<謎のホワイトハッカー>
ゴンベは益々呆れたような顔になりながら、あえてまた町会長に質問した。
「町会長さん、それならもっと若い人達を選抜できなかったのですか? 例えば正太くんとかなら、何の問題もなかったのでは?」
そんなゴンベの言葉を聞きながら、益々表情を曇らせて町会長は答えた。
「まあ、ゴンベさんのいうことはもっともじゃよ。だがな、町会内では商店や自営業者がめっきり減少してな、若い人達はみんな都内に出稼ぎに出ておるんじゃよ。つまり平日の日中に活動できる者と言えば、既に隠居した高齢者層しかおらんのじゃよ」
「確かにそうかもしれませんが、奥様達はけっこう家にいるのでは?」
「いやいやいや、別班の危険な任務を女子供にさせるわけにはいかんじゃろうが」
町会長は表情を引き締めて断固とした口調で答える。
「あの……その言い方は今時だと『差別言動』として引っかかりますよ……」
ゴンベが申し訳なさそうに言うと、町会長も理解したのか、
「おっと! これはいかんな。今のは聞かなかったことにしておくれ」
とゴンベと正太くんを見回して、片目を閉じて合図を送った。
「はぁ~……。まあメンバーに関する問題はとりあえず置いておいて、そろそろ集合をかけた本題に関して説明してもらえませんか?」
ゴンベがそう切り出すと、町会長は少し思案していたが、正太くんに向かって問いかけた。
「正太くんや、これも何かの縁じゃ。この際、君が爺さんの代わりに別班の正式なメンバーとして活動してくれんかな? いや、既にここまでの話を聞かれてしまったからのう、嫌々でも引き受けてもらわんとな……のう、ゴンベさんや?」
「いやいやいや、そこで私に振らないでくださいよ。何ですかその怖い言い方は。とは言うものの、せっかくですから正太くんにも参加してもらうことは賛成です。私も既に71歳とけっして若くはないですからね。荒事であれば、彼のような若い力も必要でしょうしね」
「あ・あの……僕には何の話か分からないのですが?」
戸惑う様子の正太くんに対して、町会長から別班に関して一通りの説明が行われた。それを聞いて正太くんも、「爺さんの補助として」ということであればと参加を了承してくれた。
「はぁ……これでようやく先へ進めますね」
とゴンベもホッとした表情で呟いた。
「うむ。他のメンバーにはこの後戸別訪問して私から直接指令を出すことにして、まずは本題に入るとしようかの」
こうして、ゴンベが来てから既に1時間が経過して、ようやく話が進められることになった。
町会長の話では、最近各班からの報告によると、各地域で違法なゴミ出しが頻発しており、それに対する何らかの対応を求められているというのである。
「違法なゴミ出しというと、一般ゴミの日にプラゴミを出したりとかですか?」
ゴンベが具体例を問うと、町会長は軽く頷きながら答えた。
「うむ。それもあるが、その程度なら各班内でも対処できるじゃろう。ここで問題になっているのは、各班に関係ない者が勝手にゴミを置いていくケースが増えているということなんじゃよ」
「関係ない者?」
「そうじゃ。例えばな、亀ケ丸町会との境界辺りだと、亀ケ丸側の住人がわざわざ越境して谷場のゴミ置き場にゴミ出しをしてくるそうだ。しかも、それが分別もいい加減で収集車が置いていくようなものらしいの」
「え? それは酷いですね。じゃあ残されたゴミは誰も引き取らないから、当番さんがわざわざ袋を開けて分別し直して出さないといけないですよね? それはだいぶ手間ですね」
「そうなんじゃよ。その手の話が多くてのう。中には明らかな粗大ゴミレベルが出してあり、当然収集されないからずっと置きっぱなしで、やむなく町会で粗大ゴミの手配をして片付けてもらったこともあるのじゃよ」
「それじゃ引取り費用をうちらの町会で負担したってことですよね? それは本当に酷いですね」
「じゃろう? なので、ここは別班として何とか解決したいと思ってのう。みんなの意見を聞いて対策を考えたいと思ったのじゃよ」
「ふ~ん。私は普段ゴミ出しとかは爺さんや妻に任せきりなので実感が無いですけど、それは困った話ですね。でも……対策と言っても、ずっとゴミの日に見張っているわけにもいきませんよね?」
黙って聞いていた正太くんが初めて口を開いた。
「人海戦術にも限界がありますからね。一番現実的なのは監視カメラを設置して、違法なゴミ出し人を特定することではないですかね?」
ゴンベが案を出した。
「ふむ。やはりそういう話になるかのう? じゃが、それだと全ゴミ置き場向けに監視カメラを設置するとなると、随分と費用がかかってしまうのではないかな?」
町会長は苦渋の表情を浮かべている。
「そうですね。うちでも監視カメラは扱ってますが、簡単なものでも数千円はしますし、設置場所によっては特別な金具も別途必要になりますからね。けっこうなお金と手間がかかると思いますよ」
電気屋の正太くんは流石に詳しいようである。
「そうなんじゃよ。しかし犯人を特定しないことには、どうにも手を出せんからなのう。その線で一応予算化も含めて検討してみるかの?」
町会長も諦めたようである。
「でも監視カメラを設置しても、やはり集約的に映像を管理していかないとダメですし、その辺の監視体制も考慮しないといけませんよね?」
「なるほど。いや、今日はゴンベさんと正太くんという、この手の話に詳しそうなメンバーが来てくれて助かったわい。実は以前から相談相手になってもらっていた人がいてな。できれば、その人も交えて話を進めたいのだが、いいかな?」
町会長が二人の顔を交互に見ながら提案してきた。
「そんな人がいるのなら是非お願いします」
とゴンベも正太くんも同意をしたので、町会長は机の上に乗せられているノートPCに向かって何やら操作を始めた。そして少しの間をおいて、二人を自分の両脇に来るように指図した。
二人が町会長の横に並ぶように座り、ノートPCの画面を見ると、そこには猫のマスクを被った人が映っていた。
「紹介しよう。彼女はホワイトハッカーで、コードネームがレモンスイマーと呼ばれている、わしの友人じゃよ」
「レモンスイマー???」
正太くんが妙な声をあげた。
ゴンベもまたコードネームを聞いて何かピンと来るものを感じたようで、
「町会長さん? まさか町会長さんの不倫相手ということはないですよね?」
と疑わしげに町会長を見つめた。
(どうやら何かのドラマで似たような設定の話があったようだ)
「違う! 違う! 何を言っておるのじゃ。そんなわけがなかろうが。単なる友人じゃよ!」
その慌てようを見て、ゴンベはさらなる疑いを抱いたようであったが、それ以上の追及はやめておいた。




