12 マラソンの季節
マラソンの季節がやってきた。
といっても、ここで言う私にとってのマラソンは、42.195km走る本格的なものではない。
毎年この季節にうちの高校である、マラソンの授業のことだ。
何回か事前の授業で1〜2km走る練習をしてから、本番は3km走る。
タイムを測るので、若干成績にも影響する。
しかし! 私が今回マラソンの授業をこんなに意識しているのは、成績のためではない。
なんと、私の推しているアイドルグループ、Octaveの犬顔イケメン・ダイチが、マラソンにハマってるらしいのだ!
もちろん、運動もできる彼は、10kmほどを軽く走っているようで私とは規模が違うが、最近、マラソンの話題や関連動画を続けて出している。
推しと少しでも同じものを好きでいたい、気持ちを共有したい、と思い、今回のマラソンの授業にも熱が入っている次第である。
そして、マラソンの授業が始まる前の日曜日の今日。
満を持して、早朝に駅の向こうにあるこの辺りでも有数の大きな公園に、マラソンの練習をしにやってきた。
Tシャツにジャージを羽織り、ボディバッグには水も入っている。
イヤホンでOctaveの曲を聞きながら、軽く準備運動をして、まずは早歩きくらいのスピードでスタートする。
案内図によると、公園の外周はおよそ1km。
今日は時間を気にせずに、とにかく3周走ってみよう。
公園に来るまでは少し肌寒かったが、早歩きをしているうちに少し汗ばんできた。
時折吹く風が気持ちいい。
公園では、犬の散歩や他にもランニングをしている人がちらほら。
大きい広場や遊具もあるので、お昼ごろになると、子どもたちも大勢やってくるんだろうなと眺めながら走っていると、公園の反対側で手を振っている人が見える。
「小春ちゃーん!」
名前を呼ばれたので、思わず立ち止まる。
駆け寄ってくる人をよく見ると、最近よく会う、桜のクラスメイトの伊藤くんだった。
「伊藤くん!」
「おはよう! こんなところで会えるなんて! それにその格好…どうしたの? ウォーキング? ランニング?」
と聞かれたので、マラソンの授業のことなどを話す。
陸上部の伊藤くんは、自主練でよくこの公園を使っているらしい。
「もし良かったら、一緒に走らない? ランニング、会話ができるくらいのペースをキープするのがいいんだよ」
「でも、私に合わせると、伊藤くんにとってはかなりゆっくりなペースになっちゃうよ?」
「大丈夫、大丈夫! 一緒に回ろう!」
こうして、思わぬ同行者とともに、マラソンの練習をすることになった。
共通の友人である桜のことや、お互いの部活のことを時々話しながら、2周目に入る。
ペースはゆっくりにしてもらってるが、かなり息があがってきた。
「呼吸を意識して、吸って吸って、吐いて吐いて。あと一周、ファイトー」
横で伊藤くんが、陸上部らしいアドバイスをくれる。
あー、散歩のワンちゃん可愛いなー、と息苦しさを紛らわせるために、別のことを考えるが、ん、ちょっと待てよ、何かおかしい。
「3周終わり! お疲れさまー」
はぁっはぁっ。
さすが陸上部だ。私はこんなに息があがってるのに、伊藤くんは余裕そうだ。
「伊藤くん、短距離の選手だよね? 3kmくらいなら、長距離でも余裕??」
「いや、3km本気で走ろうと思ったら、俺もかなりキツいかも。今日は軽く走ってるだけだから、余裕そうに見えてるだけだよ」
笑顔で返される。もともと運動神経もいいんだろうな。
そうだ、走っているときに疑問に思ったことを聞いてみる。
「ねぇ伊藤くん、さっきから同じ人が何度も同じ場所を行ったり来たりしてるみたいなんだけど、なんだろう?」




