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未完成のまま― 最適解に選ばれなかった僕たちへ ―  作者: はるねこ


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第25話 確率

水が静かに揺れる。

AIの動きが、わずかに乱れている。

ソラはポケットから何かを取り出す。

指の間に小さなコイン。

光を受けて、微かに輝く。


《未知の媒介物 検知》


ソラがそれを見つめる。


ソラ「……これ、か」


指で軽く弾く。

コインが宙を舞う。

その瞬間。

時間が、ほんの一瞬だけ遅くなる。



雨の音。

窓を打つ細い粒が、部屋の静けさを強調している。

幼いソラはテーブルに座っていた。

向かいには父。

少しやつれた顔。

だが、その目だけは優しかった。


父「……ソラ」


名前を呼ぶ声が、いつもより少しだけ重い。

ソラは気づいていた。

何かが違う。

でも、それが何かは分からない。


父はポケットからコインを取り出す。

見慣れたもの。

だが、その日は少し違って見えた。


父「コインってな」


指で軽く弾く。

カラン、と乾いた音。


父「表か裏かで決まるだろ?」


ソラは小さく頷く。


父「でもな」


父はそのコインを、そっとソラの手に乗せる。

温もりが残る。


父「どっちを選ぶかは、自分で決められる」


ソラ「……?」


幼いソラは首を傾げる。

父は少しだけ笑う。

でもその笑顔は、どこか壊れそうだった。


父「運が悪い日もある。どうにもならないこともある」


少しだけ、視線が逸れる。

窓の外。

雨の向こうに、誰かの影が見える。

黒い車。

ドアが開いている。


父「……でもな」


父の声が少し震える。


父「最後に決めるのは、自分だ」


もう一度、ソラを見る。


父「……もし、全部が決まってる世界でも、最後だけは――変えられる」


その言葉が、やけに強く響いた。


父「だから、持っておきなさい」


コインを握らせる。

その手は――

少しだけ、震えていた。


ソラ「父さん、どこ行くの?」


ソラが聞く。

無邪気に。

何も知らないまま。


一瞬の沈黙。

父は答えない。

ただ、頭を軽く撫でる。


父「……すぐ戻る」


その言葉だけを残して

父は立ち上がる。


ドアが開く。

雨の音が強くなる。

ソラは椅子から立ち上がる。

追いかけようとする。


だが。

ドアの前で、足が止まる。

外には、知らない大人たち。

冷たい視線。

父が振り返る。

ほんの一瞬だけ。

その目は、“謝っていた”。


ドアが閉まる。

雨の音だけが残る。


それ以降。

父は、戻らなかった。



ソラ「……嘘つき」


小さく呟く。

でも、その声は責めてない。


コインが落ちてくる。

ソラがそれを掴む。

少しだけ、強く握る。


ソラ「でもさ」


目を閉じて、開く。


ソラ「ちゃんと、残ってるよ」


指でコインを弾く。

コインが回転する。

空間が歪む。


ソラ「だから、僕が――選ぶ」


確率が“裏返る”。


ソラ「確率操作水流 (オッズ・リップル)


水が広がる。

いや――違う。

“確率そのもの”が、流体として溢れ出す。


《出力上昇検知》


《危険度:再評価》


ソラがコインを弾く。


ソラ「確率偏向投擲(オッズ・キャスト)


コインが一直線に飛ぶ。

だが、AIとは違う方向。

普通なら、当たらない角度。

死角。


それでも――当たる。

AIの肩をかすめる。

その瞬間。

水が刃となって追従する。


ソラ「低確必中水刃(ロー・プロバビリティ)


コインの軌道に沿って、水刃が走る。

ありえない軌道。

ありえない命中。


《命中率:0.05% 》


《異常》


コインが手元に戻ってくる。


ソラ「確率ってさ……面白いよね」


再び弾く。

跳ねる、反射する。

そのたびに、水刃が“ありえない場所”から現れる。


上から。

背後から。

地面の反射から。

AIの身体に傷が増える。


ソラ「全ての確率に賭ける。それが――」


コインが空中を舞う。


ソラ「僕の戦い方だ」


AIが動く。


《最適攻撃選択》


光が収束する。

高密度のエネルギー波が放たれる。

音速に近い速度。

回避不能。

だが――ソラは動かない。

コインが地面に落ち、表が出る。


ソラ「ふっ……」


ソラは笑う。

光が――逸れる。

完全な必中軌道。

それが、外れる。


《命中率:100%》


《失敗》


《論理崩壊》


常識ではありえない軌道。

当たらないはずの攻撃が当たり、当たるはずの攻撃が外れる。


後方。

誰も理解出来ない状況。

ただ、1人を除いて。


レイ『理解したい……私が理解しないと……!』


レイが静かに目を細める。


レイ『だめだ……力が強すぎて、何も見えない!』


その時。

アイラが微かに動く。


アイラ「……ノア……」


震える手。

あの時の言葉。

優しさ。


アイラ「……まだ……私が……」


立ち上がろうとする。

膝が崩れる。

それでも、


アイラ「……みんなを……」


光が灯る。

弱く。

だが確かに。


アイラ「繋ぐ……!」


手を揚げる。


アイラ「生命共鳴回復(ライフ・レゾナンス)!」


光が、広がる。

いや――今までとは、違う。

“誰か一人”の力じゃない。

ノアの想いが重なっている。


光が脈打つ。

心臓のように。


アイラ「お願い……!」


光が爆発する。

全員の身体に流れ込む。


ハルト「……っ!?」


傷が塞がる。

砕けた筋肉が繋がる。


ラウル「おい……まじかよ!?」


クロウ「戻ってきやがったか……」


ミナ「……アイラ!」


全員が立ち上がる。

アイラは、その場で膝をつく。

だが。

笑っている。


アイラ「……ありがとう……ノア……」


フィオ「アイラ……!」


フィオとセラはすぐさま駆けつける。


セラ「……気を失ってる」


疲れ果てたように、目を閉じている。


フィオ「アイラが目覚めるまで、私たちで守ろう」


その時。


レイ「!?」


視界が変わる。

色が消える。

代わりに――“数値”が流れ込む。


確率。

分岐。

成功率。

失敗率。


全てが一瞬だけ“見えた”。


レイ「……そういうことか」


たった今、一つの考察が生まれた。


ラウル「てかあいつ、どうなってんだよ!」


空中ではソラがAIを圧倒している。


クロウ「……分からねぇ。気づいたらあのソラがサシでやってやがる」


ケイル「僕たちも最初から見てたけど、何もかもがありえないというか……」


ゼイン「意味が分からない角度から攻撃は当たるし、AIのビームは直前で落ちるし、ほぼ物理法則無視してるんだよな」


ユリカ「ソラ君……」


全員は困惑する。


ハルト「ソラ、どうしたんだよ」


さっきまで劣勢だった状況が、ソラ1人で一気にひっくり返ったのだから。


レイ「みんな聞いて!」


全員は振り向く。


レイ「ソラのあの力、やっと分かったかも」


ハルト「本当か!?」


レイはゆっくり頷く。


レイ「ソラは――」


一度、戦場を見る。


レイ「覚醒した」


ハルト「か、覚醒!?」


レイ「……理由は分からない。けど、能力が進化してる」


ソラがコインを弾く。

その瞬間。

レイの視界には、


“0.3%”


“97.2%”


“12.6%”


無数の確率が一瞬だけ浮かび上がる。


レイ「ソラは――全ての事象を“確率”として再定義している」


ミナ「……確率?」


レイ「そう。攻撃、回避、命中……この世界のあらゆる結果を、“確率”として扱っている」


次の瞬間。

AIの攻撃が放たれる。

また一瞬、レイの目に映る。


“99.9%”


だが。

外れる。


レイ「そして……」


少しだけ息を呑む。


レイ「その確率の“結果”を反転させている」


全員「……!?」


ハルト「反転……?」


レイ「普通は、確率が高ければ成功しやすいし、低ければ失敗する」


視線をソラに向ける。


レイ「でも、ソラは逆」


静かに言い切る。


“低確率ほど成功する”

“高確率ほど失敗する”


沈黙。


ラウル「じゃあもう無敵じゃねぇかよ!」


レイは視線を鋭くする。


レイ「……いや、問題はそこだ」


戦場を見る。


レイ「AIは学習している」


ブラン「何をだ……?」


レイ「確率の“扱い方”だ」


エルマ「……どういうこと?」


レイは目を閉じる。


レイ「……見ていれば分かる」


全員はソラを見る。

完全に押している。

だが、AIの動きが変わる。


《確率干渉》


《進行》


次の攻撃。

明らかに外れる腕の軌道。

ソラの横を通る――はずだった。

その瞬間。

“当たる”。

ソラの頬を掠める。

ピッ、と血が飛ぶ。


ハルト「……っ!?今、当たったよな……」


ソラの目が、ほんの少しだけ細くなる。


ソラ「……やっと来たか」


さらに連撃。

全て“外れる動き”。

だが。

その全てが、“当たる側”へ転ぶ。


ソラが回避。

ギリギリで避ける。

だが。

完全には避けきれない。


服が裂ける。

血が滲む。

それでも。

表情は変わらない。


ソラ「……いいね」


コインを回す。


ソラ「やっと」


目が鋭くなる。


ソラ「同じ場所に来た」


AIの動き。

わざと外す攻撃。

それでも当たる攻撃。


クロウ「……ということは」


レイ「AIは今、“高確率をあえて外す”ことで、低確率を成立させている」


全員が何かに気づく。


レイ「つまり、“外れる行動”を選んでいる時点で、その結果が“低確率成功”に変わる」


トア「……同じ土俵に立ったってことね」


さらに目を凝らす。


レイ「幸い、ソラはそれに気づいてる」


ソラの動き。

コインを真っ直ぐ弾く。

今度は正面。

本来は当たる軌道、だが能力により当たらない――はず。

それでも、“当たる”。


リン「え?なんで今当たったの……?」


レイは答える。


レイ「能力をわざと使わないことで、AIの解析を混乱させてる」


ハルト「……読み合い、か」


レイ「うん」


静かに言う。


レイ「“世界のルール同士の衝突”だ」


戦場では。

確率が歪む。

拮抗。

だが――その均衡はゆっくりと。

確実に。

崩れ始めていた。

To be continued…

第26話 役に立てる

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