2 困ったときは警察に
クラスメイトの涙におろおろとしていると、桜が「とりあえず、ここだとなんだから移動しよう」と提案してくれた。
「高橋さん、大丈夫? そこの喫茶店に一緒に入ろうか。話を聞くよ?」
泣いている高橋さんの肩をさすりつつ、近くにあった喫茶店を指さす。
店員に不思議がられつつ、案内されたボックスシートに桜が座り、高橋さんと私は向かいに腰を下ろす。
「オレンジジュース三つ、ください」
桜が適当に注文してくれる。
正直、何が起きているのか私も分かっていないが、泣いているクラスメイトを放って帰ることはできない。
「えっと、こちらは私の幼馴染の田中桜。桜、こちらはクラスメイトの高橋さん」
ジュースが届き落ち着いたところで、とりあえず、二人を紹介する。
「よろしく。ところでクラスメイトの高橋さん。一緒に警察に相談しに行こう」
警察? 驚いて桜を見る。高橋さんも驚きで涙が止まったようだ。
桜は高橋さんの涙の理由が分かっているみたいで、そのまま話を続ける。
「受け子、やらされてるんでしょ。正確には、出し子かな?」
受け子、出し子…ってあの、振り込め詐欺とかで被害者からカードを受け取ったり、お金を引き出したりする人のこと?
「どうしてそれを…」
高橋さんが答える。
「自分以外や家族以外の名義のクレジットカードに、そんな泣いているのを見たら、分かるっしょ!」
いやいや、私は分からなかったけど…。
そういえば、桜は昔から勘が鋭く、話していないことも察してくれることがあった。
「高橋さん、本当にそんなことに巻き込まれてるの? 一体どうして…」
私は驚いて高橋さんに聞く。
「…普通のアルバイトだと思ったの。ちょっと時給がいい普通の販売のアルバイトだと。
そしたら、カードが届いて、お金を引き出してこいって連絡があって…
応募するときに学生証の写真を送っちゃってて、やらなかったら家とか学校に行くぞって…」
そう言って高橋さんはまた泣き出してしまう。
確かに、うちの学校は私立でアルバイト禁止、家も厳しいところが多く、そんなのがバレたらと思うと恐ろしくなる。
「実際に犯罪をするほうがマズいから!! 受け子や出し子は下っ端だから、たぶん脅しただけで、実際には来ないよ。来ても、警察に何とかしてもらおう!」
やけに詐欺事情に詳しい桜を疑問に思いつつ、私も高橋さんを説得する。
「そうだよ、とにかく一人で抱えてちゃダメだよ。私たちも一緒に行くから、警察に相談しよう」
「…一緒に来てくれるの…?」
私と桜で大きく頷く。
「ありがとう、そうする…」
そうして、三人で最寄りの警察署にやってきた。
事情を話すと、生活安全課に案内された。
優しそうな警察のお姉さんに、高橋さんは涙ながらに事情を説明する。
一緒に話を聞きながら、高橋さんの震える肩を、ときおりさすってあげる。
誰にも相談できずに、お金の引き出しを実行までしようとするなんて、とても、とても怖かったに違いない。
「話してくれてありがとう、あとは警察に任せて」
迎えに来た親御さんに高橋さんを引き渡し、私と桜も警察署を後にする。
すっかり空は暗くなってしまっている。
桜と一緒にいるのを知っているから、水曜日は多少帰りが遅くなっても、家族には連絡しなくて大丈夫だ。
桜もそうだろう。
「あ! コラボ商品買うの忘れた! 小春、コンビニ戻るよ! ついでに小腹がすいたから、肉まんでも食べよー」
何事もなかったかのように、桜が叫ぶので、私も自然と笑顔が戻る。
「買いに行こう! ランダム誰が出るかなー?」
そうして、二人でまた雑踏の中に戻っていった。
ちなみに、お金を引き出す前に警察に相談したことや、高橋さんのご両親が雇った弁護士さんの力もあったようで、高橋さんの学校での処分は厳重注意で反省文を書かされるだけにとどまった。
「学校の誰にも話さないでいてくれて、ありがとう」
と、後日、高橋さんには改めて感謝され、以来、挨拶と少し会話をするくらいに仲良くなっている。




