8 ドッペルゲンガーの正体
「改めて、伊藤先輩と桜先輩の後輩の小林結です。よろしくお願いします!」
カフェの中。みんなで席につき注文を終えたところで、改めて自己紹介され、すごい勢いで頭を下げられる。
「えぇっと、桜の幼なじみの佐藤小春です。小林さん、私のことを知ってるの…?」
「実は、ワタクシ、桜先輩の大ファンでして、前に街でご一緒されてるのを何度か見かけたことがあり…」
今度はもじもじしながら、小林さんは話しだす。
桜のドッペルゲンガーさんは、桜のストーカーさんだったようだ。
「桜先輩は、うちの学校の中でも人目を引く存在で、金髪でメイクもオシャレで、いつも堂々としていて、頭も良くて…とにかく、すごく憧れてるんです!!」
キラキラした瞳と目が合う。
「じゃあ、その見た目も田中の真似してるの?」
向かいに座った伊藤くんが、気になっていたことを聞いてくれる。
「真似だなんておこがましいですが、少しでも桜先輩に近づきたくて、見た目だけでも近づけられないかと…」
しん、と会話が途切れたタイミングで、
「あ、いたいた! お待たせー!」
喫茶店に入るときに連絡していた桜がやってきて、お店の人に断って、お誕生日席に椅子を持ってきて座る。
「さささ、さくらせんぱい!?」
小林さんは驚いて目を丸くするが、桜は気にせずに話しかける。
「はじめましてー! 会いたかったよー、ドッペルゲンガーさん!」
「ははははじめまして! 一年三組の小林結と申しまする!
どとどドッペルゲンガーとはいったい…?」
緊張で語尾がおかしくなっている小林さんに、ドッペルゲンガーの話を説明する。
「わわたくしごときが、桜先輩の分身なんて! こんな格好をしてしまい、大変申し訳ありません!!」
今度は桜に向かって、ガバっと頭を下げる。
「いいよー、真似してくれるなんて嬉しい! でも結! ちょっとよく顔を見せて!!」
緊張で固まっている小林さんの顔をまじまじと見つめる桜。
どうしたんだろう。
「あんた、ぜんぜん髪色とメイクが顔立ちと肌に合ってない! それに、肌弱いんじゃない? 荒れちゃってる! 私と同じ化粧品じゃなくて、自分の肌に合うのを使わなきゃ!! ちょっとこのあと、一緒に買いに行こう!」
と、メイクや化粧品のアドバイスを始めた。
「真似してくれるのも嬉しいけど、自分に似合った格好をするのが、一番自信が持てるから!」
「桜先輩…!」
感動で目をうるませている小林さん。
これは、ますます桜は好かれてしまいそう。
「無事に解決してよかったね」
微笑ましく二人を見ていたら、向かいに座った伊藤くんが、こっそりと話しかけてくる。
「うん、伊藤くん、小林さんに声かけてくれてありがとう。私一人だったら、できなかった。渡辺くんも、着いてきてくれてありがとう」
「どういたしましてー」と軽く言う伊藤くん。
ちょっとチャラく見えるが、恐ろしいくらい社交的なだけで、明るくていい人みたいだ。
「うん」と頷く渡辺くんは、口数は少ないが、はじめから桜の別人だと分かっていたし、今も時折うなずきながら話を聞いてくれたし、観察力に優れたいい人みたいだ。
桜と話が弾んでいる小林さんも、いい後輩みたいだし、桜に悪いことが起こるんじゃないかと思ったのは間違いで、本当に良かったと、私も笑顔になる。
こうして、桜のドッペルゲンガー騒動は穏やかに幕を閉じた。




