27.護衛対象と旅
次回は【アーリアの街と調合料理】です。
ベルを連れていこうか迷ったあげくにベルの眼差しに負け、連れていくことにした。旅=色々な物が食べられる。ベルの中ではきっとそんな印象になっているのだろう。連れていってグショウ隊長に却下されたら、その時に考えるか。私はベルを肩に乗せるとフォレストを出発した。
騎士団と合流したのは街の人通りが多くなる午前9時だ。
騎士団のメンバーはグショウ隊長、リュン、ダンの3人だ。その背後に黒髪の浅黒い肌の同じ年ぐらいの青年、濃くて長い茶髪の20歳くらいの青年、短いクルクルの黒髪に眼鏡をかけた年齢不詳の男性がいた。
6人とも騎士団らしさは全然なく、むしろ旅一座といった格好だ。
「紹介は後ほど。お二人は馬車をお貸ししますのでこちらの服に着替えてください。あら、ライファさんは随分可愛い子をお連れですね。」
「私の魔獣なのですが、連れて行ってもいいですか?案外役に立つかもしれませんし。」
「まぁ、その体の小ささですし期待はしないですけど、でも邪魔にもならなそうですね。いいですよ。可愛い動物というものは癒しになりますからね。」
「ありがとうございます。」
同行を許されたことでベルも嬉しそうにキュンと声をあげた。
私たちはグショウ隊長に言われた通りに一人ずつ馬車に入ると着替えた。私の服は踊り子の衣装のようだ。よく見かけるタイプのものよりは露出が少なくはなっているが体のラインが良くわかる衣装で、大きく開いた背中と太ももまで大きく開いたスリットが流石に恥ずかしい。私は脱いだ服の中からポンチョを羽織ることにした。
「あぁ、せっかく素敵な衣装を選んだのに、羽織ってしまうなんて残念ですね。でも、まぁ、いいでしょう。」
隊長はゆるゆるした口調で言うと、ポンッと指を弾き、あっという間に私の髪の毛を結い上げた。
「ライファさんは元がいいから、化粧がなくても案外カタチになりますね。」
「ライファさん、キレイです。」
「ありがとうございます。」
リュンが少し顔を赤らめて褒めてくれる。弟がいたらこんな感じなのだろうか。愛くるしいリュンに癒され、つい微笑む。
トトはパリッとしたシャツに裾の広がったズボン、大きな羽のついた帽子だ。なかなかインパクトのある服である。
「服装をみてお気づきかと思いますが、我々は旅一座ということになります。この人数で怪しまれないためには旅一座が一番手っ取り早いので。」
「いいか、もう、行くぞ。」
黒髪朝黒肌の男がぶっきらぼうに言った。大きな刀を腰にさし、動きやすさに重点を置いたような衣装、剣舞の踊り子といった役割か。
「「はっ。」」
皆が返事をした姿を見る限りこの人物が最重要人物なのだろう。
皆が馬車に乗り込みダンが御者となり馬車を走らせた。
「今のうちに紹介しましょう。こちらにおられるのは、オーヴェルの第一王子、クオン・オーヴェル王子です。ターザニアで学んでおりましたが18歳になると行われる親任式の為に国に帰ることになりました。我々の任務は王子を無事にオーヴェルに送り届けることです。」
私とトトは目を見開いた。そんな人物がターザニアに来ていたとは。オーヴェルはユーリスアから海を挟んで東にある。世界で1、2を争う大きな国だ。国土の半分は砂漠になっており、点在する緑の元に街がある。古代遺跡も多く、不思議とロマンに溢れた国だ。これは楽しみである。
「あの…親任式って何をするものなのですか?」
「今回は国王が直々に次の国王を指名するのです。実際に国王になるのは現国王が亡くなってからになりますが。」
グショウ隊長が説明してくれた。
「そしてこちらの男性が側近のキース・エミリオン。」
グショウ隊長の声に私は緩んだ口元を引き締めた。20歳くらいの青年が人懐っこい笑みを浮かべて挨拶をする。良かった、話しやすそうな人だ。
「私はジョン・リーブス。王子の警護担当だ。敵は全部、蹴散らしてやるから安心しろ。」
グショウ隊長が紹介する前に自ら自己紹介をしたのは年齢不詳のあの男だ。クルクル頭に眼鏡、衣装は胸元と袖に大きなひらひらのついたシャツに白と黒の太いストライプ模様のパンツ。怪しい以外の言葉が思い浮かばない。その姿にクオン王子は頭を抱え、キースは困ったように笑った。
「腕は確かなので安心してください。」
キースがフォローする。王子に付いているたったひとりの護衛という事実が、その腕の証明だろう。
馬車が止まり、ダンが着いたぞと声をかける。馬車を降りると今まで来たこともない森だった。深い緑色が鬱蒼としており少し気味が悪い。ダンが馬に食べ物を与え何か呟くと、馬は走り出しどこかへ行ってしまった。不思議な顔で走り去る馬を見つめているとダンが私に言った。
「騎士団の元へ帰って行ったんだよ。ここで待たせるには長すぎるからな。」
ダンが優しく笑った。ダンは馬が好きなのかもしれない。
隊長を先頭に、王子を真ん中に、背後はダン。まとまって森の奥へと歩いて行く。何か音が鳴るたびにトトがヒッと声を上げ、リュンが大丈夫ですよと声をかける。リュンの服の裾をつかんで歩くその姿をクロッカが見たら、顎が地面に着くくらい大きな口を開けて呆れるに違いない。
グショウ隊長は途中で歩みを止め、魔方陣を起動した。その魔方陣に紙のような何かを侵入させると魔方陣から裂け目が現れ、そこから緑色の光が漏れた。
「さぁ、こちらへ。」
私たちはグショウ隊長に導かれるままその裂け目に侵入した。
侵入したそこは暗い空間でまるで壁のない部屋だ。床に緑色に光る大きな魔方陣が描かれている。壁がないからこそ、その空間の大きさは曖昧で、魔方陣の上に立っているとはいえここがどれほどの高さにあるのかも分からない。
「これが空間移動魔方陣・・・。」
呟くようにリュンが言った。
これが空間移動魔方陣!?家にあるものとは大違いだ。何より、この凄そうな雰囲気。家の魔方陣はトイレにあるし、すっかり慣れてしまって、もはや最近は扉のような感覚だった。
「・・・・グリュン グレイ トワ ソワ・・・オーヴェルへ。」
グショウ隊長が呪文を唱えると大きな光が走り、魔方陣が起動した。私の魔力ランクを知っているトトが私がはぐれないようにと手を掴んでくれる。私は肩に乗っているベルを慌ててポンチョの中に入れた。
気付くと真っ暗な空間に立っていた。魔方陣は消えており、他には何もない。グショウ隊長が呪文を唱えると真っ暗な空間に裂け目が出来、そこから光が毀れた。そして私たちはその裂け目から外に出た。
・・・まぶしい・・・。
強すぎる太陽から目を逸らすように手で目を覆っていると、誰かが私のフードを被せてくれた。振り返るとクオン王子がいた。
「ターザニアと違ってここは日差しが強い。フードを被っておいた方がいいだろう。」
「ありがとうございます。」
とっつきにくく冷たそうな外見ではあるが、人並みの優しさはあるようだ。と、失礼ながらそんなことを思う。他の皆は薄い布を頭に巻き付けているところだった。
そのまま1時間ほど砂漠の中を歩く。
暑い・・・
砂に足をとられて歩きにくい。前に進もうとするたびに砂に沈む足が体力を奪ってゆく。ベルも暑さでゲッソリしている。体の小さいベルに細々と水をあげ、脱水症状になりないように注意した。
「あそこに見える街で休憩しますから、もう少し頑張ってくださいね。」
グショウ隊長が一番弱っているトトに向けて声をかけた。
確かに遠くに緑の塊が見える。
「飛獣石には乗らないのですか?」
疑問に思ったことをリュンに聞く。
「飛獣石は貴族しか乗らないですからね。平民が多いここで乗ると目立ちすぎるんです。今回は目立たずに行動するというのが一番の防御になりますから。」
「なるほど。」
容赦なく太陽が注ぎ、隠れる場所を持たない私たちは容赦なく焼かれ、身を守るのは身に着けている服だけだ。額から顔から汗が伝い肌を湿らす。各自水分を補給しながら、前へと進んだ。足が重くなることで自然と視線が下を向く。
「ほら、着いたよ。」
キースは前のめりになっている私の体を支えるようにして起こすと笑いかけた。
「頑張ったね。」
はぁっと大きく息を吐く。
「オーヴェルは灼熱の国、ですね。」
キースに向かって言う。
「本で読んで知ってはいたのですがこんなに暑いとは思いませんでした。」
ヘロヘロのトトがダンに抱きかかえられるようにして私に追いついた。
「この旅で体力もつきそうですね。」
私が笑うと、トトは力なく口の端だけで笑った。
村の入り口にある大きな木の下に座って水を飲んでいる。グショウ隊長が街の入り口にいる門番に街に入る許可を貰い戻ってきた。
「今日はこの街に一泊して、必要な物を揃えますよ。」
村は小さいながらもたくさんの人がおり、賑わっている。クオン王子が懐かしそうに街を見ていた。
「ここはアーリアという街でオーヴェルの入り口とも言われているんですよ。」
リュンが街の説明をしてくれる。奥ではキースとグショウ隊長が今後のことを話しているようだった。
「さぁ、行きましょう。」
グショウ隊長の声で立ち上がり、街へ足を踏み入れた。




