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未完成のまま― 最適解に選ばれなかった僕たちへ ―  作者: はるねこ
第2期

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第51話 絶対否定

砕けた大地。

焼け焦げた地面。

そして、その中心に立つ1人の黒い人影。

ソラは息を呑んだ。


ソラ「ランク…… Ⅵ……」


ケイルも、荒い呼吸を繰り返しながらリンネを見つめる。

リンネは二人には目も向けず、倒れているレンとアイへ視線を落とした。

アイは浅い呼吸を繰り返しながら、ぼんやりとリンネを見上げる。


アイ「……リンネ……くん……?」


その瞳に、僅かな光が戻る。


アイ「……助けに……来てくれたの……?」


リンネは一瞬だけアイを見る。

そして、冷たく言い放った。


リンネ「勘違いするな」


アイ「……?」


リンネ「僕の意思で助けたんじゃない」


リンネはレンとアイの前に立ったまま、淡々と続ける。


リンネ「全ては――シオン様の命令だ」


アイの表情から、笑みが消える。


アイ「シオン……くん……」


ソラは手のひらに水刃を生み出す。


ソラ「誰の命令だろうと関係ない」


身体は限界に近い。

それでも、ここで止まるわけにはいかなかった。


ソラ「僕たちは、まだ戦える」


ケイルもゆっくりと立ち上がる。


ケイル「同感だよ」


指先に黄色の雷が灯る。


ケイル「それに……このまま見逃してくれるような相手にも見えないしね」


リンネは2人を見る。

静かな眼差しで。


リンネ「……そうか」


たった一言。

その声には、敵意すら感じられなかった。

まるで、2人がどう動こうと結果は変わらない。

そう言っているようだった。

ソラが先に動く。


ソラ「流水刃(りゅうすいじん)!」


放たれた水刃が、複数に分裂する。

あらゆる角度からの攻撃が、リンネへ殺到する。

同時に、ケイルが雷を放つ。


ケイル「交差奔流(クロスサージ)!」


リンネを雷で囲う。

さらに、黄色の雷撃が水刃を貫き、威力を爆増させる。

2人の異能が重なる。


ケイル「逃がさない!」


リンネは動かない。

ただ、両手をゆっくりと上げる。

そして、小指だけを前へ伸ばした。


リンネ「……無謀」


水刃が迫る。

雷撃が迫る。

その全てが、小指で受け止める。


スゥゥン……


瞬間。

水刃が消えた。

雷も消えた。

水流も、衝撃も、何もかも。

まるで最初から存在していなかったかのように、跡形もなく消滅した。


ケイル「……え?」


ソラ「……は?」


2人の動きが止まる。

リンネは小指を下ろす。


リンネ「無意味だ」


その一言だけだった。

ソラの額から、汗が一滴落ちる。


ソラ「……今の……全部……?」


ケイルも目を細める。


ケイル「攻撃そのものを……消した……?」


リンネは答えない。

ただ、一歩。

2人へ向かって歩き出す。

ソラは反射的に後退する。


ソラ「ケイル――」


言い終わるその前に、リンネの姿が消えた。


ソラ「――っ!?」


次の瞬間。

鈍い衝撃が、2人の腹部へ叩き込まれた。


ソラ「がはっ……!」


ケイル「ぐっ……!」


身体がくの字に折れる。

息が詰まる。

地面を何度も転がり、ようやく止まる。

ソラは必死に立ち上がろうとする。

だが、足に力が入らない。

膝が地面へ落ちる。


ケイル「はぁ……はぁ……」


その隣。

ケイルも片膝をついていた。

わずか一撃。

それだけだった。

リンネは2人の前に立っている。

息一つ乱していない。

ソラは震える腕で地面を支える。


ソラ「……嘘……だろ……」


ついさっきまで、自分たちは命を削って戦っていた。

レンとアイを倒すために。

互いの力を限界まで引き出して。

それでも。

目の前の男は、たった一度の攻撃で2人を膝へ落とした。

ケイルがゆっくりと顔を上げる。


ケイル「君は一体……何者なんだ……」


リンネは答えない。

ただ、小指を再び立てる。


リンネ「知る必要はない」


その指先に、何もない空間だけが静かに揺らいだ。


リンネ「次は、無に帰してやる」


ソラは膝をついたまま、リンネを睨みつけていた。

息が苦しい。

身体中が痛い。

それでも立ち上がろうとする。


ソラ「……まだ……まだ戦える……!」


その隣で、ケイルがゆっくりと立ち上がる。

その表情には、覚悟があった。


ケイル「ソラ」


ソラ「……どうした?」


ケイル「逃げて」


ソラの動きが止まる。


ソラ「……は?」


ケイルはリンネから視線を逸らさない。


ケイル「僕が時間を稼ぐ。その間に、君はここから離れて。君だけでも生き残るんだ」


ソラは即座に首を振った。


ソラ「嫌だ、僕だけ逃げるなんてできない」


ケイル「それでも、君だけは逃げてほしい」


ソラは立ち上がる。

足は震えている。

それでも、ケイルの隣に並ぶ。


ソラ「……僕は最後まで戦う。僕たちは2人でここまで来たんだ。だったら、最後も2人で戦う」


ケイルは一瞬だけ目を伏せる。

そして、小さく息を吐いた。


ケイル「……やっぱり、そう言うと思った」


リンネが歩き出す。

一歩、また一歩。

二人との距離が縮まっていく。

ケイルはソラを見る。


ケイル「君は……相棒に会うんだろ?」


ソラ「……」


ソラの瞳が揺れる。


ケイル「だったら、ここで終わっちゃだめだ。僕よりも、君の方が必要とされてる。だから――」


ケイルはソラの肩に手を置く。


ケイル「逃げて」


ソラはその手を振り払う。


ソラ「……そんなの、納得できないよ。僕は……ケイルを置いていけない」


ケイル「僕だって納得してないよ」


ケイルは笑った。

だが、その笑顔からいつもの余裕が消える。


ケイル「でもね、この世界では情だけで生きていけないよ」


ソラ「……!」


聞いたことのある言葉。

ハルトと会って間もない頃、世界の厳しさを伝えられた時の言葉。

今でも記憶に残っている。


ケイル「この世界では、誰かを守るために誰かが残らなきゃいけない時がある。それが、今だ」


リンネがさらに近づく。

あと数歩。

もう時間がない。

ケイルはソラから離れる。


ケイル「だから、僕のわがままを聞いて」


ケイルは右手をソラに向ける。

指先から、淡い雷が流れ始める。

ソラの身体に雷が走る。


ソラ「……え?ケイル?」


ソラの身体を包むように、黄色の電気が走った。

ケイル自身にも同じ電気が纏われる。

リンネが足を止める。


ケイル「ごめん。でも、これしかないんだ」


ソラ「まさか……!やめっ――」


次の瞬間。


バチィィィィンッ!!


2人の間で、凄まじい反発が生まれた。


ソラ「うわぁぁぁぁぁっ!!」


ソラの身体が弾き飛ばされる。

一気に地面から離れ。

後方へ。

さらに後方へ。


ソラ「ケイル!!」


ソラは必死に手を伸ばす。

だが、ケイルの姿がどんどん遠ざかる。


ケイル「ソラ、僕の師匠を頼むよ」


ソラの身体は、数々のビルを通り越した。

そして、コンクリートの地面に着地する。


ソラ「ケイル……!」


戻らなければ。

今すぐ戻らなければ。

ケイルが危ない。


ソラ「戻らないと……!」


足を踏み出す。

だが、止まる。

拳を握る。


ソラ「……」


ケイルの言葉が蘇る。


『情だけで生きていけない』


ケイルの言葉であり、ハルトの言葉でもあった。

ソラは俯く。


ソラ「……分かってる」


拳が震える。


ソラ「分かってるけど……!」


目に涙が浮かぶ。

それでも。

もう一度、前を見る。


ソラ「……ケイル。君の思い……無駄にはしないよ」


ソラは振り返る。

そして、走り出す。

一歩。

また一歩。

やがて、その姿は薄暗いビルの隙間へと消えてしまった。


――残されたのは、ケイル。

リンネはゆっくりと歩み寄る。

1人になった戦場で、静かに拳を握る。


ケイル「……行ってくれたか」


リンネ「逃がしたのか」


ケイル「まぁね。僕よりも貴重な存在を失ってはいけないから」


リンネは小指を立てる。

その指先をケイルに向ける。


リンネ「全く、理解できない」


ケイルは雷を纏う。

そして、まっすぐとリンネを見る。


ケイル「さて、ここからは僕1人だ。何秒で僕を倒せるかな」


ケイルの雷が、再び戦場を照らした。

To be continued…

第52話 時の支配者

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