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未完成のまま― 最適解に選ばれなかった僕たちへ ―  作者: はるねこ
第2期

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第62話 炎火残燼

何が起きたのか、分からなかった。

腕の中には、大量の血を流しながら倒れているラウル。

そして、その少し向こう。

1人の男、リンネが立っていた。


カグラ「……」


同じチームのプレイヤー。

それは分かっている。

でも、分からない。

どうして、ここにいる。

どうして、斬られた。

どうして、リンネの手に血が付いている。


カグラ「……リンネ」


頭が追いつかない。

そこに立っているリンネを、見つめることしかできなかった。


バルク「ラウル!!」


全てを見ていた。

ラウルが、何者かに斬られた。

すぐに、屋上から飛び降りようとする。

だが。


バルク「ぐっ……!」


下から吹き上がる熱気。

反射的に腕で顔を覆う。


バルク「くそっ……!まだ熱くて近づけねぇ……!」


ラウルとカグラが、あれだけの火力をぶつけ合った場所。

戦いが止まっても、周囲には凄まじい熱が残っている。


バルク「ラウル……!」


バルクは悔しそうに、歯を食いしばる。

その時、視線が止まった。

ラウル、カグラ、そしてもう1人の男。


バルク「……ん?待てよ」


ラウルとカグラが、あの熱の中にいられるのは百歩譲って分かる。

でも、あの男は。


バルク「……なんであいつ、あん中にいられるんだよ」


燃え盛る炎の中。

その男だけがあまりにも静かだった。


カグラ「……」


カグラは、腕の中のラウルを見る。

ついさっきまで笑っていた。

もう二度と離れないと、そう言ったばかりだった。


カグラ「……リンネ、何したの?」


リンネ「……」


カグラ「ラウルに……何したの?」


リンネは、あまりにも静かに答える。


リンネ「斬った」


リンネの小指には、特に血が付いていた。


カグラ「……なんで」


リンネ「……?」


カグラ「……なんで、ラウルを斬ったの?」


なんの迷いもなく、リンネは答える。


リンネ「シオン様の命令だ。そいつは敵。僕は敵を全て排除しろと命じられただけだ」


カグラ「……っ」


その瞬間。

カグラの中で、何かが切れた。


カグラ「……ふざけんな」


リンネ「……?」


ラウルを、そっと地面へ寝かせる。


カグラ「そんな理由で……ラウルを……!」


火が噴き上がった。

先ほどまでとは違う。

戦いを楽しむ火ではない。

純粋な怒りによる、爆発的な火。


カグラ「絶対に許さない!!」


地面を強く蹴る。

一気に距離を詰める。


リンネ「……カグラ?」


カグラ「ラウルを傷つける奴は!!全員あたいの手で燃やし尽くしてやる!!」


同じチームの仲間。

そんなことはもう、どうでもいい。

今は目の前にいる“敵”が、絶対に許せない。


カグラ「はぁぁぁっ!!」


燃え上がる拳を、リンネへ叩き込む。

その瞬間、リンネは右手を上げる。

そして一本だけ、小指を前へ出した。

そのまま、叩き潰すような勢いで拳を振り抜く。

だが。


カグラ「……っ」


リンネの小指一本で、止められた。


カグラ『くっ……やっぱり……!』


爆ぜる火。

吹き荒れる熱。

それでもリンネは、一歩も動かない。


カグラ「だったら!!」


大きく後ろへ跳ぶ。

両手を大きく広げ、地面に手をつける。


――ゴォォォォォッ!!


周囲の火が一気に集まる。

そして、一斉にリンネへ襲いかかる。


カグラ「火走連華(グランド・フレア)!!」


正面、左右、そして背後。

逃げ場を全て塞ぐ。

そして、火がリンネを呑み込んだ。


――ドォォォン!!


燃え盛る火の中。

徐々に人影が見えた。


カグラ「……!?」


リンネ「……」


一歩ずつ、無傷でゆっくりと歩いていた。


カグラ『……これでもダメなら!』


もう一度火を放つ。

今度は、手のひらから。


リンネ「……無謀」


また小指で受けた。

そして、消える。


カグラ「はぁ!!」


何度も、何度も放つ。

その数は十、二十と増えていく。

だが、結果は同じだった。

避けない、逃げない。

その代わり、全て小指で受け止める。

そして、全て消える。


カグラ「はぁ……はぁ……」


リンネ「何度やっても無駄だ。前から知っていることだろう」


カグラ「じゃあ!あんたはなんで反撃してこないの!!一度勝ったからって手加減してんの!?」


少し間が空く。

カグラからは目を離さないまま。


リンネ「必要がない。お前は僕の敵ではない。排除対象外だ」


カグラ「……あの時は、迷わずあたいを殺そうとしてきたのに」


リンネ「あの時はあの時の命令があったからだ。今は今の命令に従うだけ」


そう言って、リンネはカグラから視線を外す。

その視線の先には、倒れているラウル。


リンネ「敵は排除する」


カグラ「……っ!」


標的は、カグラではなくラウルだった。

リンネの足が動く。


カグラ「待って!!」


一歩、また一歩とラウルへ近づく。

スピードが少しずつ上がる。


カグラ「待ってって言ってんでしょ!!」


――ボォォッ!


リンネに向かって火を放つ。

だが、また小指で受け止める。

そのまま、ラウルとの距離が近くなる。

どれだけ攻撃しても、何をしても届かない。

なら。


カグラ「……!」


カグラは走った。

リンネよりも速く、ラウルの元へ。


――ザッ!


両腕を広げる。

ラウルを庇うように。


リンネ「なんの真似だ?そこを退け」


カグラ「嫌!」


リンネ「そいつは敵だ」


カグラ「だから何よ!!あんたには関係ないことでしょ!!」


カグラの足元から、再び火が燃え上がる。

絶対に一歩も退かない。


カグラ「ラウルを殺すなら!!あたいがあんたを殺してやる!!」


リンネを睨みつける。

怒りに満ち溢れた、赤い瞳で。


リンネ「……」


リンネの足が止まった。

敵を排除する。

シオンから与えられた命令。

そのためには、目の前のカグラをどうにかする必要がある。

押し退ける。

戦闘不能にする。

もしくは、排除する。

だが。


リンネ「……っ」


目の前のカグラは仲間。

排除の対象ではない。

仲間を傷つける命令は受けていない。

でもそれでは敵を排除できない。


リンネ「……」


数秒、沈黙する。

リンネはカグラを見たまま、動きが止まる。


カグラ「……何よ」


リンネ「……排除が不能だ」


カグラ「……え?」


リンネ「そいつの排除には、お前の排除が必要だ。しかし、お前は現状味方。仲間の排除命令は受けていない」


カグラ「……」


リンネ「命令外の行動はできない」


リンネはラウルから視線を外す。

再び、カグラに視線を戻す。


リンネ「一時的に敵の排除を中断する」


カグラ「……!ほんと……?」


リンネ「ただし、お前の行動はシオン様へ報告しておく」


カグラ「……っ」


リンネ「敵を庇い、仲間である僕への攻撃をした。全て報告する」


一つずつ、確認するように告げていく。


カグラ「……勝手にすれば」


リンネ「そうする。その後」


僅かに、間を空ける。


リンネ「シオン様はお前を排除する命令をするだろう。僕は迷わず、その命令に従う」


迷いなど無かった。

冷たく、当たり前のように告げる。


カグラ「……もう、好きにして」


リンネ「……今回は、運が良かったな」


全て告げ終わると、リンネはカグラに背を向けた。


――ザッ


一瞬にして、その場から消えた。


カグラ「……」


カグラは追わない。

追う理由は無かった。

今、カグラにとって大切なのは。


バルク「ラウル!!」


バルクが地面へ飛び降りる。

熱はもう、充分収まっていた。

着地と同時に、大きな揺れが起きる。


バルク「おいラウル!しっかりしろ!!」


ラウルの傷を見る。

肩から腹に向かって深い傷。

まだ血が出ている。


バルク「やべぇぞ、これ……」


表情が大きく変わる。


バルク「すぐに治さねぇと……」


カグラ「……待って」


カグラはラウルの傍に寄る。

そして、ラウルの腕を優しく抱きしめる。


カグラ「……あたいも助ける」


バルク「……」


カグラ「ラウルは絶対に、あたいが守りたい」


少し前まで、カグラはラウルと本気で戦っていた。

笑い合いながらも、巨大な火柱を作り、互いに倒そうとしていた。

そしてカグラは、敵側。

本来なら、敵対する存在。


バルク「お前、さっきの奴に攻撃してたのは見た。ラウルを庇ったのもな」


カグラ「だったら……!」


バルク「だから分かんねぇんだよ。お前……どっちの味方なんだ?」


カグラ「……」


火の音だけが聞こえる。

でも、迷う必要なんて無かった。


カグラ「……最初は敵だったよ。全員、倒すつもりでいた。本気で」


そっと、ラウルを見る。


カグラ「でも、もう無理。だって、あたいが大切にしてる人に出会っちゃったから」


昔、好きだった人。

ずっと、心に残っていた人。

その手は絶対に離さない。


カグラ「ラウルがそっちにいる以上、こっちが勝つわけにはいかない」


バルク「……」


バルクはカグラを見る。

正真正銘の敵。

簡単に信用できるわけがない。

でも、全部見ていたから分かる。

ラウルが斬られた瞬間、真っ先にラウルを受け止めた。

あの男に、怒りをぶつけた。

攻撃が一切通じなくても退かなかった。

そして、ラウルを殺すなら自分が前に立つと、身を挺して守った。

少なくとも今、この女がラウルを傷つけることはない。

それだけは分かった。


バルク「……分かった」


カグラ「……!」


バルク「でも」


指をカグラへ向ける。


バルク「まだ完全に信用したわけじゃねぇぞ。さっきまで敵だった奴に、いきなり背中預けられるほど俺は馬鹿じゃねぇ」


カグラ「……っ」


バルク「だから、お前が本当にこっち側だってことをこれから見せろ」


カグラは少し目を見開く。

そして、笑った。


カグラ「いいよ。いくらでも見せてあげる」


火が小さく、カグラの周囲で揺れる。

でもその火が、ラウルやバルクへ向けられることはもうなかった。


カグラ「だからまず、ラウルを助ける。絶対に、死なせないから」


バルク「……ああ、当然だ」


バルクは再び、ラウルの傷を見る。


バルク「なら、早く治さねぇとな」


カグラ「治せる人、いるの?」


バルク「いるぜ。アイラって奴だ」


カグラ「……アイラ」


バルク「俺たちの仲間で傷を治せる。敵であるお前が一緒にいても、アイラなら仲良くしてくれるだろう」


カグラ「ほんと……!」


その言葉に、僅かに表情が明るくなる。


カグラ「じゃあ、その人を探せば……!」


バルク「ああ、助けられるかもしれねぇ」


助かる。

その可能性が、まだある。


カグラ「……よかった」


小さく息を吐く。

安心したように。

だが、その直後。


カグラ「……あっ、待って」


バルク「?」


カグラは、何かを思い出した。


カグラ「治すだけなら、エデンもできる」


バルク「エデン?」


カグラ「うん、こっちの仲間で……あっ……」


言いかけて止まる。

こっち。

今までならそう呼べた。

でも、もう違う。


カグラ「やっぱり無理だ。エデンのところには行けない」


バルク「……なんでだ?」


カグラ「もし、リンネの報告が済んでいたらあたい、何されるか分からない。ましてやラウルも……」


バルク「……確かにな」


エデンがどう判断するかは分からない。

助けてくれるかもしれない。

だが、攻撃される可能性も充分にある。

何より、今のカグラにはその保証ができない。


カグラ「ラウルの命までは賭けられない。やっぱり、アイラって人を探そ」


バルク「そうだな。エデンは無しだ」


カグラ「うん」


バルクは周囲を見る。

燃え続ける広場。

崩れた建物。

巨大な火柱も、既に弱くなっている。


バルク「アイラがどこにいるかは分からねぇ。でも、すぐに見つけるしかない」


カグラ「うん!」


そしてバルクは、ラウルを背中に優しく担ぐ。

カグラも手を貸す。

敵だった二人が今、1人の男を助けるために同じ方向を向いている。


カグラ「待っててね」


意識のないラウルへ、小さく語りかける。


カグラ「今度は、何も言わずにいなくなったりしないから」


ラウル「……」


カグラ「だから」


少しだけ、声が震える。


カグラ「ラウルも、勝手にいなくならないでよ」


バルク「……行くぞ」


カグラ「……うん」


2人は走り出した。

目的は一つ。

アイラを見つける。

そして、ラウルを助けること。



その頃。

別のビルの屋上。


???「シオン〜」


シオン「なんだ?」


???「例のハッキング、僕ちゃん天才だからもうすぐ終わりそうな〜の」


シオン「そうか、さすがシンマだな」


シンマは再び、空中に浮かぶ画面へ視線を落とす。


シンマ「僕ちゃんったらほんとに天才!」


シオン「あぁ、天才だ」


シオンの目線は、まっすぐ向いていた。


シオン「これなら、予定通り進めるな」


To be continued…

第63話 死の号令

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