第33話 背負う覚悟
ラウルが崩れる。
血が地面に落ちる。
その前に、クロウが立つ。
一歩ずつ、ゆっくりと。
AIの前へ歩む。
クロウ「……そこまでだ」
その一言で、空気が変わる。
《対象変更》
《脅威:クロウ》
光が収束する。
だが、クロウは動かない。
影が広がる。
足元から、静かに。
戦場全体へと。
ハルト「クロウ……?」
ラウル「……おい、なんだこれ……?」
2人は気づく。
影が、“濃すぎる”。
光があるはずなのに、影の方が強い。
間違いなく――触れてはならない。
ハルト「まずいっ!」
2人の元へ影が広がる。
何もかも、飲み込む勢いで。
ハルト「逃げるぞラウル!走れるか!?」
ラウル「あぁ、余裕だぜ」
ラウルは肩を抑えながら立ち上がる。
そして、走り出す。
向かうは――セラの結界の中。
ハルト「セラ!俺たちも入れてくれ!!」
セラは瞬時に反応する。
セラ「分かった!一瞬だけ結界に穴を開けるから、そこから入って!!」
しかし、影の広がる速度が異常。
後ろから徐々に迫っている。
ハルト『くそっ!いくらなんでも速すぎるだろ!!』
結界に着く前に、ほぼ確実に飲み込まれる。
さらにラウルは一歩遅れている。
ハルト『あそこに間に合わせるには……、あれしかない!』
ハルトは振り向く。
そして、ラウルの手を掴む。
ハルト「ラウル!少し我慢してくれ!」
ラウル「……は?」
雷が足に纏う。
その瞬間。
2人は、結界に一直線へと弾ける。
セラ「今だ!」
複数に重なる結界に、一つの穴ができる。
その中へと、雷が突入する。
同時に、穴が閉じる。
ギリギリ間に合った。
ハルト「はぁ……間に合った……」
ミナ「ハルトくん!!大丈夫!?」
ハルトはもう、ボロボロだった。
ハルト「あぁ、俺は大丈夫だ。それよりラウルが……」
ラウル「熱っ!!もっと俺を丁重に扱ってくれよぉ!!」
雷による光速に近い速度。
それにより、ラウルは身体を焼かれていた。
だが。
予想よりもダメージが少ない。
ハルト「お前の属性が炎だったお陰で、怪我が軽く済んだのか」
ラウル「それよりも肩の方が痛えよ……」
肩を軽く抑える。
その時。
セラ「まずい!結界が!!」
そこにあったのは、黒に染まった結界。
外側だけが、影で覆われている。
レイ「情報が遮断された……何も見えない」
ログが届かない。
視覚も見えない。
結界の向かうでは、何が起きているのか分からない。
ハルト「クロウ……大丈夫なのか?」
AIと1人で対面。
いつ死んでもおかしくない。
ラウル「今はあいつに任せるしかない」
ラウルは静かに答える。
ラウル「俺も、心配だな」
その間にも、結界の向かう側では――。
空間が影で埋め尽くされる。
闇の中、クロウはただAIだけを見ている。
その目は、深い闇の色。
クロウ「……お前の罪、償ってみろ」
その瞬間。
クロウ「罪状記録」
クロウの目が変わる。
まるで、全てを見ているかのように。
《異常検知》
《情報取得不能》
AIが動く。
先程と同じ、無数の光線。
だが。
クロウは、一歩も動かない。
光が迫り、当たる――。
その瞬間。
クロウが消える。
最初からそこにいなかったように。
クロウ「……後ろだ」
もう既に、回り込んでいる。
クロウ「罪刻侵蝕」
影の刃が触れる。
そこに、黒い“刻印”が浮かぶ。
ジュッ――
影が侵食する。
《継続的損傷確認》
クロウ「……罪は消えない」
さらに踏み込む。
二撃、三撃。
全てに刻印。
AIの身体に黒い点が増えていく。
AIが反撃する。
広範囲に光が広がり、全て爆発する。
逃げ場なしの攻撃。
だが。
クロウは既に、影に沈んでいる。
クロウ「……無駄な足掻きだ」
再び現れ、さらに斬る。
刻印が増え、侵食が広がる。
《損傷増加》
AIの動きが鈍くなる。
《再生速度低下》
クロウ「……まだ足りない」
クロウの中で“罪”が溜まる。
罪状記録は、三つの観点から記録を得る。
攻撃の『回数』、『威力』、そして――『殺意』。
この三つが高ければ高いほど、罪として蓄積される。
それに応じて、クロウの攻撃のダメージも上がる。
クロウはずっと、見ていたのだ。
AIの光が脈打つ。
《出力大幅上昇》
先程とは違う。
一本一本が鋭い。
さらに、速い。
《排除》
全て放たれる。
一本ではない。
十、百、千。
連続で降る、光の“豪雨”。
クロウ「……」
あの時の、大雨の景色と重なる。
クロウは動かず、ただ待っている。
一本、肩を掠める。
そして、真正面から受ける。
爆発に全てが飲み込まれる。
だが。
その中にあった。
一つの影。
クロウ「……重いな。お前の罪は」
無傷の身体。
クロウの周囲で、影が歪んでいる。
光が当たるたびに、それを記録し吸収する。
《異常事態》
《排除再開》
光がさらに強くなる。
連続する光線。
だが。
クロウは止まらない。
ゆっくりと、歩く。
身体に当たるその瞬間。
影が吸い込む。
クロウ「……もう、逃げ場はないぞ」
一瞬、AIの動きが乱れる。
初めての“違和感”。
クロウは、そのまま光の中を抜ける。
完全に突破する。
クロウ「……もういいだろう」
ゆっくりと手を上げる。
クロウ「これがお前の罪だ」
その瞬間。
クロウ「刑罰準備」
地面、空間。
全ての影から、鎖が伸びる。
腕を。
脚を。
コアを。
完全に拘束。
《拘束確認》
《解除試行》
破壊を試みる。
だが、動けない。
何もできない。
クロウ「一度犯した罪からは逃げられない」
影が、さらに濃くなる。
刻印が共鳴する。
全ての罪が反応する。
クロウ「判決だ」
影が収束する。
一点。
AIの中心、コアへ。
クロウ「断罪執行」
全ての刻印が光る。
そして。
全ての罪を解放。
内部から。
外部から。
同時に、破壊。
三つの観点である『回数』、『威力』、『殺意』。
これらの罪がそれぞれ最大にまで溜まった場合――相手は“即死”となる。
クロウ「一生、償うんだな」
AIの身体が崩れ始める。
再生が追いつかない。
終わる、はずだった。
クロウ「……。やっぱりか……」
全て消滅しきらない。
なぜか、コアだけが残る。
観点が三つ最大の場合、例外なく即死となる。
だが、コアは消滅しない。
さっきよりも深く、傷が付く程度。
そう。
ただ一つ、最大ではないものがあった。
『殺意』
AIには、殺意が無かった。
人としての、感性が無かった。
《再構築……開始》
光が滲むように、形を作る。
身体が、徐々に現れる。
だが。
明らかに遅い。
今までとは違う。
再生の速度。
《出力……低下》
《再生速度……著しく……低下》
崩れかけながら。
それでも、形を保とうとする。
“限界”。
その言葉が、ふさわしい。
さらに。
クロウの影が、少しずつ引いていく。
セラの結界の影も、消え始める。
その時。
ミシッ――
結界にヒビが入る。
セラ「もう……限界……!」
フィオの植物が絡みつく。
それでも、支えきれない。
パキンッ――
結界が砕ける。
フィオ「もう無理……」
植物も崩れる。
枯れるように、力を失う。
防御が消える。
全員が、完全に無防備になる。
ハルト「クロウ!!生きてるか!?」
焦げた匂い。
壊れた地面。
その中に、二つの存在。
クロウ、そしてAI。
クロウは立っている。
足が震えている。
影が揺れている。
呼吸が、荒い。
クロウ「はぁ……」
今までの疲労が全てのしかかる。
明らかに、余力がない。
だがそれは、AIも同じだった。
形は保っているが、不完全で崩れかけ。
再生が追いつかない。
光が不安定に点滅する。
《……戦闘……継続……可能》
声が途切れ、ノイズが混じる。
ラウル「お前……すげぇよ……。あのAIをここまで追い詰めた」
クロウ「いや……仕留め損ねた……すま――っ、ごほ……げほっ……!」
途切れた声。
咳き込むたびに、血が飛び散る。
ラウル「クロウ!もういいから休め!あとは俺たちに――っ痛って……」
肩からまた血が流れ出す。
激しく動くたびに、傷が痛む。
クロウ「お前も……動くな……傷が悪化する……」
ラウル「それは、お互い様だろ」
ラウルは振り向く。
ラウル「あとは、あいつに任せる」
視線の先。
ゆっくりと、歩く。
血に濡れた身体。
傷だらけの手足。
それでも。
一歩、また一歩と、確実に前へ。
クロウ「……ハルト……」
掠れた声。
ハルトは、止まらない。
そのまま。
クロウの横を通り過ぎる。
ほんの一瞬だけ、視線が交わる。
言葉はない。
それでも。
分かる。
クロウが、ここまで繋いだこと。
その重さ。
その覚悟。
ハルト「……あとは、任せろ」
短く。
それだけ。
クロウの目が、わずかに揺れる。
そして。
小さく頷く。
ハルトはそのまま前へ出る。
AIと向き合う位置までの距離。
ほんの数メートル。
そこにあるのは、これまでの全て。
仲間の傷。
失ったもの。
繋いできた戦い。
ハルト「もうこれ以上、仲間が消えるところを見たくない」
空気が張り詰める。
ラウル「……行け、ハルト」
クロウは、何も言わない。
ただ。
その背中を見ている。
クロウ『頼んだぞ、ハルト』
今度は。
“守る側”ではなく。
“託す側”として。
To be continued…
第34話 託し託され




