共闘
「一体、目的はなんなんだ……?」
一方的に捲し立てると、白石は姿を消してしまった。
「ていうか、全部見られてんのかよ……!」
辺りを見回しながら、ヒロは空中を睨み付ける。
モルモットのような扱いにヒロは憤慨しながら、ヒロは街の外へと向かう。
(白石……あいつの手の平で転がされてるようで癪に触るが、進むしかない)
第三の街から続くフィールドは土と岩しか無いような山だった。
幾つもある道が山頂へと続いている。
そして、ボスがいるのはその途中の洞窟の最深部だ。
ヒロは山道を歩いていく。
緑の鎧は、やはり予想通りにパワーアップの効果を秘めていた。
「本当に楽だわ、この鎧……」
鎧の効果にヒロは感想を漏らす。
現在装備している矢は通常よりも一本多く増えて、更に敵を追尾する機能まで備わっていた。
「これ、適当に投げ続けるだけで途中の敵全部倒せるし」
遮蔽物の少ない岩肌の山では、上向きに矢を放るだけで敵のもとまで自動で飛んでいく。
ヒロは道中、一度も防具が外れる事なく洞窟まで辿り着く事が出来た。
「あー……そりゃそうか、明かりを持とうとすれば、武器が松明に変わるわな」
明かりを取り出そうとした途端に、矢の代わりに手のなかに青い炎を放つ松明が握られていた。
松明を敵に投げ付け、いりくねった道を覚えながら進む。
狭い通路の中では火炎瓶のように燃え盛る松明は効果的だった。
「VRじゃなきゃ、一酸化炭素中毒で速攻病院行きだな……」
通路という通路を青くたぎる炎で埋め尽くし、ヒロは洞窟を進んで行った。
分かれ道や行き止まりも調べ終えて、残す所は最深部のみとなった。
「……やけに順調過ぎるな……」
これまで、何日もかけてボスまでの道程を制覇してきたのに比べて、たった一度でここまで来れた事に不信感が募る。
「白石の登場といい、何かあってもおかしくないよなあ……」
そして問題無く、洞窟一番奥の最深部へと到達する。
「さーて、どんな理不尽を……」
足を踏み入れ、ボスを見つけてヒロは絶句した。
「――アリかよ、こんなの……」
それから数日経ち、トモ達パーティーとヒロは合流した。
「クエストで探してみたんだが……やっぱりこの鎧と同じものは出なかったよ、すまんな」
「いや、気にしないでくれ……、トモが装備してれば俺もコピー出来るしさ……」
「……どしたのさ? ヤケに元気無くなってない?」
ヒロの様子にシルフィが問い掛ける。
「……実は、この前酒場を出た後、このゲームの開発者に会ったんだ」
「この『フロンティア・オンライン』のか?」
「GM、って事だよね?」
トモとシルフィにヒロは答える。
「ああ、俺に……こんなクソみたいな仕様をくれやがった張本人だよ」
ヒロはあの時あった白石の事、そして奴の言った言葉に、洞窟の奥で見た事を話す。
「ともかく、行ってみるしかないな」
ヒロが一頻り説明し終えると、トモはそう言った。
街を出て、パーティー四人で洞窟を目指す。初めて来た時と同じようにヒロは矢を放って敵を寄せ付けない。
「……こりゃ、当分俺の出番は無さそうだな」
ヒロによって殲滅されていくモンスターを見ながらトモは言った。
「《斥候》の矢の消費や《魔術士》のMP消費みたいな消耗無しでこの戦果はずるくない?」
自分の仕事を取られ、シルフィが愚痴る。
「いくら自分が二発でやられるからって、これはちょっと便利過ぎるな」
四人は、ピクニックでもするかのように緊張感無く山を登って行く。
「流石に洞窟みたいな狭い場所じゃこんな攻撃出来ないし、今だけだって……」
ヒロはそう言って他のメンバーを宥めた。
野外であれば上空に制限が無いため、上に向かって投擲すればいいが、洞窟内など天井があればこの方法は使えない。
また、松明など範囲効果がある武器も洞窟内では味方にまで危害が及んでしまうため使う事が出来ない。
洞窟まで辿り着いたヒロは、味方への誤射を避ける為に使用する武器を制御しやすい短槍に変化させた。
トモを先頭に洞窟内を進んでいく。
トモが敵の足を止めて、咲が補助を行い、シルフィが敵へとダメージを与えてヒロとトモが止めを刺す。
各々が役割を果たして、洞窟の奥へと辿り着いた。
「……マジかよ」
目の前に起こった出来事にトモは目を見開く。
「「我に力を示せ」」
それは、ボスモンスターが第四の街へ続く門の前に二体並んでいる様子だった。
「こんなの攻略情報にあったか……?」
「『足りない』と思ったから足したんじゃないか?」
五メートルを越す、全身甲冑の姿は巨大なロボットのようにヒロは思えた。
それが二体。
単純な戦力増強。
一体でさえパーティーでの戦闘を余儀なくされる敵を更に、一体追加する。
「おいおいおい……。明らかに敵側のバランスブレイクだろう。こんなのまともに倒せる訳無いじゃないか」
トモが頭を抱える。
他のメンバーも言葉が出ないようだ。
「二体同時になんて、とてもじゃないが抑え切れないぞ俺は……」
「一体だけでいい」
愚痴るトモにヒロは言う。
「一体抑えてくれれば、直ぐに片付けてやるよ」
トモの背中を叩き、ヒロは笑いかけた。
「魔界村の英雄、なめんなよ?」
「……なんだそりゃ」
トモも、ヒロへと笑って答えた。
「よーし……、準備出来てるか? 出来てりゃ今すぐに、あのGMの悪ノリに突撃だ!」
その時、ヒロのアイコンが開いた。
「ちょっ、ストップ! すまん」
『ヒロさん』
『よぅ、ヒロ』
『今、どの辺まで進みましたか?』
『アンタ、一体どこまで進んだんだい?』
『え?』
『あん?』
ほぼ同時に、同じ内容の指定ボイスを二人からヒロは受け取る。
リコとエダだった。
「これから第四の街手前のボスなんだけど……、ってあれ? おーい……」
指定ボイスはヒロの答えを聞く前に回線を閉ざされていた。
「なんだったんだ?」
「もういいのか?」
トモがヒロへと声を掛ける。
「ああ、もう大丈夫みたいだ」
困惑しながらもヒロが答えた。
「それじゃ、仕切り直して……準備はいいか?」
メンバー各々が答える。
「行くぞぉぉぉぉぉらぁ!」
トモが駆け出して、ボスの一体の足へと切り掛かった。
それと同時にヒロも、もう一体へと短槍を放つ。威力を増した短槍は炎を纏って敵を射抜く。
ヒロとトモは敵を挟んで向かい側へと並んだ。咲とシルフィはトモの後ろで補助へと回る。
甲冑の握る人の背丈以上にある剣がトモへ向かって降り下ろされる。
「ふぐぅ……そぉ!」
盾でその剣の軌道逸らすが衝撃にトモの腰が沈んだ。
「《守備力上昇》!」
「《風弾呪》!」
トモの身体が淡い光に包まれ、凝縮された風の弾丸が甲冑を穿つ。
だが、甲冑は怯むことなく剣をトモへ向けて凪ぎ払う。
横凪ぎに飛んでくる剣先を、トモの盾が跳ね上げた。
「そう簡単に倒れると思うなよ!鎧野郎!」
既にトモのHPは半分程まで削られていた。
「《回復祈》」
咲が直ぐにトモのHPを回復させる。
「壁騎士のHPこんだけ削るって、どんな攻撃力してんだよ……これも悪ノリで上乗せされてるってか?」
トモのスキルも、パラメータもパーティープレイを前提に考えられ、防御力に特化した構成となっていた。
それを、このボスはいとも容易く、凌駕する。
「……早めに頼むぜ、ヒロ」
切った啖呵とは裏腹に、新しく入ったパーティーメンバーへとトモは期待を託した。
甲冑の剣を掻い潜りながら、ヒロは短槍を目の前に直接突き入れる。
距離を取らずに、甲冑の周りを駆けずりながら、攻撃を当てていた。
未だ甲冑は背中合わせのままで対峙している。
もし、このまま離れて攻撃に移ればトモの方へと矛先が向く可能性があった。
その為にヒロは着かず離れずの距離に保ち攻撃を繰り返す。
ヒロはこの数日、たった一人でここのボスと相対していた。
二体との攻防はとても打ち破れるものではなかったが……。
だがしかし、攻撃のパターンは全て確認していた。
何十回と繰り返した、ボスの攻撃の予兆を見極め的確に攻撃を当て続ける。
「時間制限もない、単調な攻撃の繰り返しなんて……ただのぬるゲーなんだよっ!」
ヒロの突きだした槍が、甲冑を貫いた。
甲冑にヒビが入り、徐々に亀裂が走って行く。甲冑がその動きを止めた。
ヒロは甲冑から離れ、
「喰らえっ!」
止めの一撃を投げ入れた。
崩れ落ち、甲冑が塵へと還る。
「後、一体!」
次の目標へと向けて、ヒロは走り出した。
程無くして、二体とも塵へと還す。
トモが甲冑からの攻撃を受け流し、後ろからヒロとシルフィが攻撃を叩き込み続け、呆気なく戦闘は終了した。
「単独でボス撃破なんて……、化物だな」
「いや、そもそも動きが違うから」
「二段ジャンプに回避ステップで長距離を移動するとか、ゲームが違い過ぎる」
ヒロの動きに対してのパーティーのメンバーは非難を繰り返していた。
「俺だってしたい訳じゃねぇよ!」
代われるものなら代わって欲しい、とヒロは切に思った。
そして、ヒロ達パーティーは第四の街へと向かった。
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