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文烈様、戻るなり産屋の外で待たされるのですか?

劉明珠でございます。


文烈様から文が届きました。

父上の文を入れた箱は、鍵がなくて開きません。

けれど文烈様の文は、私の手だけで開いてしまいます。

たいへん困ります。

閉じているものは安全です。

見なければ済みます。

読まなければ傷つきません。

燃やせば、なかったことにもできるかもしれません。


ところが、文烈様はそこをまったく分かっておられません。

文にはこうありました。

文は読んだ、と……

……読むのが早すぎます。

魏公様は人の頭を開ける方ですが、文烈様は人の逃げ道を閉じる方でございます。

怒るわけでもなく、責めるわけでもなく、ただ私が傷ついていることを見てしまう。

たいへん悪質です。

優しさというものは、時に叱責より逃げ場がございません。

褒めておりません。

そのうえ、文烈様は戻ると書かれました。

鍵は失くさぬ、とも書かれました。

父上は、戻らなかった。

母上は、井戸の物語へ入った。

玉珠は、夏侯家で鼻を見張られております。


それなのに文烈様は、戻ると書くのです。

困ります……

戻ると言われると、待ってしまいます。

待つのは嫌いです。

十三歳の時から、待つことにはろくな思い出がございません。

それでも、人は懲りずに待ってしまうものなのですね……

たいへん愚かでございます……


月日が過ぎ、腹は重くなり、曹休家の奥には冬支度が増えました。

父上の箱は閉じたまま。

文烈様の文は開いたまま。

私はその間で、身重の奥方としてたいへん立派に不自由をしておりました。

そしてある日、文烈様が戻られました。

鍵も戻りました。

ようやく父上の文を入れた箱が開けられる……

そう思ったところでございます。

ところが、私の腹の方が先に開きそうになりました。


父上、文烈様、史官の皆様――

順番というものを、どなたか私の腹に教えてくださいませ……

――文は読んだ。

その一行だけで、私は息を止めました。

たいへん困ります。

文というものは、もっと紙らしく、薄く、軽く、燃やせば終わる程度のものであるべきです。

それなのに文烈様の文は、紙のくせに、こちらの胸を押さえてまいります。

続きは短うございました。

そなたは曹休家を見てくれた。

それを軽くは思わぬ。

だが、玄徳を読んだことでそなたが傷ついたなら、それも隠すな。

私は戻る。

その時、そなたの文も、そなたの怒りも、共に読む。

鍵は失くさぬ。

私は文を持ったまま、しばらく動けませんでした。

叱られておりません。

責められてもおりません。

「ひどい妻だ」とも、「父を売った女だ」とも書かれておりません。

たいへん困ります。

怒られれば、言い返せます。

叱られれば、拗ねることもできます。罪だと言われれば、背負うふりくらいはできます。

けれど、傷を隠すなと言われると、どうしてよいのか分かりません。

傷というものは、本来、衣の下や皮肉の裏や、父上への悪口の隙間に詰めておくものでございます。

それを出せと言われましても、置き場所に困ります。

曹休家の奥には、すでに寧珠の衣と、曹肇の帳面と、曹纂の逆さの帳面と、父上の文を入れた箱と、玉珠のいない気配でいっぱいなのです。

これ以上、私の傷まで置く場所はございません。

「母上」

曹肇が、そっと声をかけました。

「父上の文は……母上を困らせる文でしたか?」

「ええ……たいへん困らせる文です」

「怒られましたか?」

「怒られておりません」

曹肇は少し考えました。

「では、もっと困る文ですね」

本当に、似なくてよいところが文烈様に似ております。

曹纂が、兄の後ろから身を乗り出しました。

「母上、父上は鍵をなくさないそうですか?」

「ええ……なくさぬ、と」

「川にも落としませんか?」

「たぶん……」

「孫権殿にも取られませんか?」

「そこまで書いてはございません」

「父上なら大丈夫です」

曹纂は大真面目でした。

曹休家の子は、父を信じるのがたいへん上手です。

私は、それが少し眩しくて、少し腹立たしくて、そして少しだけ羨ましいと思いました。

父を信じる――

それは、私にはたいへん難しい技でございます。

私は文烈様の文を畳み、父上の文を入れた箱のそばへ置きました。

鍵は江東にあります。箱はまだ開きません。

けれど、開かぬ箱の隣に、開いてしまった文がある。

たいへん悪い配置です。

閉じた父上。

開いた文烈様。

どうして私の人生は、こうも紙に囲まれるのでしょう。

私は紙魚ではございません。

人間です。

しかも身重です。

できれば、もう少し柔らかいものに囲まれて暮らしたいものです。

その後、月がいくつか過ぎました。

江東からの便りは時おり届きました。魏公様の陣は動き、孫権殿は相変わらず孫権殿として粘り、川は広く、湿った風は遠くの戦の匂いを運んでまいります。

私は曹休家の奥で、腹の子とともに重くなっていきました。

寧珠は少しずつ歩きたがり、曹肇は以前よりまじめな顔で家の者へ声をかけ、曹纂は帳面を上下正しく持つ日が増えました。

たいへん進歩です。

人は成長いたします。

帳面ですら、いつか正しい向きで持たれる日が来るのですから、世の中は分かりません。

夏侯家からは、元譲様の短い文も届きました。

玉珠、手習いにて「文は読んだ」と書く。

その後、「菓子は食べた」と続ける。

鼻へ向かう気配あり。

叱る前に自白。

未遂。

以上。

私はそれを読んで、しばらく黙りました。

「文は読んだ」の後に「菓子は食べた」と続ける妹を持つ人生とは、いったい何なのでしょう。

ただ、玉珠は生きています。

菓子を食べ、鼻へ向かい、元譲様に止められ、手習いの文を台無しにしながら、夏侯家で生きています。

それでよいのです。

生きているだけで、十分に面倒で、十分にありがたい。

やがて、夏の名残が薄れ、曹休家の奥には冬支度が増えました。

私の腹は、隠す気があっても隠れぬほど前へ出ております。

もはや礼服も私に遠慮し始めました。衣が人に気を遣うのですから、たいへん末期でございます。

そしてある日の夕刻、曹休家の門が騒がしくなりました。

江東への出征を終えた文烈様が、戻られたのです。

私は寧珠を乳母へ預け、立ち上がろうとして、腹に手を当てました。

「母上、ご無理を」

曹肇が支えようとしました。

「無理ではございません。奥方の威厳です」

「お顔が威厳ではなく、怒っておられます」

「怒る準備をしているだけです」

なぜなら文烈様は戻ってきたからです。

戻ると言って、本当に戻ってきたからです。

たいへん困ります。

置いていかれた女は、戻ってこない人を恨む準備なら得意です。

けれど、戻ってきた人を迎える作法には慣れておりません。

門の向こうから、軍装のままの文烈様が入ってこられました。

少し痩せ、日に焼け、旅と戦の埃をまとっておられます。

それなのに、目はまっすぐ私を見ました。

「戻った」

その一言でございます。

もっと何かございませんか?

戦の報告とか、魏公様のご様子とか、孫権殿がどれほど面倒であったかとか、鍵を持って川を渡るお気持ちとか……

いろいろあるでしょう。

ところが文烈様は、戻った、とだけおっしゃいました。

たいへんずるい。

私は腹に手を当てたまま、何とか声を整えました。

「鍵は、お持ち帰りでございますか?」

文烈様は、懐から小さな鍵を出されました。

「ある」

「川へ落とされませんでしたか?」

「落としておらぬ」

「孫権殿に奪われませんでしたか?」

「奪われておらぬ」

「魏公様に笑われながら取り上げられませんでしたか?」

「それもない」

「では、文烈様にしては上出来でございます」

「褒めているのか?」

「褒めておりません」

文烈様は、ほんの少し笑われました。

その顔を見た瞬間、私は文句を十ほど忘れました。

たいへん不利です。

戦場から帰ってきた夫が笑うのは、武器の持ち込みに当たるのではないでしょうか。

文烈様は私の腹へ視線を落としました。

「五人のところへ戻った」

私は一度だけ息を吸いました。

「ええ……腹の子も、ちゃんと五人目に数えておられましたね」

「数えた」

「では、間に合われました」

「そうだ」

そこで、腹の奥がきゅう、と縮みました。

私は言葉を止めました。

文烈様がすぐに気づきます。

「明珠?」

「……文烈様」

「どうした」

「たいへん申し上げにくいのですが……」

もう一度、痛みが来ました。

今度は先ほどよりも、はっきりと……

私は文烈様の袖をつかみました。

怒るためではございません。

倒れないためです。

たぶん……

「父上の文を入れた箱より先に、私の腹の方が開きそうでございます」

文烈様の顔が、戦場で敵陣を見た時より険しくなりました。

「産婆を呼べ」

曹肇がすぐに走りました。

曹纂は一瞬固まり、それからなぜか帳面を抱えて廊下へ向かいました。

「纂、それは要りません」

「でも、母上が痛そうです」

「帳面では産まれません」

曹休家の奥は、一気に戦場となりました。

ただし、敵は孫権殿ではございません。

私の腹です。

たいへん手強い。

産屋へ移される間、私は何度も文烈様へ文句を言いました。

「戻る時をお選びくださいませ」

「選べるものではない」

「こちらも産む時を選べません」

「ならば、互いに悪い」

「文烈様の方が悪うございます」

「分かった」

「分かるのが早すぎます」

産屋の外で、文烈様は待つことになりました。

戻るなり、産屋の外で待たされる夫。

たいへん気の毒でございます。

しかし私は、もっと気の毒です。

産むのはこちらです。

痛みの間、母上のことを思いました。

母上は井戸へ入ったと語られています。

私は産屋へ入りました。

どちらも女が命を賭ける場所でございます。

ただし今回は、外に夫がおります。

戻ると言って、本当に戻ってきた夫が……

逃げずに、待っている夫が……

たいへん困ります。

比べてしまうではありませんか。

父上は長坂で走りました。

母上は井戸の物語へ入りました。

私は荷車から零れ落ちた娘でした。

けれど今、私は曹休家の奥で、曹休の子を産もうとしております。

外には文烈様がいる。

曹肇と曹纂もいる。

寧珠もいる。

夏侯家からは、元譲様へ知らせが走りました。

あとで聞いたところによると、玉珠は知らせを聞いた瞬間、鼻へ向かいかけ、元譲様に腕をつかまれたそうです。

「姉上は、井戸ではありませんか?」

「産屋だ」

「井戸ではないのですね?」

「違う」

「産屋は、出てくるところですか?」

「そうだ」

「では、よかったです」

そのあと玉珠は、泣く前にまた鼻へ行きかけたそうです。

元譲様は、たいへん忙しかったことでしょう。

こちらも忙しかったです。

痛みは何度も来ました。

皮肉を言う余裕が消え、残った皮肉も途中で息に負けました。

人間とは不便です。

腹が痛いだけで、才気も品位もたいへん簡単に行方不明になります。

そして夜が深くなった頃、赤子の声が上がりました。

高く、細く、それでも確かに曹休家の奥を裂く声でした。

産婆が言いました。

「姫君でございます」

娘でした。

また娘でございます。

史官の皆様、筆を置いてよろしいですよ……

継承にも爵位にも、たいへん載せにくい結果でございます。

ご安心ください。

どうせ残りません。

けれど文烈様は、産屋へ入ることを許されると、その小さな娘を見て、静かに息を吐かれました。

「よく生まれてきた」

その一言だけでした。

たいへん困ります。

もっと、男児でなく残念だとか、家のためには次こそとか、そういう分かりやすく腹の立つことを言ってくださればよいのです。

けれど文烈様は、娘を見て、ただそうおっしゃいました。

よく生まれてきた、と。

私は疲れきったまま、目だけでその子を見ました。

腹の中にいた五人目は、腕の中の五人目になりました。

五人は、五人のままです。

ただ、文烈様にも見える場所へ、一人ぶん近づいただけでございます。

「文烈様」

「何だ」

「父上の文の箱は、まだ開いておりません」

「今でなくてよい」

「鍵は戻りました」

「戻した」

「それなのに、先に娘が出てまいりました」

「そうだな」

「順番が悪うございます」

文烈様は、小さな娘を抱いたまま、私のそばへ来られました。

「明珠」

「はい」

「名は、そなたがつけよ」

私は、一瞬、声を失いました。

父上に置いていかれた娘が、史書に残らぬであろう娘を産み、その娘の名を、つけよと言われる。

たいへん困ります。

父上の文を開けるより、ずっと重いではありませんか……

私は赤子の泣き声を聞きながら、文烈様を見ました。

その腕の中で、小さな娘が、また泣きました。

父上――

あなたの娘は、また娘を産みました。

たぶん、どちらも史書には残りません。

けれど今、その名を私が決めなければならないそうです。

文烈様――

戻るなり鍵を返し、産屋の外で待ち、娘を抱いて、名まで私に預けるのですか?

たいへん困ります。

私はまだ、置いていかれた自分の名すら、どこに置けばよいのか分かっていないのでございます……

劉玉珠です。


姉上が、赤ちゃんを産みました。

夏侯家に知らせが届いた時、玉珠はまず立ち上がりました。

それから、少しだけ指が鼻へ向かい、元譲様に腕をつかまれました。

「今のは、姉上のところへ行こうとした手です」

そう申し上げたのですが、元譲様は信じてくださいませんでした……

大人は、たいへん疑り深いです。


でも、玉珠にも少しだけ悪いところがありました。

姉上のところへ行こうとした手と、鼻へ行こうとした手が、同じ手だったからです。

人間の体は不便です。

大事な時ほど、手が一つしかありません。


姉上は、井戸ではなく、産屋に入りました。

母上は井戸へ入ったと聞いています。

井戸は、入ったら戻れない場所です。

でも産屋は、赤ちゃんが出てくる場所でした。

姉上も、ちゃんとそこから戻ってきました。

赤ちゃんも出てきました。

それを聞いて、玉珠は少し安心しました。

文烈様も戻りました。

姉上も戻りました。

赤ちゃんも出てきました。

では、父上はどうして戻らなかったのでしょう?

そう考えたら、少しだけ胸が痛くなりました。

それで指が上へ行き、元譲様にまた見られました。

違います……

今のは鼻ではありません。

父上の帰り道が、どこにあるのか考えていただけです。

鼻の穴は二つありますが、帰り道ではありません。

たぶん……


生まれた赤ちゃんは、姫君だそうです。

姉上は、また娘を産みました。

玉珠は、それを聞いて、嬉しくなりました。

でも、少し怖くもなりました……

娘は、よく置いていかれます。

姉上も玉珠も、そうでした。

母上の話には、阿斗だけが大きく残りました。

娘は荷車の上にいても、物語の端から落ちます。

それなのに、姉上はまた娘を産みました……


けれど、その娘は、文烈様に抱かれたそうです。

よく生まれてきた、と言われたそうです。

玉珠は、その言葉を聞いて、しばらく黙りました。

よく生まれてきた――

それは、とても不思議な言葉です。

生まれただけで、褒めてもらえるのです。

男の子でなくても。

史官が困っても。

家の跡継ぎでなくても。

ただ、生まれてきただけで……

玉珠は、その赤ちゃんに早く会いたいです。

菓子を分けてあげるかどうかは、まだ考え中です。

赤ちゃんは歯がないので、今は食べられません。

では玉珠が代わりに食べておくべきでしょうか?

そう言ったら、元譲様に「違う」と言われました。

なぜでしょう?

保存の一種だと思います。


姉上は、その子の名をつけるそうです。

文烈様が、姉上につけよと言ったそうです。

玉珠は、それがとてもよいと思いました。

姉上は、ずっと誰かに置かれたり、拾われたり、読まれたりしてきました。

でも今度は、姉上が名を置く番です。

小さな娘の上に、姉上の手で、名を置くのです。


父上――

玉珠たちは、まだ生きています。

姉上は娘を産みました。

その娘にも、きっと名がつきます。

史書に残るかどうかは、玉珠には分かりません。

でも、玉珠は覚えます。

鼻をほじっても、忘れません。

たぶん……


……元譲様。

今のは鼻ではありません。

姪の名前を考えていただけです。

玉珠も一つ思いつきました。

たいへん良い名です。

姉上が採用してくださるかは分かりません。


――でも元譲様が、なぜか先に首を横へ振っております。

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