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未完成のまま― 最適解に選ばれなかった僕たちへ ―  作者: はるねこ
第2期

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第60話 炎火残響

巨大な炎と火が広場を駆け抜ける。

空間の全てが熱で埋め尽くされていた。


ラウル「オラァァァ!!」


振り抜いた右腕から炎が放たれる。

最初の時とは違う。

カグラの身体を呑み込めるほどの炎。


カグラ「よっと!」


炎が迫る直前、カグラは地面を蹴る。

身体を捻り、髪の軌道にそって火が回転する。

炎がそのすぐ横を通り過ぎる。


ラウル「こいつも喰らえぇ!!」


再び、腕を振る。

さっきよりも炎の火力が上がっている。


カグラ「遅いよ!!」


身体を沈める。

カグラの頭上を、炎が通過する。

そのまま地面に手をつき、身体を回転。

立ち上がると同時に。


カグラ「次はあたいの番!!」


両腕を広げ、その場で回転する。

その時、足元に火が灯る。

カグラが回転する度に、火が大きくなる。

そして。


カグラ「いっけぇ!!」


止まると同時に、周囲を舞っていた火が一斉にラウルへ襲いかかる。


ラウル「受けて立つぜ!!来い!!」


両足を開き、その場で構える。

火がラウルを呑み込む、その直前。


ラウル「はぁぁぁ!!」


ラウルの身体から炎が湧き上がった。

爆発により、広場が揺れる。

火を押しのけるように、炎が周囲を吹き飛ばす。


カグラ「やっぱりそれじゃ効かないか!」


ラウル「当たり前だ!!もっとでけぇやつくれ!!」


再びカグラが舞う。

ラウルが炎を放つ。

カグラが避け、火を放つ。

ラウルが真正面から吹き飛ばす。

ずっと、この状況が続いていた。

戦いが終わる気配はない。

終わるどころか、2人の戦いはさらに熱を増していく。

その時。

少し離れた場所で。


バルク「まじかよ……」


バルクが足を止めた。

まだ広場が見えていないのに、異常なほど熱かった。

空気そのものが焼けているように。

額の汗を拭う。

そして、ビルの角を曲がる。

その瞬間。


――ドゴォォォン!!


バルク「っ!?」


急な爆風に、腕で顔を覆う。

熱風が身体を焼き付ける。


バルク「なんだよ、この熱さは!」


ゆっくり腕を下ろす。

そして、広場を見た。


バルク「……っ」


言葉が止まった。

地面が黒く焦げ、至るところに亀裂。

ビルの壁は砕け、窓ガラスは溶けている。

そして、その中心には二つの人影が見えた。


バルク「……ラウル、やっぱりあいつか」


思った通り、ラウルだった。

後ろ姿だけでも分かる。

だが、この火柱の中にもう1人いる。


バルク「もう1人は誰だ……?」


炎の向こうにいる、もう1人の姿。

目を細める。

そこにいたのは、笑顔で踊っている少女。

いや、踊りというよりは舞。

ラウルの顔も一瞬見える。

やはり、笑っていた。

お互い、笑いながら戦っている。


バルク「何やってんだ、あの2人……」


再び炎と火がぶつかる。

その度に、熱風が広場全体へ吹き荒れる。


バルク「熱っ……!」


腕で顔を覆う。

2人とは離れているのに、立っているだけで皮膚が焼けそうになる。


バルク「あいつらはなんで汗一つかいてねぇんだよ……!」


その声が届いたのか。


ラウル「……ん?」


ラウルが一瞬、後ろを振り向く。

炎の向こうに、誰かが見える。

腕で顔を覆いながら立つ、大柄な男。


ラウル「あれは……バルクか!?」


ラウルがこちらに気づき、バルクは顔を見せる。


バルク「よぉラウル!相変わらず元気でやってるようだな!!」


ラウル「まぁな!」


その瞬間、カグラの火がラウルへ迫る。


ラウル「おっと!」


咄嗟に炎を放つ。

火と炎がぶつかり、再び爆発を起こす。


カグラ「ちょっと!よそ見してちゃダメだよ!!」


ラウル「わりぃわりぃ!急に俺の仲間が来たからよぉ!」


カグラ「仲間?」


カグラはラウルの視線を追う。

その先の広場の端に、大柄な男が立っていた。


カグラ「あっ!ほんとだ!!」


バルク「……?」


カグラと目が合う。

するとカグラは、にっと笑った。

そして、大きく手を振る。


カグラ「やっほー!!」


バルク「……あ?」


思わず間の抜けた声が出る。

敵、のはずだ。

なのに、なぜ笑顔で自分に手を振っている?


バルク「……なんだあいつ」


ラウル「ははっ!!」


バルク「あ!おい!今お前笑っただろ!!」


ラウル「いやー今の顔、面白かったなぁ!」


ラウルは構わず笑い続ける。


カグラ「ねぇ!あの人も強いの?」


ラウル「あぁ!強ぇぞ!」


カグラ「へぇー!」


興味深そうにバルクを見る。

バルクは熱に負けじと一歩踏み出す。


バルク「なぁラウル!俺も入れてくれよ!!」


ラウルはバルクを見る。

そして、笑顔で。


ラウル「来るな!!」


バルク「……はぁ!?なんでだよ!!」


ラウルは拳を握る。

炎が再び燃え上がる。

視線はもう、カグラだけを向いていた。


ラウル「こいつは俺が求めてた最高の相手なんだよ!こんなに楽しいと思えたのは初めてだ!だから!ここは俺1人で決着をつけさせてくれ!!」


バルク「……で、でもよ!俺だって戦いた――」


カグラ「いいね!!それ!!」


バルクの言葉を遮るように、カグラは叫ぶ。


カグラ「あたいも2人だけでやりたい!」


バルク「……」


ラウル「だってよ、バルク!それかあれかお前、女の言うことも聞かねぇとか言わねぇよな!?」


眉間にしわが寄る。

戦いたい、でもそれをラウルは拒否してくる。

それに、この炎と火の中。

熱すぎて入るのも一苦労。

でも、戦いたい。

でも。


バルク「……分かった。分かったよ!!お前たちで戦ってろ!!でも俺は納得してねぇからな!!」


ラウル「おう!あんがとよ!!」


そのやり取りを見て、カグラが笑う。


カグラ「ごめんねー!でも、これだけは譲れないから!」


バルク「……ったく、好きにしろ」


炎を纏うラウル。

火を纏うカグラ。

どちらも、楽しそうに笑っている。


バルク「お前がやられても知らねぇからな!!」


ラウル「へへっ!やられるわけねぇよ!!」


カグラ「ふふっ!強気じゃん!!」


ラウル「当たり前だ!!」


再び、2人の間に火花が散る。

その様子を見ながら、小さく呟く。


バルク「……本当に敵同士なのかよ……あいつら」


その時、ラウルとカグラから放たれる熱気が、広場全体を包み込む。


バルク「……くそっ、ここにいたら丸焦げになっちまう」


辺りを見渡す。

そして、近くに建つビルに視線を向けた。

壁は少々砕けているが、崩れることはないだろう。


バルク「……あそこならマシか」


ビルに近づく。

そして、壁に手をかける。

外壁の僅かな出っ張りを掴み、そのまま身体を持ち上げた。

窓枠、壁の凹凸、僅かに飛び出した足場。

それらを掴み、大きな身体を次々と上へ運んでいく。


バルク「俺も戦いたかったな……」


そして、屋上の縁へ手をかける。


バルク「よっ……!」


――ドンッ


一気に身体を持ち上げ、屋上へ着地した。

ここまで離れれば、熱は多少マシだ。

バルクは屋上の端まで歩き、座り込む。

そして、下を覗き込んだ。


バルク「……ったく、そこまで言うなら見届けてやるよ」


その時。

ラウルが拳を構えた。

カグラも再び足を動かす。


ラウル「待たせたな!!」


カグラ「いいのいいの!じゃあ!」


カグラの周りの火が徐々に強まる。


カグラ「続き、始めよっか!!」


ラウル「おう!!」


再び、火力勝負が開幕する。

カグラが地面に手を触れる。


カグラ「火走連華(グランド・フレア)!!」


足元から火が噴き出る。

だが今回は違う。

一つではなく、三つに増えている。

三方向からラウルに迫る。


ラウル「はははっ!!いいじゃねぇか!!」


その時、ラウルは両腕を大きく広げる。

炎がラウルの身体へ集まっていく。


ラウル「爆炎放射(ブレイズバースト)!!」


巨大な炎が一直線に放たれた。


――バァァァン!!


連続して追っていた火が、次々と吹き飛んでいく。

そのまま炎は、地面を薙ぎ払う。


カグラ「うわっ!」


爆風により髪が大きく揺れる。

それでも、カグラは笑っていた。


カグラ「あははっ!やっぱり威力が凄いなぁ!!」


ラウルは、炎を纏った腕をカグラへ向ける。


ラウル「ここまで戦ってるんだ!もう俺の炎は誰にも止められねぇぜ!!」


カグラ「なら!あたいがその炎、止めてあげる!!」


ラウル「望むところだぁ!!」


その頃、屋上では。


バルク「……」


広場を見下ろす。

地面は火で埋め尽くされていて、炎がそれを吹き飛ばしている。

小さく、息を吐く。


バルク「……相変わらず、馬鹿みてぇな火力だな。あいつは」


そして、視線をカグラへ移す。


バルク「……それについていってる、あいつも大概だけどな」


しばらく、2人を見つめる。

そして、頭を掻きながら。


バルク「こりゃあ、行かなくて正解だったかもな」


――ゴォォォ!!


ラウル「灼炎剛拳(ブレイズ・ブロウ)!!」


炎を纏った拳がカグラを襲う。


カグラ「よっ!」


間一髪、横へ一歩避ける。

そのまま身体を回す。


ラウル「っ!」


髪が大きく広がる。

足を運び、火の間を抜け、再び舞う。


ラウル「……」


ほんの一瞬、目がその姿を追った。


カグラ「そこ!!」


ラウル「!」


ラウル目掛けて巨大な火が飛ぶ。


ラウル「っと!」


腕に炎を纏い、正面から弾き飛ばす。

こちらも間一髪だった。


カグラ「あははっ!!今よそ見したでしょ!!」


ラウル「……してねぇよ!!」


もう一度、炎を放つ。


カグラ「わっ!」


華麗に炎に沿って横に跳ぶ。

そして、綺麗に着地する。


カグラ「もう!図星なんだから!!」


ラウル「うるせぇよ!!」


カグラ「あはっ!!」


また、2人の火力が上がる。


ラウル「……」


戦いながら、ラウルは一瞬だけ考える。

さっき、なぜカグラの姿を見ていた?

今さら、気になるようなものではないのに。


ラウル『なんだったんだ……?』


だが、ラウルは考えるのをやめた。

ただの気のせい。

そう思わせた。

少しして、カグラは地面を蹴る。

ラウルへ一気に近づく。


カグラ「もらった!!」


ラウル「甘ぇ!!見えてんぞ!!」


既に構えていた拳を振り上げる。


カグラ「!」


その寸前、一瞬で横へ逸れる。

炎を纏った拳が空を切った。

カグラはラウルの横を通り抜ける。

その瞬間。


カグラ「……?」


視界の端。

炎の中で笑うラウルの横顔。

ほんの一瞬。

胸の奥に、何かが引っかかった。


カグラ「……」


舞っていた足が、僅かに止まる。


ラウル「隙ありぃ!!」


カグラ「うわっ!!」


咄嗟に後ろへ跳ぶ。

炎が、カグラの目の前を通過した。


ラウル「お前こそよそ見してんじゃねぇか!!」


カグラ「……してない!」


ラウル「してただろ!」


カグラ「してないって!!」


言い終わる前に、火を放つ。


ラウル「おっと!」


ラウルは笑いながら避ける。


カグラ「……」


その姿を、一瞬だけ見つめる。

だが、気にせず笑う。

そして、地面を強く蹴った。


ラウル「もっと来いよ!!」


カグラが、一気に距離を詰める。

右へ、左へ、炎の間を縫うように駆け抜ける。


ラウル「おらぁ!!」


カグラ「ふっ!」


放たれる炎を、身体を逸らして避ける。

そのまま、足を軸に一回転。


ラウル「……」


また。

一瞬、カグラの動きから目が離せなくなる。


ラウル「……?」


カグラ「どうしたの?」


その姿を見て、カグラも動きを止める。


カグラ「さっきから、ちょっと変だよ?」


ラウル「……」


カグラ「疲れた?」


ラウル「……んなわけねぇだろ!!まだまだ燃え足りねぇよ!!」


カグラ「あははっ!!まだいけるね!!」


再びぶつかり合う。

炎がぶつかり、火がぶつかる。

何度も、何度も止まらない。

2人の火力は更に上がっていく。

なのに。


ラウル「……」


カグラ「……」


別の何かが、少しずつ2人の中で大きくなっていた。


バルク「……ん?」


腕を組みながら、バルクは見下ろす。

相変わらず凄まじい火力。

一度ぶつかるだけで、広場が揺れる。

それなのに。


バルク「……なんか変、だな?」


少しだけ違和感。

攻撃の合間、ほんの一瞬。

お互いの顔を見ている。

さっきまで無かったはずなのに。


バルク「……何かあったのか?」


当然答えは出ない。

それでも、バルクは2人を見続けた。


ラウル「……?」


カグラの舞を見る度に、何か引っかかる。

さっきまで無かった違和感が。


ラウル「……なんだよ、これ……」


カグラ「……?」


目の前のカグラを見る。

知らないはずだ。

今日、初めて会った。

カグラという名前も、今日初めて知った。

なのに、妙に引っかかる。


ラウル「……」


声、表情、そして何より、カグラの舞う姿。

それでも、拳を握る。


ラウル「……続けようぜ」


カグラ「……うん!」


少しだけ不思議そうな顔をする。

だが、すぐに笑った。

ラウルが炎を放つと、カグラはそれを避ける。

身体を傾け、足を運び、くるりと回る。

髪が宙へ広がる。

火の粉がその周囲を舞う。

その美しい姿を見た瞬間。

ラウルの拳が止まった。


ラウル「……」


カグラ「……?」


カグラの舞も止まる。

またこの感覚。

さっきより強い、胸の引っかかり。


ラウル「なんでだ……?」


胸が妙にざわつく。

知らないはず。

知らないはずなのに、初めて見るはずなのに。

この舞を、ずっと前から知っているような。


カグラ「……大丈夫?」


カグラは心配しながらラウルを見つめる。

そして、ゆっくりともう一度足を動かした。

一歩、身体を捻る。

二歩、腕を広げる。

三歩、その場で回る。


ラウル「……っ」


その瞬間、何かが重なった。

目の前の炎、焼けた広場、舞うカグラ。

その奥に、一瞬だけ別の景色が見えた気がした。


ラウル「……今の」


言葉が止まる。

頭の奥に、ずっと沈んでいた何かが僅かに動いた。


ラウル「……どっかで……」


そしてもう一度、カグラを見る。

火の中で舞う少女。

その姿をラウルは、確かに、どこかで見たことがあった。

ずっと昔。

まだ、互いの名前すら知らなかった頃に。


ラウル「……お前……その舞……」


かつて忘れようとしていた記憶が、動き始める。

To be continued…

第61話 炎火追憶

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