第42話 見えるから
カナデの能力:旋響波動。
手のひらから音波を発生させる能力。
放たれた音波は、振幅を変化させることにより種類が変わる。
今のカナデは、三つの音波を出すことができる。
吹き飛ばす力に特化した低音。
細い光線のように放つ超音。
超高密度の音波により切り裂く高音。
だが、これだけでは終わらなかった。
カナデが音波を放つ度に、周囲に振動が伝わる。
ビルのガラスが次々と割れていく。
カナデ「高音穿波!」
音速と同等の音による斬撃。
ユリカ「っ!」
ユリカは咄嗟に手が出る。
斬撃の軌道はズレ、ユリカの肩を掠める。
血が服に滲む。
少しでも反応が遅ければ、その時点で終了。
冷や汗をかき始める。
カナデ「超音乱射!」
連続して放たれる細い音波。
どれも当たったら怪我だけでは済まない。
ユリカ「干渉領域!」
全ての音に干渉。
一つ一つの音波が、ユリカを避けるように動く。
そして、全て避けきった。
少しずつ、呼吸が乱れていく。
カナデ「……やっと分かってきた」
ユリカ「?」
カナデ「あなたの能力の唯一の弱点。今までの戦いでようやく理解できた」
カナデの姿は、最初より遥かに落ち着いていた。
ユリカ「本当に分かったのかな?私の弱点が」
カナデ「そう。あなたはただ“ズラしてる”だけ。だから、この技は突破できないはず!」
その時、空間全体が揺れる。
カナデ「重音震壊!」
四つ目の音波。
これはただの揺れではない。
“空間そのもの”を振動させている。
カナデはこう思っていた。
『空間全てを揺らせば、振動をズラしてもまた次の振動が伝わる。だから、ズラしが無意味になる』
だが、カナデは勘違いをしていた。
ユリカは物体に対して“点”を捉えていると思っていた。
だから、一つ一つ振動をズラさなければならない。
しかしそれは違う。
ユリカは物体に対して“点”で捉えていても、その“点”は大きな物だった。
振動一つ一つを“点”とするのではなく、振動という一つの括りを“点”で捉えていた。
そのため、ユリカは一度の干渉で振動そのものをズラすことができる。
つまり、カナデの作戦は失敗した。
そう思われた。
だが、カナデも想定していなかった、ユリカ側の問題があった。
それは、“干渉が困難”。
ユリカの能力の一部である軌道のズラし。
これは、物体そのものに干渉し軌道をズラすことができる。
だが今回は特殊だった。
カナデによる空間の振動は、音波が空気を振動させているのではない。
“空間そのもの”を振動させている。
ユリカは振動という触れて感じられるものには干渉できるが、空間という“因果”が絡むと干渉が困難となる。
エルマとの戦いでは、“時間”という因果に触れることができた。
しかし、因果に触れることはそう簡単ではない。
ユリカは時間の流れを時間をかけて掴むことで、干渉に成功できた。
だが今回は、不意による攻撃。
つまりユリカは、この一瞬で空間そのものに干渉できなければならない。
カナデの思い違いが功を奏する結果となった。
カナデ『これなら……』
カナデは歯を食いしばる。
今までにない範囲と威力。
次々と地割れが起きる。
カナデ『響く……!!』
その瞬間。
誰かが笑った。
ユリカ「最っ高……」
過去のユリカなら無理だ。
しかし、それは過去のユリカだから。
今いるのは今のユリカ。
過去のユリカと今のユリカは、全く違かった。
ユリカ「全域否定」
空間全てを拒絶。
とてつもなく大きな空間の振動、それが最初から無かったかのように――消えた。
カナデ「……え」
カナデの背筋が凍る。
何か見てはいけないものを見てしまったかのように。
カナデ「……どうして?どうして!!」
ユリカ「どうしてって、簡単よ。空間に触れただけ。ね、簡単でしょ?」
簡単。
その言葉に、カナデは怒りを見せる。
カナデ「ふざけないで!!“空間に触れる”?そんなの簡単な訳ないでしょ!!」
もう一度、手のひらを向ける。
その雰囲気は、今までとは違う。
一種類だった音が、二種類、三種類、そして四種類。
全て、綺麗に重なり合う。
カナデ「もういい!!私、あなたのこと大っ嫌い!!」
それでもユリカは、まだ笑っている。
余裕を残している表情で。
ユリカ「いいよ!もっと、もっと私を楽しませてぇ!!」
その瞬間。
ユリカの口が止まる。
少し目を見開く。
ユリカ「……っ」
パチン!
突然、自分の頬を叩く。
カナデ「……え?」
ユリカは小さく息を吐く。
ユリカ「ダメね、私。人の命がかかってるのに、また楽しんじゃってる」
その声は、自分に言い聞かせているようだった。
ユリカは目を閉じる。
そして、ゆっくり開く。
その瞬間、空気が変わった。
さっきまでの余裕。
笑顔。
楽しさ。
全部が消える。
残ったのは、冷たい戦意だけ。
カナデ「……!?」
本能が危険と叫ぶ。
これは、今までのユリカではない。
ユリカ「すぐに終わらせるわ」
ユリカの瞳が暗く光る。
心臓の音が聞こえる。
目を見る度に、胸が痛くなる。
カナデ「っ……もうどうなっても知らない!!」
四つに重なった音。
それが、同時に放たれる。
カナデ「四声協奏曲!!」
放たれたその時、空間は振動し、ビルは崩れ始める。
本来一種類しか出せないカナデの音波。
それを、高音、超音、低音、重音。
四種類同時に発動する。
ユリカとの戦闘により成長したカナデだからこそできる大技。
カナデ「もう二度とあなたの顔を見ないために!!全部消え尽くす!!」
もう、遅かった。
ユリカは既に、動いていた。
ユリカ「全干渉領域」
世界が止まった。
カナデ「っ――!?」
視界が真っ白になる。
身体が動かない。
四つの音波は、ユリカに届く直前に逸れた。
ここにあるものを全て、“完全支配”。
カナデ『動け……ない……』
無理やり音を放つ。
しかし、上手くまとまらない。
カナデの精神そのものを押さえつけている。
ユリカはゆっくり近づく。
ユリカ「カナデちゃん」
返事ができない。
ユリカは続ける。
ユリカ「私はね」
ゆっくり歩き続ける。
ユリカ「あなたのこと」
耳元まで近寄る。
ユリカ「大好き」
静かに指を鳴らす。
ユリカ「精神断裂」
精神側が完全に破壊される。
カナデは膝を付き倒れる。
完全に動かなくなった。
そして、身体が光の粒子となり消えていく。
ユリカ『本当はもっと、一緒に楽しみたかったな……』
その時、どこからか機械的な声が響く。
《カナデの脱落を確認》
《リオネチームの残存プレイヤー数:19》
ユリカはカナデを見ている。
どこか寂しいような、悔しいような、そんな表情で。
ゆっくりと顔を上げる。
ユリカ「さて、みんなを探さないと」
目つきが変わる。
次の戦場へと向かう目。
足音を鳴らしながら、崩壊した都市を歩き出した。
二つの暴風が衝突する。
ビルが揺れ、道路が砕け、電子看板が吹き飛ぶ。
都市そのものが嵐へ飲まれていた。
その時。
《カナデの脱落を確認》
《リオネチームの残存プレイヤー数:19》
ナギの動きが一瞬止まる。
ナギ『さっそくやられたのか。思ったよりも速いな……』
カイ「よそ見してんじゃねぇぞ!!」
カイは両手を広げる。
風がカイの周りに集まっていく。
カイ「空裂刃・連撃!」
無数の斬撃。
だが、さっきまでとは違う。
ナギは見えなくても分かった。
風の壁を明らかに避けている。
ナギ「……!」
ナギも斬撃は見えていなかった。
斬撃をモロに喰らう。
さっきまで傷一つ無かったが、次々と増えていく。
カイ「どうした!!壁見えてんぞ!!」
完全に流れが変わっていた。
風向きが一気にカイへと向いた。
カイ『いける!このまま押し切ってやる!!』
風の流れ。
壁の位置。
全てが見える。
だからもう、止まらない。
カイ「絶空断界!!」
幾つにも重なる巨大な斬撃。
ビルすら断ち切る超風圧が、ナギを襲う。
ナギ「風陣障壁」
正面に巨大な壁が築く。
だがその威力は、ナギの壁をも切り裂く。
ナギ「何ぃ!?」
カイ「ぶった斬れぇ!!」
その時。
ナギの視界に何かが見える。
風が揺れる。
空気が流れる。
そして、全てが見える。
ナギ「……っ!」
その瞬間。
カイの斬撃が逸れる。
後方の高層ビルが崩壊する。
カイ「なっ!?」
ナギはゆっくりカイを見る。
ナギ「お前だけじゃない」
ナギの周りに風が集まる。
どんどん強くなり、竜巻が起こる。
ナギ「俺だって見えるからな」
暴風と暴風が、再び衝突する。
To be continued…
第43話 威風堂々




