第38話 願いの意味
眩しい光。
感覚が歪む。
床が消えるような浮遊感。
ハルトは静かに目を開ける。
そこは、何も無い白い部屋。
壁も、床も、天井も。
全て白。
ただ、正面にはモニターらしきものだけが存在していた。
ハルト「……っ」
身体を起こし、周囲を見渡す。
ラウル「くそっ……またかよ」
ゼイン「チッ……」
アイラ「嘘でしょ……」
全員、同じ部屋にいた。
部屋の空気が重い。
その時、白い粒子が集まる。
ハルト「……!」
光から現れたのは、クリオだった。
だが、以前までとは違う。
身体の一部へ赤いノイズが走っている。
まるで、無理やり制御されているように。
ハルト「クリオ!」
クリオ「……皆さん、ごめんなさい。私のせいで……」
レイ「クリオのせいじゃないよ。リオネの罠にはまった私たちの責任でもあるから」
トア「それより、ここはどこ?」
クリオは全員を見る。
クリオ「ここは、第二接続のルール説明用ルームです。開始前に全プレイヤーはここへ集められます」
ソラ「結局またこうなるのか」
ハルト「だが今回は全員訳を知っている。そう簡単に殺し合いにはならないだろう」
その時だった。
部屋のモニターが起動する。
ノイズと同時に機械的な音声が流れる。
その声は、クリオでもリオネでもない。
完全に“ただのAI”の声だった。
《プレイヤー数確認》
《接続完了》
モニターに映像が表示される。
そこには、もう一つの部屋。
ハルトたちと同じ白い部屋。
そして、20人の人影。
ハルト「あいつらが……」
ソラ「さっき言ってた僕たち以外の20人」
まだ顔はよく見えない。
ただ、それぞれ異様な雰囲気だけが伝わる。
黒いコートを着た、無表情の男。
眠そうに目を擦る少女。
ナイフを回す女。
巨大な紙を折って遊ぶ男。
花びらを指で弄る女。
誰1人、普通じゃない。
ノア「……空気が違う」
フィオ「……なんか怖い」
《ルール説明を開始します》
別のモニターに文字が切り替わる。
《チームバトルロイヤル》
《勝利条件》
《相手チームの全滅》
《どちらかのチーム人数が0になった時点でゲーム終了》
ハルト「チーム……バトルロイヤル……?」
クロウ「前の世界も確かバトルロイヤルだったよな。使い回しか?」
文字が切り替わる。
《死亡プレイヤーの復活はありません》
アイラ「っ……!」
《なお、本ゲームでの死亡は通常、現実世界へ影響しません》
その言葉で、全員は安心した。
ハルトもほっとする。
レイ「前の世界でノアとアイラ、あとクロウが死ななかったのも、これのおかげだと証明できた」
レイたちはなぜ死んでいなかったのか不思議だった。
そして今、やっと真実が明らかとなった。
《次に、プレイヤーランクを表示します》
ラウル「プレイヤーランク?なんだそれ、面白そうだな!」
モニターが切り替わる。
そこへ、六つのランクが表示される。
Ⅰ 未覚醒
Ⅱ 適応者
Ⅲ 観測対象
Ⅳ 異常個体
Ⅴ 超越者
Ⅵ 到達者
《ランクは戦闘能力、観測価値、世界への危険度を含み決定されます》
カイ「危険度?」
リン「単純な強さだけじゃないってことね。AIにとってどれだけ危険なのか、そういった感じだと思う」
《まず、クリオチームのランクを表示します》
その瞬間、ハルトたちの名前が画面へ映し出される。
《ハルト》
Ⅴ《超越者》
ラウル
Ⅳ《異常個体》
クロウ
Ⅴ《超越者》
ソラ
Ⅴ《超越者》
ユリカ
Ⅴ《超越者》
ミナ
Ⅴ《超越者》
カイ
Ⅳ《異常個体》
エルマ
Ⅳ《異常個体》
アイラ
Ⅲ《観測対象》
ノア
Ⅴ《超越者》
レイ
Ⅳ《異常個体》
ガルド
Ⅳ《異常個体》
バルク
Ⅳ《異常個体》
ケイル
Ⅳ《異常個体》
ゼイン
Ⅳ《異常個体》
ブラン
Ⅲ《観測対象》
フィオ
Ⅲ《観測対象》
セラ
Ⅳ《異常個体》
リン
Ⅳ《異常個体》
トア
Ⅴ《超越者》
次々と表示された。
クロウ「……Ⅴか、まあいいんじゃないか」
ソラ「僕もⅤだ。相棒と同じでよかった」
空気がざわめく。
喜ぶ者もいれば、不安になる者もいる。
ハルト『あのクロウやユリカでもⅤなのか。Ⅵがいないのは少し意外だな』
突然、後ろから大きな足音が聞こえる。
そこにはラウルが立っていた。
ハルト「おっ、どうしたラウル?」
ラウル「なんで俺はⅣなんだよ!!おかしいだろ!!ちゃんと俺の活躍を見てたのかこのAIはよぉ!!」
ラウルは突然怒鳴り始める。
クロウ「いや、お前はこれで妥当だな」
ラウル「はぁ!?なんでだよ!!俺はお前たちと対等に戦えてたろ!!なのになんで俺はハルトとお前よりも低いんだよ!!」
確かにラウルは強かった。
ハルトとクロウと共に渡り合っていた時もあった。
でも。
クロウ「だってお前、足引っ張ってた時あったよな」
ラウル「は?俺が足を引っ張った時なんて……。あっ」
あの時。
攻撃を学習し無効化する、あの合体AIとの戦いで。
クロウ「それに比べて俺は、AIを瀕死まで追い込ませた貢献をしたからな。お前とは違うんだよ」
ラウル「くっそ、何も言い返せねぇ」
2人の言い合いを横目に、トアは疑問を浮かべる。
トア『私とノアがⅤって……。そんなにあの能力って危険なのかな?』
その時、モニターの表示が変わる。
《次に、リオネチームのランクを表示します》
部屋の空気が変わる。
モニターに、新たな名前が表示される。
《シオン》
Ⅵ《到達者》
一瞬、静寂になる。
ラウル「……は?」
ソラ「いきなりⅥ!?」
《リンネ》
Ⅵ《到達者》
レイ「2人目……!?」
全員が目を見開く。
だが、これだけでは終わらなかった。
《エデン》
Ⅵ《到達者》
《レン》
Ⅴ《超越者》
《アイ》
Ⅴ《超越者》
《ミオ》
Ⅴ《超越者》
《セツナ》
Ⅴ《超越者》
《シンマ》
Ⅴ《超越者》
《イプシー》
Ⅳ《異常個体》
《ニユ》
Ⅳ《異常個体》
《クオミ》
Ⅳ《異常個体》
《カグラ》
Ⅴ《超越者》
《ヒョウ》
Ⅴ《超越者》
《カミノ》
Ⅴ《超越者》
《カナデ》
Ⅳ《異常個体》
《ナギ》
Ⅴ《超越者》
《ティレス》
Ⅴ《超越者》
《イヴ》
Ⅴ《超越者》
《アサヒ》
Ⅳ《異常個体》
次々と並ぶ高ランク。
カイ「おい待て待て!」
エルマ「みんなランク高くない!?」
リン「……ありえない」
向こう側の部屋。
一人一人の圧を感じる。
その中で、黒いコートを着た男。
その姿を見るだけで、自然に震えが出る。
クロウ「……あいつはまずいな」
クロウが小さく呟く。
その一言だけで、緊張感がさらに増した。
そして、最後に名前が表示される。
《セキ》
Ⅲ《観測対象》
バルク「……おっ?」
ガルド「1人だけ低くねぇか?」
全員は向こう側を見て分かった。
顔が見えなくても分かる。
そこには、不安そうに震えている少女の姿。
この戦いに慣れていないかのように。
ハルトはその光景を見て、なぜか胸騒ぎを覚えた。
またもやモニターが切り替わる。
《最後に、両チームの願望ログを確認》
《勝利チームは願望ログを実現可能》
ミナ「願望ログ?」
クリオ「願い事のことですね。勝ったチームは一つだけその願いを叶えることができます」
ラウル「え!何でも叶えられるのか!?」
クリオ「こちら側が叶えられる範囲であれば、何でも大丈夫です」
ラウル「おお!すげぇ!!」
レイは静かにモニターを見る。
願い。
その単語は、思っていた以上に重かった。
レイ「でも、なんでわざわざ願いなんて用意したんだろう?無くても成立しそうだけど……」
クリオは少し悩みながら答える。
クリオ「私のプログラム上では、少しでもプレイヤーのやる気を出させるためとなっています。決定したら、私へ伝えてください」
レイ「なるほどね」
そして、全員がざわつく。
ソラ「願い事、何にしようかな?」
ラウル「そりゃ金だろ!金1000万円とか!!」
クロウ「ここまで来て金とか馬鹿かよ。それに1000万円って安いだろ」
ラウル「は?」
クロウ「あ?」
ガルド「食い物に困らねぇ身体とかでもいいな」
バルク「肉無限……うへへへ」
ソラ「お前らほんとブレないな……」
笑いが起きる。
だが、その空気は長くは続かなかった。
トア「でも、願いは一つしか叶えられないんだよね」
ミナ「確かに……」
つまり、誰かの願いしか叶わない。
その事実が、一気に現実味を帯びる。
バルク「じゃあどうする?」
ケイル「多数決とか?」
ラウル「いや待て、俺の金1000万円は――」
レイ「却下」
ラウル「早ぇよ!!」
1人1人の願いが飛び交う。
その時、ハルトが静かに口を開く。
ハルト「みんな、何か忘れてないか?」
全員の視線が向く。
ハルト「俺たちは何のためにここにいる?」
ソラ「何のためって……勝つためでしょ」
ハルト「違う」
即答だった。
ハルト「少なくとも俺は、人を倒すためにここにいるんじゃない」
誰かが眉をひそめる。
ハルトは続ける。
ハルト「前の世界でも俺たちは戦った。何度も、仲間が傷つくところも見た。目の前で消えていくところも見た」
その光景が脳裏によぎる。
ハルトの目の前で消えていく、仲間の姿が。
ハルト「俺はもう見たくないんだ」
その声は震えていた。
ハルト「仲間が傷つくところも」
ハルト「仲間が消えていくところも」
ハルト「誰かを守れなかったって後悔するのも」
その言葉に、たくさんの想いが込められていた。
ハルトは全員を見渡す。
ハルト「それに、このゲームを作ったのは誰だ?」
レイが小さく答える。
レイ「……AI」
ハルト「ああ、だったら考えるべきだ」
クリオの表情が変わる。
ハルト「前のAIもそうだった。表面上はただのゲームに見せかけて、その裏に目的を隠していた。今回だけが違うなんて保証はどこにもない」
空気が次第に重くなる。
ハルト「俺たちが戦えば戦うほど、AIの思い通りになる可能性だってある」
一歩前へ出る。
ハルト「だから俺は、戦わない。少なくとも、理由の分からないままAIが用意した舞台で踊るつもりはない。まずはこのゲームの目的を探る。戦うかどうかは、その後だ」
誰もすぐには答えられなかった。
その時、ハルトは少しだけ笑う。
ハルト「これを言いたかったんだろ、クリオ」
ソラ「……え?」
全員の視線がクリオへ集まる。
クリオは何も答えない。
答えられない。
そのことをハルトは理解していた。
ハルト「クリオは前にもあったけど、プログラム上説明できないところがある。それを俺が代わりに言っただけだ」
ハルトはクリオを見る。
ハルト「違うか?」
数秒後。
クリオは微笑んだ。
『やっと気づいてくれた』
そう言っているようだった。
ハルト「だからこれを踏まえて、俺から一つ願いを提案させて欲しい」
ラウル「何にするんだ?」
ハルトはモニターを見る。
もう一つの部屋。
知らない20人。
でも、あの世界を生きた人間たち。
ハルト「俺は、――――――――――――。これで頼む」
長い沈黙。
そして、最初に口を開いたのは。
ソラ「……まぁ」
ソラは笑う。
ソラ「ハルトらしいな」
ラウル「チッ……」
ラウルは頭をかく。
ラウル「そこまで言われるとしゃーねぇな。分かったぜ、俺の金案を却下してやる」
ガルド「俺も異論なしだ」
クロウ「……構わない」
少しずつ、全員が頷いていく。
ハルト「ありがとう。じゃあクリオ、これで決定だ」
クリオ「分かりました。この願望ログで提出します」
モニターの表示が変わる。
《クリオチームの願望ログが確定しました》
一方その頃、リオネ側の20人の願いも確定しようとしていた。
To be continued…
第39話 覚悟




