第24話 海鮮丼
それは昼過ぎのこと。
戦いを終え、私たちはキャンピングカーの前である物を眺めている。
町の人たちから感謝の贈り物だと数々の食材をいただいたのだ。
それは新鮮な魚ばかりで、そのキラキラとした魚に皆で感嘆の声を上げる。
「おお……美味しそうな魚だ」
「頑張った甲斐がありましたわね」
「ねえねえ、今回はどんな料理してくれるの?」
「とにかくお腹が空いたよ。このまま食べてもいい?」
アーシャが生で魚を食べようとしている。
流石にそれはダメだと、魚を取ろうとしていた手をピシャリと軽く叩く。
「料理するからちょっと待ってて。すぐにできるから」
魚は切り身にしてもらった物も多く、自分で切らなくても良い状態だ。
お腹が空いたアーシャのためにも、手間のかからない物を用意しよう。
「よーし、早速準備するか」
まず手始めに【ショッピング】で購入していた炊飯器で白米を炊く。
ご飯が無かったら始まらないよね。
もちろん早炊きでスイッチオン。
少し時間はかかるが、先日の分がまだ残っているのでアーシャにはそれを食べてもらおう。
丼の器に白米を入れ、その上に大量の魚を乗せていく。
それだけで料理は完成だ。
「はい、アーシャ」
「これは……何?」
「海鮮丼。言っておくけど、美味しいんだからね」
「へー……いただきます!」
キャンピングカーの前に置いた椅子。
それに座ってアーシャが器を手にする。
アーシャは大食いなので、一人だけ大きな器だ。
彼女の頭ぐらい大きいかな、それぐらいの物の中にある魚たちを見て、彼女はゴクリと息を飲む。
用意したスプーンで切り身とご飯を口に入れ――アーシャは頬を赤く染めていた。
「うまぁいいいい! 何これ? こんな美味しいの初めてなんだけど!」
「ね、美味しいでしょ」
「うん。新鮮な魚に温かい白米。それにこの『ショーユ』というのがたまらなく癖になるね!」
「ショーユ、美味しいですものね。わたくしも気に入りましたわ」
「わー、美味しそうだ。私も早く食べたい」
「チドリ様。こっちでもご飯を炊くなの」
「あ、リリルお願いできる?」
キャンプで使用するクッカーというご飯を炊く機材を使い、リリルは焚き火で作業を始める。
戦闘だけではなくどんな場面でも役に立つ、リリルは本当に有能だなぁ。
「おかわり!」
「ええっ、もう食べたの?」
「うん。だってお腹ペコペコだったし」
「すごいなぁ……でもご飯が炊けるまで待ってね。もう少し時間がかかりそう」
あっという間に完食してしまうアーシャ。
彼女の胃袋はどうなっているのだろうか。
あれだけ食べたのにまだまだお腹が空いているみたいだ。
それに食べる速度、大食いの大会に出ても軽々と優勝してしまうのでは?
そう思えるほどに彼女の食べる早さは尋常では無かった。
それから十分ほど経過し、白米が炊き上がる。
「できたみたい。私たちもご飯食べられるね」
「今日は良い運動をしましたから、わたくしもお腹が空きましたわ」
「私もー。アーシャを運んだし、町の人たち治療したし。もう仕事が多くて大変だったよ」
シャルが大活躍したのは周知の事実だが、ルキアはまさに陰の功労者。
彼女は今回も怪我人の治療を担当し、多くの人を救ったのだ。
そんな彼女たちに、海鮮丼を用意する。
そしてすぐに炊飯器で新しいお米を炊くのも忘れない。
「いただきますわ」
「いただきまーす」
二人は同時に海鮮丼を口にする。
その美味しさに、彼女たちはほっぺが落ちそうなのを止めるように、自分たちの頬を押さえていた。
「美味しいですわぁ。こんなに美味しくお魚を食べるのは初めてです」
「うーん最高! セルシリオの魚は美味しいって聞いたことあったけど、本当に美味しいよね」
「二人も海鮮丼を気に入ったようだね。どうだい、美味しいだろ」
「アーシャ様の手柄みたいに言っていますが、作ってくれたのはチドリ様ですわ!」
ドッと沸く私たち。
アーシャのボケみたいなものに、シャルがツッコむ。
それが何だかおかしくて、私たちは大笑いする。
「ははははは。ところでおかわりは無いのかな?」
「今作ってるよ。ご飯が足りないから皆と同じサイズだけどね」
「それでも構わない。美味しいのを小分けして食べるのもまたいいよね」
海鮮丼を三人前作り、アーシャとリリルに一つずつ手渡す。
「いただきますなの」
「はい。じゃあ私も、いただきます」
手を合わせて海鮮丼を食べさせてもらうことに。
魚を口に入れると、溶けるようにして消えていく。
噛む必要もないほどの柔らかさ、そしてそのうまみ。
ハッキリ言って最高だ。
皆の言う通り、こんなに美味しい魚は初めてだ。
魚の種類は分かってないけど、元の世界でも食べたこと無いぐらい美味しい物だった。
「おかわり!」
「もう食べたの!? それにまだおかわりするんだ……」
「うん。後10杯はいけるかな!」
「あはは……すさまじい食欲ですわね」
「私も食べる方だけど、アーシャさんには負けるなぁ」
アーシャの爆食っぷりに唖然とする私たち。
だけど楽しい食事を堪能し、幸福感に満ちた時間が過ぎていく。
「あー食べた食べた。でもまた食べたいね、海鮮丼」
「本当に10杯以上食べるんだもんな。アーシャの胃袋はどうなってんだろう」
「見てみるかい?」
「胃袋は見れません! 何言ってるんだよ」
冗談っぽくお腹を見せてくるアーシャ。
普段は引き締まり筋肉質である彼女のお腹だが、今はポッコリとしている。
普通の女子はあれだけ食べたら気になるはずなのに、数時間したら収まってるんだから驚きだ。
太らないなんて、本当に羨ましい限りだよ。
でもこっちに来てから、私は太らなくなっていた。
恐らくだが体も若くなり、新陳代謝も上がっているのだろうなと推測する。
「でも今日のゴブリンたちですが、何だったんでしょうね」
「何だったとは、どういう意味?」
焚き火の前で座り、寝息を立てているルキアを横目に、私はシャルの話を聞く。
「突然過ぎませんでしたか? あれだけの数のゴブリンが現れて……何か原因があるとしか思えません」
「確かにそうだね。普通はあれだけの数で行動することなんて無いもんな、モンスターって」
「そうなんだ……原因ね。全く分かんないや」
シャルとアーシャは、何か理由があると考えているようだが、当然そんなこと分かりやしない。
モンスターは単独行動をするのが普通のようだ。
集団で現れても精々数匹。
キラービーのような、大群で活動しているモンスターもいるにはいるが、ゴブリンはそれに当たらない。
だから今回のことは『異常事態』みたいだ。
「少し気になりますわ。このまま旅を続けるのもいいですが、原因究明をしてから先に進みませんか?」
「リリルも賛成なの」
「ボクも賛成かな。あれだけの大群とまた戦闘となると……いい訓練になるしね」
「アーシャは強くなることばっかだね、頭の中」
「ははは。褒めても何も出ないよ」
「褒めてない!」
また笑い合う私たち。
こうして私たちは、ゴブリンの大量発生の原因を突き止めるために動くのを決断する。
「でもどうやって調べたらいいんだろうね」
「手分けして探しましょうか。町の聞き込みと、森の探索を」
「ああ、確かに。森の中にも原因があるかも知れないしね」
「じゃあボクは森の方を当たるよ。聞き込みは得意じゃないし、森の方が戦闘がありそうだしね」
「戦うのが目的じゃないからね。リリルとシャルは、私と町に行こう」
「はい」
「うんなの」
手分けする組が決定する。
アーシャは立ち上がり、大きく伸びをしながら話す。
「ではボクはルキアと森に行ってくるよ」
「はえっ?」
話を聞いていなかったルキアは、突然目を覚ます。
この後、彼女が大騒ぎするのは……説明するまでもないだろう。




