5 暗号の解き方
「あー、緊張した。いつバレるかヒヤヒヤしたぜ」
伊藤なんちゃらさんが、大きく息をついて座り込む。
私も大きく深呼吸して、疑問に思ったことを聞いてみる。
「桜、暗号が解けたの? 一体どうやって??」
「ちょー簡単よ! パンフレットの表紙と裏表紙の線と星マークは、モールス信号になってたの。“午後四時半に屋上で”“気持ちを伝えさせてくれ”って」
「桜、モールス信号が読めるの!?」
「昔、うちのオヤジがちょっとハマっててさ、聞いてたら覚えちゃった」
さらっとすごいことを言う。さすが桜、頭もいいからなせる技だ。
桜が言うには、去年までこの学校にはアマチュア無線部があったらしい。
おそらく、さっきの二人はその卒業生で、二人ともモールス信号に馴染みがあったから暗号に使ったのだろうという桜の予想だが、概ね合っていそうだ。
「面白そうだから、小春と一緒に私も夕日を見ながら野次馬しようかなと思ったんだけど、伊藤! あんたたちはなんで来たわけ?」
伊藤なんちゃらさんに向かって、桜が声を上げる。
「それが、湊が…あ、こいつ俺のダチの渡辺湊。こいつが突然、屋上まで俺を引っ張ってきたんだよ」
全員でお連れの渡辺なんちゃらさんを見る。
「女の子二人だと、危ないかもしれないと思って」
おぉ、初めて声を聞いた。低くていい声だ。
「ということは、お友だちのワタナベさんとやらも、パンフレットの暗号を解けたの?」
「渡辺湊。湊でいいよ。俺もモールス信号だって分かったから、携帯で文字を調べて。男からのメッセージみたいだったから。女の子二人が屋上に向かってるのを見かけて危ないかなって」
湊さん?はなかなかジェントルな方なようだ。
「ほほーう、伊藤とは違って、湊はなかなかおもしろそーなヤツじゃん! 私は田中桜。こっちは幼馴染の佐藤小春。ヨロシク!」
桜も興味を惹かれたみたいだ。
私もペコリと頭を下げる。
「せっかくだし、みんなでファーストフードでも食いながら打ち上げしようぜ!」
伊藤なんちゃらさんが提案する。相変わらず少し距離感が近い。
「小春に近づこうったって、そうはさせないよ! 今日は二人でお茶して帰るんだから! バイバーイ!」
そう言う桜と腕を組みながら、男子高校生二人を残して、その場を後にした。
階段を下りたところで、桜に聞いてみた。
「桜は伊藤なんちゃらさんと仲がいいの?」
「なんちゃらさん…ぷぷ、そうそう、あんな奴の名前覚えなくていいからねー。
仲がいいっていうか、去年から二年連続で同じクラスで、まぁ普通に話すかなって感じ? あいつは社交的でクラスみんなにあんな感じ。
でも、今日はしつこく小春に絡んでた気がするから、気をつけてね」
「もう、そうそう会うこともないだろうから、大丈夫だよ」
ははは、と笑って返事をしたが、私と桜と伊藤なんちゃらさんとお連れの渡辺湊くんは、今後も浅くないご縁が続くことになるとは、この時の私は思いもしなかった。




