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父上、今度こそ私を迎えに来てくださいますか?

劉明珠でございます。


父上の病が、重いそうです。

夷陵では焼かれても逃げ切られましたので、今回も何とかならないものでしょうか。


玉珠にも知らせたところ、


『父上が治るまで、鼻をほじらないことにします』


と返ってきました。

珍しく殊勝ですね。

少し感心したのですが、その下に、


『三日くらいなら頑張れそうです』


とありました。


玉珠……

父上の病を三日で治す前提にしないでくださいませ。


それにしても父上――

私はまだ、あなた様に申し上げたいことが山ほどございます。

長坂のことも、夷陵のことも、三人の孫のことも。


ですから今度ばかりは、勝手に遠くへ行かないでくださいませ。


一度くらい、娘のところへ来てくださいますよね?

父上の病が、重いそうです。

その一文を読んでから、私はなかなか続きを読めませんでした。

夷陵で負けたと聞いた時とは違います。

あの時は、焼かれた、退いた、そのあとに白帝へ入ったと続いておりました。

つまり、負けたけれど生きている。

腹は立ちましたが、怒る相手はまだこの世におりました。

今回は、そうではありません。

病が重い。

その先にどのような言葉が続くのか、考えたくありませんでした。

「明珠」

文烈様に呼ばれ、ようやく顔を上げました。

「はい」

「玄徳殿は?」

「……まだ、生きておられます」

口にした瞬間、その「まだ」が嫌になりました。

まるで父上が死ぬことを、私自身が先に決めているようではございませんか。

「白帝におられます。孔明殿も呼ばれたそうです」

文烈様は黙りました。

その沈黙だけで十分でした。

孔明殿まで白帝へ呼ばれたということが、何を意味するのかくらいは私にも分かります。

「母上」

寧珠がそばまで来て、私の持っている文を見ました。

もう幼い頃のように、何も分からず覗き込んでいるだけではありません。

「お祖父様、そんなに悪いの?」

「……そうらしいですね」

「お医者様はいるのでしょう?」

「もちろん、おられると思いますよ」

寧珠はしばらく考えてから、もう一度聞きました。

「治るの?」

以前なら、私は「治るとよいですね」で済ませたかもしれません。

ですが、もう寧珠も、それだけで納得する年ではなくなっております。

「分かりません」

正直に答えました。

「私にも、分からないのです」

寧珠は黙って頷きました。

その隣で、環珠が心配そうに眉を寄せています。

「お祖父様、はないたいの?」

寧珠がすぐ妹を見ました。

「環珠……病気って、鼻だけじゃないよ」

「でも、はなもびょうきになるよ?」

「それはそうだけど……」

寧珠が困りました。

私は少しだけ救われた気がしました。

「環珠」

「なに?」

「お祖父様がお悪いのは、たぶん鼻ではございません」

「じゃあ、おなか?」

「分かりません」

「のど?」

「分かりません」

「おしり?」

「環珠」

寧珠と私の声が重なりました。

環珠が目を丸くします。

「なに?」

何でもございません。

父上が重病だという話から、どうして尻の心配までしなければならないのでしょう。

ただ、その間だけは少し笑えました。

笑えるうちは、まだ大丈夫なのだと思いたかったのです。

洛陽の玉珠にも父上の病を知らせました。

返事はすぐに届きました。

『姉上、父上はそんなに悪いのですか?』

珍しく、最初から真面目です。

最近の私は玉珠の文を読む時、最初の数行が真面目だからといって安心しないようにしておりますが、今回はさすがに最後まで真面目かもしれません。

そう思いました。

甘かったです。

『父上が治るまで、わたしも鼻をほじらないことにします』

玉珠……

それは願掛けでしょうか?

方法として正しいかどうかはともかく、気持ちは分かります。

少し感心しながら続きを読みました。

『三日くらいなら頑張れそうです』

短い……

父上の回復を三日以内に限定しないでくださいませ。

私はすぐに、

『治るまで続けてください』

と返しました。

数日後、

『夫にも同じことを言われました。一生続けてもよいそうです』

と返ってきました。

玉珠の夫君。

この機会を逃しませんでしたね。

私は全面的に支持いたします。

ところが玉珠は、

『それでは願掛けではなくなります』

と不満そうでした。

ええ……

それでよいのです。

むしろ父上の病気を利用して、そのまま治してくださいませ。

父上の病と玉珠の鼻を同時に心配している自分に気づき、私は少しだけ頭が痛くなりました。

けれど、そんなやり取りができている間は、父上はまだ生きておられました。

次の知らせが届くたび、私は最初にそこを確かめます。

父上が生きて白帝におられ、孔明殿もそばにいる。

そこまで確かめてから、私はようやく続きを読みました。

張文遠殿の訃報以来、私は人の生死を文の中から探す癖がついてしまったようです。

「会いたいか?」

ある夜、文烈様が尋ねました。

私はすぐには答えられませんでした。

会いたい――

その一言で済ませるには、あまりにも長い年月が過ぎております。

私は十三歳の時、長坂で父上と別れました。

正確には、別れたというより置いていかれたのですが、今さら言葉を綺麗にしても仕方がございません。

そのあと私は曹家へ来ました。

曹純様のもとに入り、やがて文烈様と夫婦になり、寧珠と環珠と和珠を産みました。

その間、父上は益州を取り、漢中を取り、王となり、皇帝にまでなられました。

父上の人生は、私のいないところで進みました。

私の人生も、父上のいないところで進みました。

今さら会って、何を申せばよいのでしょう?

「分かりません」

私は正直に答えました。

「会えば、おそらく文句を申します」

「だろうな」

即答されました。

「文烈様」

「何だ?」

「そこは少しくらい否定してくださいませ」

「無理だ」

たいへん失礼です。

ですが、私にも否定できません。

父上が今ここに座っておられたら、聞きたいことはいくらでもございます。

長坂で、なぜ私たちを荷車に残したのか。

なぜその後、一度も迎えに来られなかったのか。

なぜ夷陵まで進んでしまったのか。

三人も孫が生まれたのに、なぜ一人も抱いていないのか。

一刻では足りないでしょう。

二刻でも足りないかもしれません。

「でも」

私は文烈様の袖をつまみました。

「死なれるのは困ります」

文烈様は何も言いませんでした。

それでよいのです。

私は父上を恨んでおります。

長坂で置いていかれたことは、たぶん一生忘れません。

それでも、死んでほしいわけではありません。

人の気持ちは、たいへん不便です。

嫌いなら嫌いだけで済めば楽なのに、腹を立てながら心配し、恨みながら生きていてほしいと思ってしまいます。

父上相手では、特にそうです。

春が深くなるにつれ、西から届く知らせは少なくなりました。

文が来れば怖い。

来なければ、もっと怖い。

何もないことを喜べばよいのか、何か起きているから届かないのではと疑えばよいのか、自分でも分からなくなってきます。

ある日、寧珠が和珠のそばから私を呼びました。

「母上」

「何ですか?」

「お祖父様に文を書かないの?」

私は手を止めました。

「……私が、ですか?」

「うん。母上、ずっと心配してるから」

よく見ておりますね。

数え十一にもなれば、もう誤魔化せないのでしょう。

「何を書けばよいと思います?」

私が尋ねると、寧珠は少し考えました。

「早く元気になってください、でいいんじゃない?」

「それだけですか?」

「それから、和珠が生まれたって、もう一回書く」

「もう知らせておりますよ」

「でも、お祖父様、病気なら忘れてるかもしれないから」

それは失礼ではありませんか?

……父上相手なら、まあよいでしょう。

その夜、私は紙を前に長いこと座っておりました。

皮肉なら、いくらでも浮かびます。

恨み言も、いくらでも書けます。

父上に対してなら、一晩でも足りない自信がございます。

けれど、病床の父へ送る文としては、どれも少し違う気がしました。

何度も書き直し、最後に残ったのは、寧珠が言ったものと大差のない言葉でした。

『父上には、まだ申し上げたいことが、たくさんございます。

ですから、もう少し生きていてくださいませ。

三人目の孫も生まれました。

一人くらい抱いていただかないと、こちらも納得できません。

今度こそ、ちゃんと帰ってきてくださいませ』

書き終えてから、私はしばらく最後の一文を見ておりました。

帰ってきてくださいませ。

私は父上に、何度これを願ったのでしょう。

父上はいつも、私とは違う方向へ進まれました。

長坂で離れてからも、益州へ行き、漢中へ進み、最後には夷陵まで東へ向かわれた。

一度くらい、娘の方へ向かってくださってもよかったのではございませんか?

文を送ってから数日が経ちました。

その日、西から使者が来た時、私は和珠を抱いておりました。

男の顔を見た瞬間、嫌な予感がしました。

文烈様も何も言いません。

私は差し出された文を受け取り、封を開きました。

最初の数文字を読んだところで、手が止まりました。

父上は、永安宮で亡くなられたそうです。

しばらく、何も考えられませんでした。

泣けばよいのか。

怒ればよいのか。

十三歳の私なら、何と言ったのでしょう?

分かりません。

ただ一つだけ、はっきり分かったことがございました。

私が送った文は、間に合わなかったかもしれない。

三人の孫を一人も抱かず、私ともう一度会うこともないまま、父上は逝かれました。

長坂から十五年。

結局、父上は――

一度も、私を迎えに来てはくれませんでした。

劉玉珠です。


父上が、亡くなられました。

わたしは三日間、鼻をほじらずに頑張ったのですが、治りませんでした。


夫には、

「お前の鼻とは関係ない」

と言われました。

……そうなのでしょうか。


それなら、もうほじってもよいのかと思ったら、


「それとこれとは別だ」


とも言われました。

難しいですね。


姉上は、父上に文を送ったそうです。

間に合ったのかは分かりません。


父上――

姉上は、ずっとあなた様を待っていたんですよ?

一度くらい、迎えに行ってあげてもよかったのではないですか?

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