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父上、今度は娘の夫まで西へ連れていかれるのですか?

劉明珠でございます。


父上が漢中へ進まれました。

その知らせを聞いて私が最初に見たのは、地図ではございません。

文烈様の荷です。


魏王様まで西へ向かわれるなら、虎豹騎を預かる夫だけ家でお茶を飲んでいるはずもございません。

ようやく帰ってきたと思ったのですが……


父上――

十三の時には娘を荷車へ置いて先へ行かれ、十年後には娘の夫まで西へ向かわせるのですね……

直接連れていくのは魏王様ですが、原因の半分くらいは父上です。


玉珠は、 「皆様、家の場所を忘れていませんか?」 と申しております。

珍しく正論です。

鼻をほじりながらでなければ、もっと立派だったでしょう。


そして父上の前には、夏侯妙才様がおられます。

漢中の寒さは――

まだ、始まったばかりでございます。

父上が漢中へ進んでおられる。

その知らせを聞いた朝、私はまず文烈様を見ました。

文烈様もこちらを見て、それから二人そろって部屋の隅へ目を向けます。

そこには、つい先日ようやく片づけたばかりの荷がございました。

「……詰めるか?」

「嫌です」

たいへん素直な返事が出ました。

文烈様は笑っておりますが、こちらは笑い事ではございません。

つい先日、益徳叔父上を固山から退かせ、呉蘭殿を破って帰ってきたばかりではありませんか……

寧珠と環珠も、ようやく父親が家にいることへ慣れ始めました。

纂も嬉しそうにしておりますし、肇は相変わらず元仲様のところへ行ったり帰ったりしておりますので、あの子についてはもう考えないことにしました。

「まだ俺に命は来ていないぞ?」

「魏王様が西へ向かわれるのでしょう?」

「おそらくな」

「では、あなた様も行かれるのでしょう?」

文烈様は答えませんでした。

答えない男ほど分かりやすいものはございません。

この方は虎豹騎を預かり、魏王様の征伐に従って宿衛する身です。

魏王様ご本人が西へ向かわれるというのに、文烈様だけ家で茶を飲みながら「お気をつけて」と見送るはずがない。

私は諦めて衣箱を開きました。

「詰めるのか?」

「嫌ですが、詰めます」

「さっき嫌だと言っただろう?」

「嫌なことをしなくて済むほど、奥方という身分は便利ではございません」

父上――

あなた様が漢中へ来られたせいで、私はまた夫の旅支度をしております。

十三の時には娘を荷車へ置いて先へ行かれましたね。

それから十年も経ったと思えば、今度は娘の夫まで西へ向かわせることになりました。

もちろん、直接連れていくのは魏王様です。

ですが原因の半分くらいは父上でしょう。

責任の分け方が難しいですね♪

その日のうちに、肇が王府から戻ってまいりました。

「母上」

「今度は何でしょう?」

そう返すと、肇が少し困った顔をしました。

最近この子が家へ帰ってくるたび、私は軍報を受け取る役人のような気分になります。

「魏王様は西へ向かわれるそうです」

やはり……

「父上も?」

「行くと思います」

本人より先に息子が答えました。

私が文烈様を見ると、文烈様は肇を見ています。

「なぜお前が知っている?」

「元仲様のところで聞きました」

そこで文烈様が、また天井を見上げました。

もう何度目でしょう?

先に申し上げておきますが、そこに元仲様はいません。

「俺の軍令まで元仲様のところから来るようになるのか?」

「便利ですね」

「便利ではない」

私には便利です。

夫が何も言わなくても、息子が先に教えてくれますので……

ただし、王府へ遊びに行った息子が父親より先に出征の気配を持ち帰ってくる家庭が正しい形なのかと尋ねられれば、私にも分かりません。

曹家というものは、子供まで軍務の風に当たりすぎではございませんか?

肇本人はたいへん楽しそうなので、止める理由も見つかりませんが……

数日後、本当に命が届きました。

魏王様は劉備軍を討つため西へ向かわれ、文烈様も従うそうです。

私はもう驚きませんでした。

その代わり、荷へ薬を二包増やしました。

「また増えたぞ?」

「驚きの代わりです」

「意味が分からん」

「私にも分かりません」

最近は夫を送り出す回数が多すぎて、心配の表現にも工夫が必要なのです。

文烈様が荷を持ち上げ、顔をしかめました。

「重い」

「西ですから」

「またそれか?」

「今回は父上までおりますので、前より重くしております」

「敵の重さを荷に足すな」

たいへんもっともな意見でしたので、聞かなかったことにします。

玉珠へ父上のことを書き送ると、返事はいつものように少しずれたところから返ってきました。

『姉上、父上はまだ漢中にいるのですか?』

おります。

『寒いのに、どうして帰らないのでしょう?』

それを私も聞きたいところです。

さらに玉珠は、義父上は揚州、父上は漢中、文烈様まで西へ向かうのなら、皆で家の場所を忘れているのではないかと書いてきました。

珍しく私も同じことを考えました。

『夫は、男には仕事があると言います。わたしにも仕事があります』

何でしょう。

『義父上が帰るまで、鼻をほじらないことです』

それは仕事ではなく、最低限のお願いです。

しかも続きには、昨日一度だけ失敗し、夫に見つかったと書いてありました。

元譲様が居巣で二十六軍を預かっておられても、ご子息は自宅で玉珠の右手を預かっております。

夏侯家はたいへんお忙しいですね。

もっとも、西の情勢は笑ってばかりもいられませんでした。

父上は陽平関へ進み、漢中を守る夏侯妙才様や張儁乂殿らと向かい合っております。

益徳叔父上や呉蘭殿を前へ出して終わりではなく、父上ご本人がとうとう漢中の入口へ立ったのです。

地図を広げ、陽平関のあたりへ指を置きました。

父上の前には妙才様たちがおり、さらに西から魏王様が近づき、その魏王様には文烈様が従う。

元譲様は遠く揚州にいて、玉珠は夏侯家、私は家でその全部を紙の上から眺めています。

こうして見ると、天下とは家族を別々の場所へ配置して楽しむ遊びのようにも思えてまいります。

少なくとも、私は参加を申し込んだ覚えがございません。

父上が陽平関へ出たと聞いた時、最初に思い出したのは長坂でした。

あの時の父上は速かった。

曹軍が迫れば前へ進むしかなく、民も兵も荷も家族も、すべてを抱えて立ち止まれる状況ではなかったことくらい、今の私には分かります。

分かりますとも。

そのうえで申し上げます。

今回はずいぶん慎重なのですね、父上?

娘二人を置いていった時ほど簡単には、陽平関を越えられないようです。

もちろん、相手が妙才様と儁乂殿なら当然でしょう。

だからこそ腹が立つのです。

父上は愚かな方ではありません。

危険を見れば退き、必要なら待ち、勝てる時を選ぶ。

その判断ができる方だからこそ、長坂でも私たちより先へ進むことを選ばれたのでしょう。

正しかったのかもしれません。

けれど、正しかったからといって、置かれた側の記憶まで正しくなるわけではございません。

「また怖い顔をしているぞ?」

出立前の文烈様が、私の横から地図を覗き込みました。

「父上を見ております」

「紙の上だろう?」

「今のところは」

文烈様が少し黙ったあと、

「会いたいか?」

と尋ねました。

答えに困りました。

会いたい気持ちもあれば、会いたくない気持ちもございます。

どちらか一つなら楽だったのでしょうが、残念ながら人の心はそこまで親切にはできておりません。

「今は、あなた様に帰ってきていただく方が先です」

「またそれか?」

「何度でも申します」

「帰ればいい」

やはり、この方は簡単に言います。

私はため息をついて、

「父上にも教えて差し上げてください。帰ればいい、と」

と頼みました。

文烈様は笑いました。

「玄徳殿が聞くとは思えんな」

「私もそう思います」

そこだけは夫婦で意見が一致しました。

出立の日、寧珠と環珠はまた文烈様の衣へしがみつき、前よりも強く離れまいとしていました。

寧珠は何か言いたそうに口を動かしておりますが、まだうまく言葉にはなりません。

環珠も「あー」と声を上げながら両手を伸ばしたので、文烈様は困ったように笑って二人を順番に抱き上げました。

「すぐ帰る」

意味がどこまで伝わったのかは分かりません。

それでも娘たちは、父親の顔をじっと見ておりました。

私には、それで十分でございました。

文烈様は名残惜しそうに二人を乳母へ戻し、私はその横で最後の荷を確かめます。

肇と纂も見送りに並んでおりましたが、肇はこれが済めばまた元仲様のところへ向かうのでしょう。

もう聞きません。

「明珠」

馬へ向かう前に、文烈様が振り返りました。

「何でしょう?」

「荷は増やしていないな?」

「増やしておりません」

正確には、最後に薬を一包だけ足しました。

聞かれていないので申し上げません。

たいへん便利な言葉ですね。

先日、文烈様から教えていただきました。

何かを疑うような顔をしながらも、文烈様はそれ以上尋ねず馬へ乗りました。

魏王様とともに軍が西へ向かい、その先には父上がいる。

門前から遠ざかる夫を見送りながら、私は妙な気分になりました。

長坂では、父上が遠ざかっていく背中を見た覚えすらありません。

気づいた時にはもうおらず、残された私たちだけが別の道へ運ばれていきました。

今度は反対です。

父上のいる方角へ、夫が遠ざかっていく。

歴史というものは、同じ家族を違う並べ方にして何度も困らせるのがお好きなようです。

それからしばらくして、魏王様が長安へ入られたとの知らせが届きました。

父上は陽平関にいて、魏王様は長安にいる。

まだ両者が直接ぶつかったわけではなく、その間には山も道も、多くの兵もおります。

その中に、夏侯妙才様がおられました。

元譲様の一族であり、玉珠が嫁いだ夏侯家の方であり、そして漢中を守る将です。

父上はその向こうへ進もうとし、魏王様はそれを止めようとしている。

そして文烈様は魏王様の側におりますから、家系図を広げれば、もう誰の無事を願えばよいのか分からなくなります。

それでも、一つだけは決めました。

帰れる人は、帰ってください。

敵でも味方でも、叔父でも夫でも構いません。

できれば父上も。

けれど、陽平関の向こうから次に届いた知らせを読むと、夏侯妙才様のお名前だけが、妙に目につきました。

漢中の寒さは――

まだ、始まったばかりだったのです。

劉玉珠です。


父上が漢中へ来ているそうです。

義父上は揚州、文烈様は西、父上は漢中。

やはり皆様、家の場所を忘れているのではないでしょうか?


姉上にそう書いたら、 「私もそう思います」 と返ってきました。

珍しく意見が合いました。

嬉しかったので鼻をほじっていたら、夫に手を叩かれました。

こちらは意見が合いません。


それより、父上の前には妙才様がおられるそうです。

父上も妙才様も、夏侯家の皆様も、文烈様も、みんな無事に帰ればよいと思います。

難しいのでしょうか?

姉上は、漢中はまだ寒くなると申しました。


父上――

凍える前に、帰りませんか?

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