邂逅
ヒロは、トモに連れられて街の酒場へと訪れていた。
ヒロは利用した事が無かったが、どの街も共通して酒場でサブクエストの依頼を受ける事や、HPとMPの回復などを行う事が出来る。
「この鎧だったら、クエストの報酬で貰ったやつさ」
酒場には、咲とシルフィの二人がトモの帰りを待っていた。
「それって、直ぐに出来るのか?」
「クエスト自体は、簡単な『おつかいクエスト』なんだが……これが出たのは日替わりのやつなんでな。他でも報酬として出るのか分からない」
「そうか……」
単純に、モンスターの討伐やアイテムの収集ではなく、NPCの間を行き来するだけで達成する事が出来る様なサブクエストは『おつかいクエスト』などと呼ばれている。
「そんなにこの鎧が必要なのか?」
「ああ、この先それがあるのと無いのじゃ大違いになると思う」
「なら、一つ条件を飲んでくれれば……譲ってもいい」
そう言って、人差し指を突き立てた。
「俺達のパーティーに入らないか?」
トモは微笑んだ。
「……悪いが、その条件は飲めない」
ヒロは、自分の仕様が他のプレイヤーとは違う事、そして、この街までどんな方法で辿り着いたのかこれまでの経緯を話した。
「ホントに魔〇村だったのか……」
「俺だって、こんな馬鹿気た仕様信じられないさ……」
「その仕様でここまで来れるお前も信じられないよ」
トモは苦笑いを浮かべ、咲とシルフィは黙ったままだった。
「……最初にパーティーを組んだ時と変わらない。同じパーティーに女性がいるなら俺が入るのは不味いだろ?」
ヒロはそう、トモへ言った。
「私は構わない」
咲がヒロへ向けてそう言う。
しかし、その視線は何処か俯きがちにヒロからは見えた。
「あたしもいいよー」
シルフィが咲に同調する。
「二人が良いって言うなら俺が気にする事なんざねぇさ」
トモが言った。
「あー……、でも、他のメンバーも良いって言うか分からないだろ?」
それでもヒロは断りを入れようとする。
最初にパーティーを組んだ時、他にも女性メンバーがいた筈だった。
「いないよ。今俺達のパーティーはこの三人だけだ」
首を振って、トモは否定し言葉を続ける。
「お前のかわりにメンバーを補充して、先へと進んだんだが……そいつがただのナンパ野郎でな」
そして、パーティーの仲も悪くなり、内部分裂に至ったという。
「俺達もここから先へ進むには戦力が足りなくてな。猫の手も借りたい所だったんだ。まあ、お前の仕様なら火力として百人力って所だがな」
そう言って、トモは笑いながら手を差し伸べる。
少し悩んでから、ヒロもその手を掴んだ。
「迷惑かけると思うが、宜しく」
「……おっどろいたな、本当に防具が変わるのか」
「信じて無かったのか?」
いやいや、とトモは苦笑するが未だ自分と同じ防具を纏ったヒロをまじまじと見つめる。
今現在、ヒロが着ているのはトモと同じ緑の鎧だった。
「俺達はまだ暫くはこの街でクエストとレベル上げをする予定だったんだが……ヒロはどうする?」
「俺は、そうだな……」
トモ達の職業は、最初に出会った頃と違いクラスアップを果たしていた。
「先に進む為に、ボスまでの道程を偵察でもして回るよ」
そう言って、メンバーから離れた。
人数が少なくとも、前衛後衛揃ったこのパーティーの中では、ヒロの出番はあまり回ってくる事はないだろう。
ならば、足りてない《斥候》としての仕事を賄おうとヒロは模索していた。
酒場を後にして、ヒロは街を歩く。
そう言えば、リコの様子はどうだろうか、そんな風にヒロは思いながら街の出口へと向かっている途中で、
「ヒロさん、ですね?」
そう言って、話し掛けてくる男の姿があった。
「やぁやぁ、こうしてちゃんとお話出来るのは初めてですね。初めまして、私は白石と申します」
ニコニコとした人当たりの良さそうな顔を浮かべてヒロへと向き合っていた。
ヒロはその名前にどこか聞き覚えがあった。
「おや、緑の鎧もちゃんと手に入れられたようですね? サブクエストは行なっていなかった様ですが……流石ですねぇ」
男は喋り続けた。
「ああ、第一のエリアのボスに第二のエリアの攻略、とても見事でした。第一のボスの咆哮、あれわざとダメージが一だけ入るように設定してあるんですよ。それに第二のボス……出来れば、一人でクリアして貰えた方が嬉しかったのですが……。いえ、こちらの用意した物の隙間を突かれて攻略されるというのも、大変結構」
「お前は一体……?」
「これから先もどうやって私の予想を裏切ってくれるのか、わくわくして溜まりませんねぇ。出来れば最後はオーソドックスが一番だと私は思いますよ?」
男はヒロに対して一方的にまくし立てる。
「誰なんだよ、お前」
「おや?もうお気付きでしょう?」
くつくつと、男が喉を鳴らす。
「『貴方が満足出来るゲームとして仕上げた』者ですよ」
男の口角がつり上がる。
ヒロは思い出した。
たった一つだけ返ってきた返信の送り主を。
「白石、明人……!」
「どうですか?これ以上ない程の仕上がりでしょう?」
血液が沸騰していくような、血の巡りをヒロは感じる。
「ふざけるなっ!」
「おや……?そうですね、まだ『足りません』よね?」
「お前のせいで、俺は、俺は」
「イベントを追加しなくてはいけませんねぇ……」
聞く耳も持たず、白石は踵を返す。
「また何れ、ゆっくり語り会いましょう」
白石は塵となり消えて行く。
それはどこまでも一方的な邂逅だった。




