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小春と桜の事件ノート  作者: Ryo Hishida


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13 犬の散歩にご用心

「あ、あの人あの人。ワンちゃんが可愛くて見てたんだけど、はじめは前から来たあの人とすれ違ったの」


私たちは、公園の外周を三周した。

一周目、前からくる犬の散歩をしている男の人とすれ違った。

二周目、同じ方向に歩いている犬の散歩をしている人を追い越した。

そしてさらに三周目、また前から同じ人とすれ違った。


「ワンちゃんが同じ犬種だし、二周目と三周目は男の人の服装も覚えてたから、絶対に同じ人だと思う」


伊藤くんと木陰に隠れながら、少し先を歩く犬の散歩中と思われる男の人を観察する。


中肉中背、スウェット姿にキャップをかぶり、犬の散歩用バッグと思われる小さいかばんを持っている。


「うーん、なんかあの男、さっきから、あのマンションの上のほうをチラチラ見てない?」


男が、公園の向かいの通りぞいにあるマンションを見ていることに伊藤くんが気がつく。


「あ! また引き返してきた! ホントだ、ずっとあのマンションの上の階を見てる…」


男はある程度進むと、また公園の中を引き返してくる。

同じ場所を行ったり来たりして、マンションの一室を監視してるなんて、怪しすぎる!


「なんだろう、空き巣の下見…? ストーカー? どうしよう、警察とか呼んだほうがいいのかな…?」


不安に思って伊藤くんを見上げる。


「いや、犬を連れてそんなことするかな…」


そう返事をした伊藤くんは、私をじっと見てくる。


「それより小春ちゃん、一人で…」


「あ! 見て、マンションから出てきた女の人のこと見てる!」


伊藤くんが何かを話そうとしていたが、目の端に動きをとらえて、思わず遮ってしまう。


マンションから出てきた女の人を、早足で追いかける男の人。

女の人に声をかけたほうがいいかと、私も思わず身を乗り出す。


「あぶ…」


「レナ!」


私が声をかける前に、なんとワンちゃん連れの男の人が女性に向かって声を上げた。


「あれ、ダイキ! こんなところでどうしたの!? あぁ、ムギの散歩中?」


振り向いた女性は、笑顔で男の人と会話する。


「ムギ、会いたかったよー、元気ー?」


ワンちゃんも知っているようで、かがんで撫でてあげている。

私はどっと力が抜けてしまった。


「はぁぁぁ、よかった、知り合いみたいだね」


そのまま、女の人と男の人とワンちゃんは、並んで歩いていってしまった。


「でも、なんで行ったり来たりしてたんだろう? 知り合いなら、連絡して出てくる時間を教えてもらえばよかったのに」


「うーん、俺の予想だと、あれは片思い中の男かな。犬の散歩を装って、彼女に話しかけたかったんじゃないかな。一歩間違うとストーカーだけどな」


伊藤くんが渋い顔をしている。


「そうかな、大丈夫だよね?」


「ま、俺たちに今できることはないって。それより小春ちゃん!」


ひゃっ! ガバっと両肩をつかまれる。


「一人のときは、絶対に男のあとをつけようとか、危ないことに首を突っ込んじゃダメだからね!! もしあいつが本当に犯罪者で危ないやつだったら、本当に危険だから!!」


返事は? と強く言われ、コクコクと頷く。


「まったく! 心配だなー、田中と一緒でもダメだからね?」


「う、うん、そうする」


約束だよ! と念押しされて、解放される。

はー、突然真剣な顔でつかまれて、びっくりした。


「小春ちゃん、お昼は? 一緒に食べる?」


さっきまでの雰囲気とは一変して、伊藤くんは笑顔で聞いてくる。


「ううん、今日は家で食べるってお母さんに言ってきちゃったから、帰ろうかな」


「じゃあ送るよ、こっちだよね?」


「え、いいよいいよ、反対方向でしょ? 今日はここで」


「じゃあ、今度一緒にお昼食べよう! そうだ、まだ連絡先聞いてなかったよね? 聞いてもいいかな?」


とスマートフォンを差し出されたので、アプリで友だち登録をすることになった。

「よっしゃ!」と喜んでる伊藤くん。仲良くなってきたし、連絡先交換くらいいいよね…?

今日の出来事と一緒に、あとで桜に話してみよう。


「気をつけて帰ってね、じゃあまたねー!」


とブンブンと手を振っている。

大型犬みたいだ。

笑って私も小さく手を振り返し、帰路についた。

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