第63話 死の号令
シンマ「ここをこうして……っと」
最後の文字列が書き換わる。
シンマの指が止まった。
一瞬の静寂と共に、ニヤリと笑う。
シンマ「はい完了〜!やっぱり僕ちゃん天才〜」
シオン「終わったか。それで」
シオンは画面へ視線を向ける。
シオン「どこまでできる」
シンマ「ん〜そうだね〜」
シンマは画面に並ぶ文字列を、指でなぞりながら眺める。
シンマ「さすが高性能AIって感じだね〜。見た目の割にちゃーんと作られてる〜の。普通ならハッキングなんて無理無理〜」
胸を誇らしげに少し張る。
シンマ「で〜も〜、僕ちゃん天才だからこんなセキュリティ問題なし!」
シオン「……そうか」
シンマ「とは言っても〜、好き放題できるわけじゃない〜の」
空中に浮かぶキーボードを叩く。
そして、画面に五つの赤い点が表示される。
その点は、僅かに動いていた。
シンマ「僕ちゃんから一定範囲内にいるミニクリオだけ。それと、同時に乗っ取れるのは五体までが限界かな〜」
シオン「五体か……」
シンマ「セキュリティの防御が結構しぶとくてさ〜。これ以上やったら気づかれるか、弾かれる〜の」
シオン「いや、十分だ」
シンマは楽しそうに五つの反応を見る。
そして、シオンへ目を向ける。
シンマ「でも〜、ほんとにやる〜の?あっちから返り討ちにされるとか〜……」
シオン「安心しろ」
シオンの声がさらに低くなる。
目線は動かさず、画面だけを見つめている。
シオン「俺にはやらなければならないことがあるんだ」
少し間が空いたが、シンマはすぐに。
シンマ「りょ〜かい!あっ!そうそう、念の為リオネちゃんにも許可取らないとね〜。ミニリオネちゃ〜ん!」
空に向かって呼ぶ。
その時、シンマの目の前に姿を現した。
その姿は、リオネよりも一回り、二回り小さい。
ミニリオネ「呼び出しを確認」
シンマ「ねぇねぇ〜、ちょっと許可が欲しいことがあってさ〜」
ミニリオネ「内容は把握済み」
シンマ「ん?」
一瞬、目を丸くする。
シンマ「もしかして〜、全部聞いてた〜の?」
ミニリオネ「肯定」
その言葉を聞き、シンマの顔が笑顔になる。
シンマ「さっすが〜!話が早い〜の。じゃあハッキングしてもいい〜の?」
僅かな間が空く。
そして、再びミニリオネの口が開く。
ミニリオネ「該当行為をプレイヤーによる戦術的干渉と判断。実行を許可」
シンマ「やった〜!これで僕ちゃんは合法天才ハッカーな〜の!」
シンマはすぐさま画面へ向き直る。
そして、キーボードに指を伸ばす。
シンマ「それじゃ、始める〜の」
シオン「ああ、やってくれ」
キーボードのEnterボタンに指が触れる。
――カチッ
その瞬間。
シンマたちの近くにいる5人のプレイヤー。
その傍らで五体のミニクリオが、同時に動きを止めた。
見た目は、何も変わっていない。
表情も、声も、動きも。
ただ一つ、その五体がこれから伝える言葉だけは、もうクリオの意思ではなかった。
その頃。
5人のプレイヤーの元で、ミニクリオが反応する。
ミニクリオ「近隣の広場への移動を推奨します」
???「広場?」
ミニクリオ「仲間との合流を推奨します」
???「……分かった。行こう」
別の場所。
???「あら?そっちから話しかけてくれるなんて珍しいわね」
???「ねぇ、そこにみんながいるの?」
ミニクリオ「はい」
???「ほんと?じゃあ行きましょう」
???「そうですね」
さらに別の場所。
???「……急だな。そこに行けばいいのか?」
ミニクリオ「合流を推奨します」
???「了解」
そして、また1人。
???「……理由は」
ミニクリオ「仲間との合流を確認できます」
???「……分かった」
こうして5人は、同じ場所へと向かい始めた。
しかし、5人は知らない。
自分たちを導いているその声が、既にクリオのものではないことを。
崩壊した高層ビル。
地割れした道路。
吹き抜ける風の中を、カイは走っていた。
カイ「はぁ、長時間走るのは疲れるぜ」
少し前、ナギと激闘を繰り広げていた。
あれほどの戦いの後、まだ誰とも合流できていなかった。
カイ「どっかから微かに音はするんだけどなぁ。全く見つかんねぇよ」
1人で苦笑する。
その時、カイの足が止まる。
カイ「……誰も見つかんねぇし、もういいや」
カイは振り返る。
そこには誰もいない。
だが、ビルの陰。
カイはそこを見ていた。
カイ「おい、そこにいるんだろ」
その言葉と同時に、何かが動いた気がした。
カイ「隠れてるつもりだろうけど、バレバレだぞ」
返事はない。
――ヒュウゥ
崩れた街の間を、風が吹き抜ける。
道路に転がる小さな瓦礫が、カラカラと音を立てた。
カイ「……出てこねぇなら、こっちから行くぞ」
右足を一歩前へ出す。
足元に、僅かに風が集まり始めた。
その時。
――ザッ
ビルの陰で、何かが動いた。
カイ「……やっと出てきたか」
ビルの陰から、一つの人影が姿を現した。
銀白色の髪を持つ、細身の少年。
光を映すような淡い水色の瞳。
整った顔立ちには、ほとんど表情がない。
そして、別の方向からも1人、姿を現す。
淡い灰色の長い髪をふわりと揺らす少女。
小柄で細身の体格で、灰青色の瞳。
その姿は、少し目を離せば景色に溶けてしまいそうだった。
その反対側。
また1人姿を現す。
黒に近い紫色の長髪を持つ背の高い少女。
濃い紫色の瞳が静かにカイを見つめる。
ただ立っているだけなのに、妙な圧を感じさせた。
カイ「1人じゃねぇと思ってたが、まさか3人とはな」
カイは3人を順番に見渡す。
その時、カイの目に文字列が映し出される。
《接触確認》
イプシー
・属性:鏡
・ランク:Ⅳ 《異常個体》
《接触確認》
ニユ
・属性:霧
・ランク:Ⅳ 《異常個体》
《接触確認》
クオミ
・属性:重力
・ランク:Ⅳ 《異常個体》
イプシー「バレていたのかい。それならもう少し早く仕掛けるんだったね」
ニユ「……疲れた」
ニユは息を切らしながら、肩を落とす。
ニユ「ずっと走ってばっかりで大変……」
カイ「いや、知らねぇよ」
クオミ「ほんと走りすぎ!追いかけるこっちの身にもなってよ!」
カイ「だから知らねぇって」
呆れながらも3人を見る。
そして、ニヤリと笑った。
カイ「にしても、3対1とはな。そうでもしなきゃ、俺には勝てねぇのか?」
明らかな挑発だ。
だが、イプシーは表情一つ変えなかった。
イプシー「うん」
カイ「……あ?」
あまりにも、あっさりと認めた。
イプシー「少しだけど、ナギとの戦闘を見て分かったよ。僕1人じゃ、君には勝てないってね」
カイ「随分と素直だな」
イプシー「勝てないものは勝てないからね」
そして、イプシーは隣の2人を見る。
ニユ「……」
クオミ「ふふっ」
イプシー「でも、僕たち3人なら負けないよ」
カイの表情が変わる。
さっきのような明るい表情は、どこにもなかった。
カイ「言ってくれるじゃねぇか。俺は最強に認められた準最強だぞ。お前らなんかに負けてたまるか」
クオミ「その余裕、いつまで続くかな?」
ニユ「……早く終わらせたい」
クオミ「ニユ、もう少し我慢してね」
ニユ「……うん」
カイ「……ったく」
カイの足元から、風が巻き上がる。
髪が勢いよく揺れる。
カイ「なら、試してみろよ。お前ら3人で、この準最強の俺を倒せるのかをよぉ」
3人もそれぞれ、カイを見据える。
イプシーが一歩前に出る。
イプシー「なら、見せてあげるよ。1人じゃ勝てなくても、3人なら勝てるってことを」
その瞬間。
――ヒュウゥゥ……
カイを中心に、風が渦を巻き始める。
イプシーの傍らでは、光が歪む。
まるで空間そのものが鏡へ変わっていくように。
ニユの足元からは、白い霧が静かに広がっていく。
そして、クオミからの圧が僅かに重くなった気がした。
カイ「……へぇ」
それを見ても、カイは退かない。
むしろ、口元を吊り上げる。
カイ「面白ぇじゃねぇか」
風、鏡、霧、重力。
四つの力が、同時に動き始める。
1対3。
圧倒的不利な戦いが今、幕を開ける。
To be continued…
第64話 もう一つの戦場




