第49話 逆境の一手
ソラ「ケイル!?」
目の前には、静かに雷を纏うケイルが立っていた。
ケイル「久しぶり、ソラ。ご要望の相棒じゃなくてごめんね」
ソラ「いや、来てくれて助かったよ。さすが相棒の弟子なだけあるな」
ケイルは小さく笑う。
ケイル「まぁ本人はまだ師匠だって知らないけどね」
ケイルによって吹き飛ばされた2人は、ゆっくりと歩いてきた。
レン「もう!いきなり何すんのよ!」
アイ「あらぁ♡可愛い子が増えちゃった〜」
完全にピンチだった。
でも、今は違う。
二対二。
対等の場に立つことができた。
ケイル「……恋と愛、なかなかロマンチックだこと」
ケイルの視界に2人の情報が表示される。
ソラ「作戦がある。今の僕はレンの能力で意識が強制的に向けられてる。2人同時に相手するのは難しい。だから」
ソラは続ける。
ソラ「ケイルにはアイの方を相手して欲しい。でもそっちの能力が、痛覚の共有。僕がレンを相手してる間、できるだけダメージを与えずにレンとアイの距離を離してくれ」
ケイル「なるほど、理解したよ。任せて」
その時。
レンが短剣を構える。
アイが包丁を持ち直す。
空気が再び張り詰める。
4人の異能が真正面から衝突する。
レン「瞬閃刺突!」
超高速の突き。
一直線に飛び出す。
だが。
それよりも速く、ケイルが前に出る。
ケイル「雷走展開」
バチッ!
レンの短剣が弾かれる。
レン「っ!?」
ケイル「横、失礼するよ」
ケイルとアイの距離が縮まる。
指先から黄色い雷。
アイ「私にぜ〜んぶぶつけてぇ!」
雷を纏った指先が、アイへと向けられる。
そして、雷撃が放たれる。
バチッ
アイ『あれれ〜?』
雷撃がアイに衝突する。
だが、痛みは全くない。
アイ「これがあなたの全力〜?もっと頑張って〜」
ケイル「違うよ。今のは攻撃するものじゃない、距離を離すものだ」
その時。
レンが振り向く。
レン「アイ!」
一歩踏み出す。
しかし。
ピシッ……
レンの身体が不自然に止まった。
レン「……え?」
アイも同時に違和感を覚える。
アイ「あれ〜?」
2人の間に、見えない力が生まれていた。
足を前へ出そうとするほど、身体が後ろへ押し返される。
レン「近づけない……!」
ケイルは指先で弾ける雷を眺めながら、小さく笑う。
ケイル「僕の雷はね、磁石にもなるんだ。君たち2人には、同じ電荷を流しておいたよ」
パチッ、と黄色い火花が散る。
ケイル「プラスとプラスは反発する。近づこうとすればするほど、その反発は強くなる」
アイ「わぁ〜、見えない壁みたい〜♡」
レン「……ちっ、最初からこれが狙いだったのね」
ケイル「これが僕の役割だからね。君たちは一歩も近づかせないよ」
2人が再び歩み寄ろうとした瞬間。
2人の間に雷光が弾け、激しい反発が生まれる。
その時。
ソラ「流水刃!」
レンを狙い、三本の水刃が一直線に走る。
レンは落ち着いた様子で身体を傾ける。
水刃は紙一重で空を切った。
レン「そんな単調な攻撃、当たるわけないでしょ!」
レンは地面を強く蹴る。
一瞬でソラの視界から消える。
ソラ「っ!」
気づけば背後。
短剣が首筋へ迫る。
だが。
カランッ
ソラが弾いたコインが、宙を高く舞っていた。
コインが回転したその瞬間。
本来なら外れるはずだった三本の水刃が、不自然に軌道を変えた。
まるで、有り得ない確率を選び取るように。
レン「なっ……!」
咄嗟に身を捻る。
二本は回避。
しかし。
ザシュッ!
三本目がレンの肩を掠めた。
レン「くっ……!」
ソラ「皮肉だね」
ソラは振り向く。
まるで、レンの位置が分かるかのように。
レン「……何よ?」
ソラ「君は僕の意識を縛ってるつもりなんだろうけど、一対一ならその鎖はむしろ照準になる。逃がさないでくれてありがとう」
一瞬、静寂が落ちる。
レンの口元から笑みが消えた。
その瞳には、今までとは違った怒りが宿る。
レン「……ふざけないで!」
短剣を握る力が強くなり、柄が軋む。
レン「私の能力を……利用してるって言いたいの……?」
ソラは目を逸らさない。
ソラ「そういうこと」
レン「調子に乗るなぁっ!!」
地面を砕く勢いで踏み込み、一瞬でソラの懐へ飛び込む。
レン「そんな余裕……今すぐ消してあげるわ!」
短剣が、怒涛の連撃となってソラへ襲いかかった。
アイは包丁をぐるりと回し、一気に間合いを詰める。
アイ「逃げちゃダメだよぉ♡」
鋭い斬撃。
だが、その刃は空を切った。
アイ「あれ〜?」
ケイルは、雷が跳ねるように一歩横へ。
次の瞬間、アイは再び踏み込む。
左右から、上下から、包丁が雨のように降り注ぐ。
だが、そのどれもがケイルには届かない。
身体を捻る。
首を傾ける。
最小限の動きだけで、すべての斬撃を躱していく。
アイ「えへへ〜♡全然当たらないねぇ〜」
ケイル「当たるつもりで振ってる?」
アイは口元を緩める。
アイ「もちろん♡」
その笑顔とは裏腹に、攻撃はさらに激しさを増した。
一歩踏み込むたび、刃の軌道が増えていく。
だが。
バチッ。
黄色い雷が地面を走る。
ケイルの姿が掻き消えた。
アイ「またぁ〜?」
次の瞬間には、数メートル後方。
雷鳴だけが遅れて響く。
ケイルは肩をすくめる。
ケイル「速さで勝負するなら、相手が悪かったね」
アイは頬を膨らませる。
アイ「むぅ〜、ちょこちょこ逃げてばっかり」
ケイルは笑みを崩さない。
ケイル「逃げてるわけじゃない。君を近づかせないように誘導してるだけ」
アイが視線を横へ向ける。
レンとの距離は、先ほどよりもさらに開いていた。
アイ「……あっ」
ケイル「ようやく気付いた?」
雷が静かに弾ける。
ケイル「僕の勝負は、君を倒すことじゃない。ここから一歩も動かさないことだ。」
アイは笑う。
不気味なほど。
アイ「じゃあさ〜、当たればいいよねぇ♡」
ケイル「……?」
次の瞬間。
ザシュッ
アイは何の躊躇いもなく、自分の右腕へ包丁を突き立てた。
鮮血が飛び散る。
ケイル「なっ……!」
アイは痛みに顔を歪めるどころか、嬉しそうに笑う。
アイ「えへへ♡」
その時。
ケイルの右腕にも、同じ激痛が走った。
ケイル「うっ……!」
思わず片膝をつく。
腕には傷一つない。
それなのに、神経だけが切り裂かれたような痛みが全身を駆け巡る。
アイ「私の”愛”、ちゃんと届いた〜?」
ケイルは歯を食いしばる。
ケイル「これが……痛覚の共有……!」
アイは包丁をゆっくりと引き抜く。
アイ「まだまだいくよぉ♡」
その頃。
ソラ「……!」
突然、右腕を貫く激痛。
ソラの動きが一瞬止まる。
ソラ『これは……!』
アイの能力だ。
繋がれた痛覚。
レンはその一瞬を見逃さなかった。
レン「隙ありっ!!」
短剣が閃く。
ザシュッ!!
ソラ「ぐあっ!」
胸元が切り裂かれ、赤い血が舞う。
ソラは後方へ弾き飛ばされる。
レン「どうしたの?さっきまでの余裕は」
ソラは傷口を押さえながら立ち上がる。
ソラ『まずい……、まさか僕まで届くとは……』
レンは笑みを浮かべる。
レン「これで分かった?一対一なんかじゃない。戦場は全部、繋がってるのよ」
一つの痛みが、二つの戦場を狂わせた。
To be continued…
第50話 盤上の終着点




