第59話 炎火高揚
カグラの能力《神楽燃焼》。
自身の火を操り、触れた対象や物体を燃やす能力。
カグラの火は、一度燃えると簡単には消えず、その場に残り続ける。
さらに、カグラが舞えば舞うほど、火力が上昇する。
対して。
ラウルの能力《指数加熱》。
自身から高火力の炎を発生させる能力。
ラウルの炎は、強大な火力で吹き飛ばすことに特化している。
さらに、ラウルは戦えば戦うほど、火力が上昇する。
2人の能力には、一つだけ共通していることがある。
戦いが長引けば長引くほど、2人の火力は上がり続ける。
そして、両者の火力に上限は存在しない。
先に動いたのは、カグラだった。
地面を蹴り、ラウルから距離を取る。
そのまま片足を軸に身体を大きく回転させた。
一回転、二回転。
カグラの周囲を火が追う。
火は途切れることなく円を描き、次第に大きな輪へと変わっていく。
――ボォォォッ!!
カグラの頭上に、巨大な火の輪が完成する。
カグラ「まずはこれ!」
両腕を大きく振り抜く。
カグラ「灼火旋輪!!」
巨大な火の輪が放たれた。
回転しながら勢いよく突き進む。
周囲へ大量の火の粉が撒き散らされる。
真正面から迫る、巨大な火の輪。
だが、ラウルは動かない。
避けない。
むしろ、一歩前へ出た。
ラウル「いいぜ……!来い!!」
両腕から炎が噴き上がる。
――ゴォォォッ!!
炎を纏った両腕を前へ構える。
そして、火の輪と衝突した。
ラウル「ぐっ……!」
両腕で真正面から受け止める。
火の輪は止まらない。
激しく回転しながら、ラウルの身体を後ろへ押していく。
それでも、ラウルは倒れない。
ラウル「……ははっ!!」
腕に纏う炎がさらに強くなる。
両腕に力を込める。
ラウル「この程度で俺を押し切れると思うなよぉ!!」
左右へ一気に腕を開いた。
カグラ「え……」
巨大な火の輪が、真ん中から引き裂かれる。
二つに割れた輪がラウルの左右を通過し、背後の地面へ激突した。
両腕から炎を噴き上げながら、真正面にいるカグラを見据える。
ラウル「次!!」
カグラ「……まじかー」
一瞬だけ目を見開く。
だが、すぐに笑った。
カグラ「いいね!最高!!」
再びカグラが舞い始める。
その度に、広場に残された火が大きくなる。
カグラ「だったら……!」
両腕を大きく広げる。
その瞬間、広場中に残されていた火が一斉に揺れた。
ラウル「……!」
カグラの周囲へ、次々と火が集まる。
小さかった火が重なり、混ざり合い、一つの巨大な火へと変わっていく。
ラウル「おいおい……!迫力ありすぎだろ……!」
目の前に広がるのは、大きな波。
広場を覆い尽くすほどの巨大な火の津波。
カグラの姿が、その向こう側へ消えていく。
カグラ「火海奔流!!」
火の津波が押し寄せる。
地面を呑み込み、瓦礫を呑み込む。
逃げ場などない。
真正面から、巨大な火の海がラウルへ迫る。
それでもまだ、ラウルは笑っていた。
ラウル「へへっ!さっきよりも燃えてきたなぁ!!」
右足を引き、腰を落とす。
そして、全身から炎が噴き上がった。
ラウル「そうだ!!もっと燃やせぇ!!」
さらに、さらに炎が身体を覆う。
地面を踏み砕く。
ラウル「その方がぶち破り甲斐があるからなぁ!!」
ラウルは動かない。
ただ、その場で構えている。
カグラ「また避けないの……!?」
ラウルの髪が熱風で激しく揺れる。
それでも、動かない。
視界が火で埋め尽くされる。
そして。
巨大な火の津波がラウルを呑み込む。
その寸前。
――ボォォォォォッ!!
ラウル「オラァァァァァ!!」
拳を振り抜いた。
真正面から火の津波を殴りつける。
ラウルの拳を中心に、火が大きく歪んだ。
押し寄せていた津波の動きが鈍る。
ラウルの身体を呑み込む寸前で、巨大な火の塊がたった一つの拳に押し止められていた。
ラウル「いくぜぇぇぇ!!」
全身に炎が集まる。
拳と火の津波の間で、炎と火が激しくぶつかり合う。
足元の地面に亀裂が走る。
火の粉が四方へ弾け飛ぶ。
それでも、ラウルは一歩も退かない。
ラウル「ははっ……!いいじゃねぇか……!!」
さらに強く拳を握り込む。
その瞬間、ラウルの炎がさらに膨れ上がった。
ラウル「でもよぉ!!まだ足りねぇぞぉ!!」
中心から、火が弾け飛んだ。
ラウルの拳を中心として、衝撃が火の津波全体へ一気に広がっていく。
押し寄せていた火が形を失い、巨大な波が崩れる。
そして、火の津波そのものが真正面から吹き飛んだ。
大量の火が空へ舞い上がる。
火の粉となり、火の塊となり広場一帯へ降り注ぐ。
先ほどまで視界を埋め尽くしていた巨大な火の津波はもう、どこにも存在しない。
ラウル「はぁ……はぁ……次!!」
カグラ「すっご……!まさかこれも……!」
カグラは舞い続ける。
広場に残された火が、さらに大きくなる。
ラウル「お前、まだ出せんだろ!まさかこれが限界とか言わねぇよなぁ!!」
カグラ「あはっ!当たり前だよ!!だったら、あたいのとっておき見せてあげる!!」
両腕を空へ揚げた。
その瞬間、地面に残っていた火が浮き始める。
一つ、また一つ。
火の津波を破壊したことで飛び散った火。
カグラが舞いながら残した火。
広場を覆っていた火。
その全てが、ゆっくりと上空へ昇っていく。
ラウル「……なんだ?」
数十、数百、やがて数え切れないほどの火が空へ、空へ、さらに高く、カグラの舞に導かれるように昇っていく。
そして、一つの場所へ集まり始めた。
火と火が重なり膨らむ。
さらに火が加わり膨らむ。
ラウルが見上げるその先には、巨大な火の塊が形成される。
だが、まだ終わらない。
カグラ「もっと……!もっと!!」
巨大だった火球が、さらに、さらに膨れ上がっていく。
やがて、広場に影ができた。
ラウル「……さすがにデカすぎだろ」
広場を覆い隠すほどの一つの巨大な灼熱の星。
まるで、太陽そのものだった。
赤く、眩しく燃えていた。
――ミシッ
近くのビルから音がした。
窓ガラスが軋む。
熱に耐えられず歪んでいく。
そして、ガラスの表面が溶けた。
透明だった窓が形を失い、水飴のように垂れ始める。
さらに、道路が黒く変色する。
空気が激しく揺らぐ。
ラウル「激アツじゃねぇか!!」
カグラ「まだだよ!」
ラウル「……あ?」
カグラがさらに舞う。
その瞬間、巨大な灼熱の星の周囲に小さな火が生まれた。
十、百とさらに増え続ける。
巨大な火球を取り囲むように、無数の火が空一面へ広がっていく。
赤い火が空を埋め尽くす。
巨大な一つの星と、それを取り囲む無数の流星。
昼間だった空が、赤く染まっていく。
ラウル「こりゃあ、ちょっとやべぇか……?」
カグラは、その光景の下で舞っていた。
舞えば舞うほど、上空の星が強く、大きく燃え上がる。
そして、両腕を広げ、空を見上げる。
カグラ「これが、今のあたいが出せる最大火力だ!!」
その時、ラウルの笑みがもっと深くなる。
ラウル「来い!!全部まとめてぶっ壊してやるよ!!!」
カグラ「……っ」
一瞬、カグラが目を見開く。
そして、笑った。
カグラ「ほんっと、あんた最高だよ!!」
中央の巨大な火球。
その周囲を埋め尽くす無数の火。
全てが、一斉に動き出した。
カグラ「灼天隕火星群!!」
全て、落ちてきた。
最初に無数の火が降り注ぐ。
流星のように、赤い軌跡を描きながらラウル目掛けて落下する。
だが、ラウルはそれを見ていなかった。
その視線はただ一つ。
巨大な火の星。
そして、一つ目の流星が迫る。
それでも、視線を動かさない。
ラウル「はぁぁぁ!!」
全身から、炎が噴き上がった。
頭からつま先まで、その全てを荒々しい炎が包み込む。
その直後、流星が直撃した。
炎と火が弾ける。
続けて、二発、三発。
無数の流星が、ラウルへ降り注ぐ。
地面が砕け、爆炎が広がる。
火の粉が視界を埋め尽くす。
それでも、ラウルは全身を纏う炎だけで、降り注ぐ流星を受け続ける。
カグラ「……!」
カグラにも分かった。
無数の流星など、最初から相手にしていない。
求めていたのは。
ラウル「俺がぶっ壊すのは!!」
炎が、さらに強くなる。
流星が身体へ直撃する度に炎が揺れる。
ラウルは巨大な火球から一瞬たりとも目を逸らさない。
ラウル「お前の一番デカイ星だけだぁ!!!」
待っていた。
空を覆う、最大の一撃が。
自分の拳へ届く、その瞬間を。
ラウル「これが!!」
一歩踏み込む。
火の星が、目の前まで迫る。
ラウル「今の俺の最大火力だぁ!!!」
炎を纏った右拳を、思いっきり振り抜く。
ラウル「極炎破天剛拳!!!」
その瞬間、拳と星が激突した。
――ドォォォォォン!!!
ラウルを中心に、円形の衝撃波が一気に広がった。
地面は剥ぎ取られ、ビルの残りのガラスが一斉に砕け散った。
カグラ「っ……!」
爆風がカグラを襲う。
腕で顔を覆いながら踏ん張る。
そして、炎と火はまだぶつかっていた。
ラウル「ぐっ……!!」
上から押し潰そうとする巨大な火。
下から押し壊そうとする膨大な炎。
どちらも動かない。
完全な均衡だった。
ラウル「ぐ……うぅ……!!」
足元が少しずつ沈んでいく。
後ろへ徐々に押される。
ラウル「……まだ……まだだ!!」
脚が震える。
腕が震える。
全身が押し潰されそうになる。
それでも。
ラウル「俺は……!!」
さらに踏ん張る。
地面が耐えきれず、ラウルの足元を中心に亀裂が走る。
ラウル「真正面から!!」
右腕の炎が、再び膨れ上がる。
カグラ「……!!」
ラウル「全部ぶっ壊すって!!」
炎が、拳から噴き上がる。
ラウル「決めてんだよぉぉぉ!!!」
――ゴゴゴゴゴッ!!
拳が前に進む。
少しずつ、少しずつ火の星が押し返される。
さらに、さらに押し返す。
そして。
――ピシッ!
カグラ「え……!?」
火の星に、小さな亀裂が入った。
一つ、さらにもう一つ。
亀裂が増える。
ラウルの拳を中心に、火の星の表面へ蜘蛛の巣のように広がっていく。
カグラ「嘘……!!」
ラウル「ははっ!!」
拳をさらに押し込む。
亀裂が星全体に走る。
――バキッ!!
ラウル「ぶっ壊れろぉ!!!」
――バァァァン!!
火の星が、一斉に弾けた。
巨大な火の塊が中心から崩壊する。
炎が空一面へ爆発的に広がる。
巨大な火片となり、無数の火の粉となり、赤く染まった空へ吹き飛んでいく。
衝撃が、再び広場を襲う。
赤い光が降り注ぐ中、ラウルは拳を突き上げたまま立っていた。
ラウル「はぁ……はぁ……」
ゆっくり拳を下ろす。
ラウル「……ぶっ壊したぜ」
そして、向こうにいるカグラを見る。
カグラ「……」
しばらく何も言えなかった。
そして。
カグラ「あはっ。あはははっ!!」
再び足を動かす。
舞いを始める。
カグラ「最高!!超最高だよ!!」
また、火が燃え上がった。
カグラ「ねぇ!!もっともっと燃え続けようよ!!2人でずっと!!」
その言葉を聞いた瞬間、ラウルの顔にも笑みが浮かんだ。
ラウル「当たり前だ!!どっちかが燃え尽きるまで、ずっと付き合ってやるよ!!」
炎と火が再びぶつかる。
どちらも、止まることを知らなかった。
やがて、円形の広場から巨大な火柱が空へ向かって立ち上った。
ビルよりも高く、さらに高く。
赤く染まった空へ炎と火が昇っていく。
その光は、遠く離れた場所からでもはっきりと見えるほどだった。
その頃。
広場から離れた場所。
一人の男が道を歩いていた。
???「おいおい、人の気配もありゃしねぇな」
その時。
――ドォォォン!!
遠くから低い爆発音が響いた。
???「……ん?なんの音だ?」
音に反応して足を止める。
――ドゴォォォン!!
今度は、さっきよりも大きい。
???「誰かやり合ってるな。俺も混ぜて欲し――」
音のした方向へ顔を向ける。
ビルが邪魔で見えないと思っていた。
だが。
???「……は?」
そこから、巨大な火柱が空へ伸びていた。
???「……なんだよあれ」
火柱は、一瞬たりとも弱まらない。
それどころか、さらに大きくなる。
???「……」
しばらく、その光景を見つめる。
普通の戦闘ではない。
あれほどの炎を、あれほど無茶苦茶に、周囲など気にせずに戦う奴。
頭の中には、1人しか思い浮かばなかった。
???「あんな馬鹿みてぇなことする奴……」
火柱を見上げる。
そして、僅かに笑った。
バルク「あいつしかいねぇだろ」
To be continued…
第60話 炎火残響




