば、彼がどんな人間かすぐに分かるよ」


「あはは……ありがとう」


 私とシャルは、逃げるようにその場から離れる。

 路地裏に入り、ようやく人々に解放されて大きなため息を吐き出した。


「はぁ……大変だったね」


「そうですわね。チドリ様、カトル様という方に会いに行くのでしょう?」


「うん、そのつもり。今回の件と関係無いんだろうけど、ちょっと気になるんだ」


「噂が本当か確かめに行くなの」


「だね。噂を鵜呑みにするんじゃなくて、自分の目で確かめてみないと分からないことはあるしね」


 私たちは頷き、カトルという人が住んでいる家へと向かうことにした。


「おお、あなたたちはチドリさんとシャルトーチさん! いい魚があるので、どうぞ持ち帰ってください!」


「魚は沢山いただいたのでもういいよー」


「ありがとうございます。今度はお買い物をしに来ますわ」


「そう言わずに。町を救ってくれた女神様たちに、名産品をごちそうしたいんですよ」


 路地裏にいたのだが、とある男性に発見されて声をかけられる。

 シャルと顔を合わせ、やれやれとため息を吐きながら走り出す。


「ごめんなさい、また今度!」


「あ、ちょっと!」


 全力で走り、男性を巻いてカトルという人の家に向かう。


「この町には長いこといられないね」


「ですわね。歓迎してくれるのはありがたいですが、何事にも限度というものがあります」


 手厚くもてなしてくれるのは嬉しいが、シャルの言う通りほどほどぐらいが丁度いい。

 限度を過ぎると、何でも億劫に感じてしまうものだ。

 お願いだから放っておいて。

 そんな風に私たちは感じてしまっていた。


 カトルという人の家はすぐに分かった。

 海の近くの一軒家。

 ここ以外に家は無かったからだ。

 安全面からか、海から距離を離して家を建てているのが大半らしく、逆に海沿いに立っている家は目立っていた。


 私たちは玄関前に立ち、彼がいるか玄関をノックした。


「すいませーん。カトルさんいらっしゃいますか?」


「ごめんください。少しお話を聞かせていただきたいのですが」


 一度ノックし、中に声をかけると――ゆっくりと玄関のドアが開く。

 中から出て来たのは暗い表情をしている男性。

 あまり陽光を浴びていないのか病的に白く、死人のような目をしている。

 髪は白く、痩せた体。

 だが身長は高く、私たちは彼を見上げる形で笑顔を浮かべた。


「あの、カトルさんですか?」


「君たちは?」


「わたくしたちは旅の者です。ゴブリンが大量発生したその原因を判明させようとしているのですが……何かご存じでしょうか?」


「…………」


 こちらを警戒するではなく、ただジッと見据えるカトルさん。

 しかしこんな体型、そして日に当たっていない病弱に見える人が、モンスターを倒して生計を立てるとか本当かな?

 町の人たちが言っていた、『どんな人間かすぐに分かる』ってこういうことか。



「君たちも、僕の話は信用しないだろ?」


「それを確かめるために来ました。もし何か知っていることがあるならお聞かせください」


「そうだね。あなたの話を信じられるかどうか、聞いてから判断するよ」


「僕は誰にも信じてもらえない。そんな状況に辟易する。信じてもらえないぐらいなら、話をしない方がマシだ」


 誰にも信用されない。

 それはきっと誰にとっても辛いことだ。

 他人から嘘つきだと後ろ指を指される生活をして……想像するだけでも辛いのは良く分かる。

 私だったら引きこもるかな。

 そして陽光に当たらない日々が続き……って、まさしく彼の置かれている状況だ。


 彼の心情を思うと、胸がギュッと掴まれたような感覚になる。

 信じてほしい。

 純粋にそう感じているんだ。


「私、信じるよ。あなたは嘘をついていない」


「…………」


「嘘つき呼ばわりされて、悲しい気持ちが分かる。だから私は信じるよ」


「チドリ様が信じるならわたしくも信じます」


「君たち……僕を信じてくれるのか?」


「うん!」


 カトルさんが微笑を浮かべる。

 明るい性格ではないみたいなので、笑顔が苦手なのだろう。

 それでも、彼が喜んでいるのが分かり、私も笑みを浮かべる。


「ゴブリンの発生と関係するかどうか分からないんだが……町の外にある森、通称『ラライヤの森』。そこの奥に、遺跡のようなものがあるんだ」


「遺跡……そこに何かがあるの?」


「そこを強力なゴブリンが根城にしているんだよ。何度か森にモンスター討伐をしに行った時、それを確認できた」


「そうなんだ……じゃあ強いゴブリンがいて、そいつがゴブリンに命令をしてるってことかな?」


「その可能性もあるなの」


「ではそれを探りに参りましょうか? そのゴブリンが原因でしたら、討伐したら全てが解決しますものね」


 カトルさんの説明を受け、シャルがそう提案をしてくる。

 確かに原因らしきそのゴブリンを倒すと、問題は解決するかも知れないが……どうしようか。


「しかし危険だから止めておいた方がいい」


「カトルさんはその遺跡に近づくことができたんだよね?」


「僕は特別なスキルがあるからね。他人に見つかりにくい【隠密】というスキルがね」


「なるほど、だから安全に近づけたってわけだ」


 他人に見つかりにくいとなれば、確かに安全に行動することができる。

 カトルさんだからできた芸当であり、他の人には不可能な行動だ。


「となると私たちが行っても見つかっちゃうわけだ……ま、倒せれば問題無いけどね」


「もしわたくしたちの手に負えない相手だったら……ですわね」


「うん。それだけ危惧してるんだ」


「なら大丈夫なの」


「え?」


 リリルが私の耳元でそう言う。


「どういうこと、リリル?」


「リリルにお任せあれなの!」


 リリルにお任せか……彼女は有能だから、信じて大丈夫だろう。

 そう判断した私とシャルは、迷うことなく頷くのであった。

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