魏公様、父上の返事まで宿題にしないでくださいませんか?
劉明珠でございます。
父上に置いていかれたのは、長坂が初めてだと思っておりました。
違ったようです。
正しくは、私が覚えている最初が長坂だった、ということらしゅうございます。
たいへん困りますね。
覚えていない置き去りまで数え始めると、父上の不義の帳簿が勝手に厚くなってまいります。
しかも、その帳簿を開いてくださるのが魏公様です。
親切ですね。
褒めておりません。
前回、私は劉備玄徳殿へ文を書きました。
父上へ、ではございません。
劉備玄徳殿へ、です。
玉珠は、父上へ、と書きました。
玉珠たちは、まだ生きています、と……
たった一行でございます。
けれど、私の長い文より、あちらの方がよほど逃げ場がございません。
玉珠は分かっておりません。
分かっていないまま、人の心臓を踏みます。
そして踏んだあとで、鼻をほじろうとします。
妹ながら、たいへん恐ろしい子です……
その二通を見た魏公様は、今度は父上の返事を考えろとおっしゃいました。
まだ送ってもいない文の返事を、娘に考えさせる。
本当に、魏公様は紙の使い方がお上手です。
紙なのに、刃物です。
白いのに、血の匂いがします。
しかもその紙を、私ではなく文烈様に持たせました。
夫の手で、父上の返事を曹休家へ持ち帰らせる。
私がどこに属しているのか、紙にまで見張らせるおつもりなのでしょう。
たいへん性格が悪うございます。
褒めておりません。
そして、帰される前に魏公様はおっしゃいました。
そなた、長坂が初めてだと思っておるな、と……
……どうやら私は、数え四つか五つの頃にも一度、父上に置いていかれ、母上とともに曹操の下へ来ていたそうでございます。
その時、守ってくださったのは関羽雲長殿――
父上ではございません。
父上は本当に、一貫した方です。
逃げる時には逃げ、残された者は別の誰かが守る。
たいへん見事な分業でございます。
褒めておりません。
今回は、父上の返事を私が書きます。
父上なら、きっとこう言うだろう。
そう分かってしまうことが、何より腹立たしいのです。
魏公様――
お願いですから、父上の面の皮を白い紙にして、私の家へ持ち込まないでくださいませ。
白い紙ほど、腹の立つものはございません。
何も書かれていないくせに、こちらの胸の内だけは、先に汚してまいります。
「玄徳の返事を考えておけ」
魏公様は、私と玉珠の文を並べたあと、そうおっしゃいました。
私の文には、劉備玄徳殿、貴方は本当に不義な方ですね、とあります。
玉珠の文には、父上へ、玉珠たちは、まだ生きています、とあります。
二つとも筆で書いたはずなのに、刃物に見えました。
ただし玉珠の刃は、持っている本人が自覚しておりません。
そこが一番危のうございます。
幼子に包丁を持たせた上で、本人が鼻をほじろうとしているようなものです。
「返事、でございますか?」
「そうだ」
「父上の、でございますか?」
「劉備玄徳の、だ」
魏公様はまた、名前で切り分けられました。
父上ではない。
劉備玄徳。
娘ではない。
劉氏明珠。
たいへん便利な包丁です。
肉も骨も情も、よく切れます。
「父上は、返事くれるのですか?」
玉珠が首を傾げました。
「まだ出しておらぬ」
魏公様が答えられます。
「じゃあ、来ない返事を考えるのですか?」
「そうだ」
「大人は変です」
私も、全面的に同意いたします。
すると玉珠の指が、すっと鼻へ上がりました。
その瞬間、元譲様の咳払いが部屋の隅から飛んできました。
「……まだです」
「まだ、ではない」
元譲様のお声は、本日もよく効きます。
政事には効くか分かりませんが、玉珠の鼻には即効でございます。
魏公様は、机の上から白い紙を一枚取られました。
そして、それを私ではなく、文烈様へ差し出されます。
「文烈」
「は」
「持って帰れ」
文烈様は両手で受け取られました。
ただの紙です。
けれど私には、父上の面の皮を薄く削いで干したものに見えました。
たいへん丈夫そうです。
矢も通らないでしょう。
「十日やる。十日後までに玄徳の返事を書け。書いたものを魏公府へ持ってこい」
「……ここで、書くのではございませんか?」
「ここで書かせれば、そなたは意地で書く。家で書け」
家で――
つまり、その紙は曹休家へ入るのです。
寧珠の眠る奥へ。
曹肇様と曹纂様の声がする場所へ。
文烈様の手で、父上の返事という毒を持ち帰らせる。
魏公様は、毒の渡し方までお上手です。
褒めておりません。
帰されるのだと思ったところで、魏公様はふと私を見ました。
「ところで、劉氏明珠」
「はい」
「そなた、長坂が初めてだと思っておるな?」
胸の内が、嫌な音を立てました。
「何のことでございましょう?」
「玄徳に置いていかれ、余の下へ来たことだ」
私はすぐには答えられませんでした。
玉珠も、ぽかんとしております。
「忘れておるのか?」
その一言は、あまりに意地悪でした。
「徐州の後だ。玄徳が敗れて逃げ、関羽が降った。あの時、雲長は玄徳の妻子を守って余のもとへ来た」
関羽雲長殿――
その名を聞いた瞬間、遠い霧の中で、赤い顔と長い髯の影が揺れたような気がしました。
けれど、それが記憶なのか、後から聞いた話が勝手に形を作っただけなのか、私には分かりません。
「糜氏もいた。幼い娘もいた。そなたのことだ」
「……覚えて、おりません」
「数えで四つか五つであったか。覚えておらぬのも無理はない」
ならば、なぜ忘れておるのかなどと聞いたのでしょう?
本当に性格のよろしい方です。
もちろん褒めておりません。
「その後、雲長は玄徳のもとへ戻った。世に言う関羽千里行だ」
玉珠が小さく手を上げました。
「玉珠もいたのですか?」
「おらぬ」
「どこにいたのですか?」
「まだ生まれておらぬ」
玉珠は真剣に考え込みました。
「では、玉珠は遅刻ですか?」
「出生を遅刻扱いしないでください」
「でも姉上だけ一回目がある」
「望んであったわけではありません」
私は長坂で、初めて父上に置いていかれたのだと思っておりました。
違いました。
初めて覚えているのが、長坂だっただけです。
父上が逃げる。
妻子が残る。
父上ではない誰かが守る。
そして曹操の下へ来る。
一度目は、関羽殿。
二度目は、私は玉珠の手を引いておりました。
たいへん律儀な父上でございます。
同じことを、きちんと繰り返してくださいます。
「魏公様」
私は乾いた喉で尋ねました。
「父上は、私たちを死んだものと思っておられるのでしょうか?」
「知らぬ」
魏公様は即答なさいました。
「だが、死んだものとして扱う方が楽ではあろうな」
楽――
その言葉は、ひどくよく分かりました。
父上の中で一度死んだ娘が、いまさら生き返っても困るだけです。
しかも私は、曹休文烈の妻で、寧珠の母でございます。
今さら父上のもとへ戻ったところで、幸せにはなれません。
帰るのではなく、引き剥がされるのです。
私が一番恐ろしいのは、父上に忘れられることではございません。
父上の名で、娘から引き離されることです。
「覚えておけ」
魏公様は静かに言われました。
「玄徳は、一度だけ妻子を置いたのではない」
覚えていないことを、覚えておけと言われました。
たいへん無茶なご命令です。
けれど忘れていた方が楽なことほど、他人は親切に掘り起こしてくださいます。
曹休家へ戻る道で、文烈様は何度も私を見られました。
「明珠」
「はい」
「紙は、私が預かる」
「もう預かっておられます」
「そうではない」
文烈様は、懐に手を当てられました。
「そなた一人に持たせぬ、という意味だ」
そのお言葉が優しくて、少し困りました。
優しさは、怒りの置き場を奪います。
家へ戻ると、寧珠は眠っておりました。
小さな手を握り、天下も父上も関羽千里行も知らない顔です。
知らなくてよろしい。
赤子に必要なのは、乳と眠りと、抱く腕です。
私はその腕を離したくありません。
ただ、それだけでございます。
十日間、白い紙は文烈様の書斎に置かれました。
隠されませんでした。
魏公様の命だからです。
おかげで毎朝、紙と目が合います。
紙に目はありませんが、見られている気がするのですから仕方ございません。
三日目、玉珠が紙の前で真剣な顔をしました。
「姉上、父上の返事、まだ来ないの?」
「来ません」
「でも書くの?」
「書きます」
「来ないものを書くの?」
「そうです」
「大人は、やっぱり変です」
そう言った玉珠の指が、するりと鼻へ向かいました。
「玉珠」
「変だから、つい」
「理由になりません」
「政治みたい」
その一言だけは、少し才能を感じました。
十日目の朝、私は筆を取りました。
劉備玄徳なら、どう返すか?
考えたくなくても分かってしまうところが、腹立たしい。
父上は怒らないでしょう。
泣くでしょう。
娘を呼ぶでしょう。
忘れたことはないと言うでしょう。
そして、乱世と漢室と民の苦しみを、美しい布のように広げ、置いていった事実の上にかぶせるでしょう。
私は書きました。
明珠、玉珠へ。
生きていたか。
よくぞ、生きていてくれた。
父は、そのことを知り、胸を裂かれる思いである。
徐州の時も、長坂の時も、父の力が及ばず、そなたたちに苦しみを負わせた。
父として、詫びねばならぬ。
されど天下は乱れ、漢室は傾き、民は塗炭に苦しんでいる。
父一人の情で歩みを止めれば、より多くの者が泣くことになる。
そなたたちも劉氏の娘ならば、どうか分かってほしい。
父は、そなたたちを捨てたのではない。
天下のため、漢室のため、やむなく手を離したのだ。
恨むなら、恨め。
父はその恨みを背負って進もう。
ただ、そなたたちが生きていてくれたことは、何よりの慰めである。
いつか道が開ける日まで、身を大切にせよ。
玄徳。
書き終えた瞬間、私は筆を置きました。
いいえ――
叩きました。
墨が跳ねました。
「腹が立ちます」
文烈様が、そばへ来られます。
「玄徳にか?」
「父上にも。私にも。この文にも。ついでに墨にも」
私は紙を睨みました。
「そなたたちも劉氏の娘ならば、どうか分かってほしい、でございますか」
笑いました。
笑えたなら、まだましです。
「置いていく時には荷車の上に忘れ、責められた時には劉氏の娘として分別を求める。たいへん便利な血でございます」
文烈様は何もおっしゃいませんでした。
私は続けました。
「捨てたのではない。やむなく手を離した。これもよろしいですね。落としたのではない、道が悪かったのだ、と言っているようなものです。手はきれいなままです」
玉珠が横からのぞき込みました。
「姉上、父上の字、姉上に似てるね」
「私が書いたからです」
「じゃあ、姉上が父上?」
「恐ろしいことを言わないでください」
「姉上、怒ってる?」
「怒っています」
「怒ると鼻ほじりたくなる?」
「なりません」
「玉珠は少しなる」
「我慢してください」
その日のうちに、私たちは魏公府へ参りました。
玉珠も連れております。
この子はもう聞いてしまいました。
置いていけば、曹肇様へ説明し、途中で鼻をほじり、最終的に父上は字が下手かもしれない、という話にしてしまいます。
魏公様の前で、文烈様が文を差し出しました。
魏公様は最後まで読みました。
すぐには笑いませんでした。
「どうだった?」
「腹が立ちました」
「玄徳にか?」
「私が書いたのに、父上の声がしたことに、でございます」
そこで魏公様は、喉の奥で薄っすらと笑われました。
「よく読めておる」
「読みたくございませんでした」
「玄徳は、こう返す。謝る。泣く。大義を掲げる。娘に分かってほしいと言う。だが、退かぬ」
「はい」
「そなた、玄徳に似ておる」
「やめてくださいませ」
「だが、玄徳ほど裏に隠さぬ。腹が立ったと、そのまま言う。己の書いた文に怒る。天下を取りに行く者の顔ではないな」
「取りません。寧珠の手を離す気もございません」
言ってから、自分の声が思ったより固いことに気づきました。
魏公様の目が細くなります。
「玄徳のもとへ帰りたいとは思わぬか?」
「思いません」
迷いませんでした。
「父上のもとへ戻っても、私は幸せにはなれません。私はもう曹休文烈の妻で、寧珠の母でございます。父上に生きていると知られたいより、娘と引き離される方が嫌です」
玉珠が、隣で私を見上げました。
あの子の中には、まだ父上がいます。
私はそれを否定できません。
けれど私は、もう違う場所に根を下ろしてしまいました。
魏公様は文烈様へ視線を移されました。
「文烈」
「は」
「そなたの家の炉をよく見ておけ」
また炉でございますか。
私は薪ではございません。
「外へ出せば火になる。だが炉の中なら家を温める」
「承知しました」
文烈様は深く頭を下げられました。
魏公様は、私を劉備の娘として危ういと見ている。
けれど同時に、曹休家の奥に置けば燃え広がらぬと測ったのでしょう。
たいへん失礼です。
しかし、魏にいても無害と思われたなら、それはそれでありがたい札でございます。
無害――
ずいぶんな言われようですが、殺されるよりはましです。
魏公様は文を畳み、机の上に置かれました。
「この文は、今は送らぬ」
玉珠が、すぐに反応しました。
「今は、送らないのですか?」
部屋の空気が少し止まりました。
「では、父上は、まだ玉珠たちが生きていることを知らないのですか?」
私は答えられませんでした。
私自身のことなら、もうよいのです。
父上が知ろうが、知らなかろうが、私はここで生きます。
けれど玉珠は違います。
あの子はまだ、父上という言葉を両手で持っております。
ときどき鼻へ指を伸ばしながら……
魏公様は、玉珠を見ました。
「いずれ知るかもしれぬ」
「いずれって、十日より長いですか?」
「長いな」
「お菓子は腐ります」
「文は腐らぬ」
「でも、待つ人は困ります」
魏公様は、そこで初めて黙られました。
玉珠の指が、静かに鼻へ向かいます。
元譲様が咳払いをしました。
「……まだです」
玉珠は小さく言いました。
魏公様は、文を指で押さえたまま、私を見ました。
「玄徳が益州を得れば、あやつはただの流浪人ではなくなる」
嫌な言葉でした。
「その時、この文はさらに効く」
やはり紙は刃物です。
しかも鞘に入れられ、使う日を待っております。
「劉氏明珠」
「……はい」
「玄徳が益州を得た時、もう一度呼ぶ」
魏公様は笑っておられませんでした。
「その時は、父としてではない。益州の主として玄徳を読め」
父上――
私はあなたのもとへ帰りたいわけではございません。
けれどどうやら、あなたが得る前の益州にまで、私は先に置かれてしまったようでございます。
劉玉珠です。
今日は、姉上が父上の返事を書きました。
でも、父上から返事が来たわけではありません。
姉上が、父上ならこう書く、と考えて書いたそうです。
来ていない返事を書く。
やっぱり大人は変です……
しかも、その紙は文烈様が持って帰りました。
魏公様が、姉上ではなく文烈様に渡したのです。
白い紙でした。
白いのに、姉上はとても嫌そうな顔をしていました。
玉珠は、白い紙なら絵を描けると思いました。
お菓子も描けます。
鼻も描けます。
でも姉上は、あの紙に父上の面の皮が見えると言っていました。
面の皮は、紙になるのでしょうか?
なるなら、父上の顔はずいぶん広いのだと思います。
魏公様は、帰る前に変なことを言いました。
姉上は、前にも一度、父上に置いていかれて、魏公様のところへ来たことがあるそうです。
その時、玉珠はいませんでした。
まだ生まれていなかったそうです。
玉珠は遅刻したのかと思いました。
姉上に、出生を遅刻扱いするなと言われました。
難しいです……
でも、姉上だけ一回目があるのは、少しずるいです。
ずるいと言ってよいのか分かりません。
だって、一回目も置いていかれた話だからです。
たぶん、あまり欲しくない一回目です。
その時、姉上と母上を守ったのは、関羽雲長殿だそうです。
父上ではありません。
長坂の時も、父上はいませんでした。
父上は、忙しい人なのだと思います。
逃げるのに……
姉上は十日間、白い紙を見ていました。
紙には何も書いていないのに、姉上は毎朝、とても嫌そうでした。
玉珠も見ました。
やっぱり何も書いてありませんでした。
でも、姉上には何か見えていたようです。
もしかしたら、父上の顔かもしれません。
それなら嫌そうな顔になるのも分かります。
十日目、姉上は返事を書きました。
父上なら、こう書くそうです。
生きていたか。
よくぞ、生きていてくれた。
父は胸を裂かれる思いである。
そういうことが書いてありました。
胸が裂けたら、痛いと思います。
でも姉上は、もっと怒っていました。
父上は、捨てたのではない、やむなく手を離した、と言うだろうだそうです。
玉珠は、手を離されたら困ります。
道が悪くても、手は離さない方がよいです。
人が多いところでは、特にそうです。
鼻をほじる時も、手は離します。
でも、それは姉上に怒られます。
魏公府で、姉上は魏公様に言いました。
自分で書いたのに、父上の声がした、と……
玉珠には、姉上の字に見えました。
でも、姉上には父上の声が聞こえたそうです。
紙は怖いです。
字を書くと、人の声が入ることがあります。
鼻を描いたら、鼻の声が聞こえるのでしょうか。
少し気になります。
でも、たぶん姉上に怒られます。
魏公様は、その文を今は送らないと言いました。
玉珠は聞きました。
今は送らないのですか、と……
では、父上は、まだ玉珠たちが生きていることを知らないのですか、と……
魏公様は、いずれ知るかもしれぬと言いました。
いずれ――
十日より長いそうです。
お菓子は腐ります。
文は腐らないそうです。
でも、待つ人は困ります。
玉珠は、そう言いました。
魏公様は黙りました。
魏公様でも黙ることがあるのだと思いました。
その時、玉珠の指が少し鼻に近づきました。
元譲様が咳払いをしました。
玉珠はちゃんと止まりました。
今のは、かなり偉かったと思います。
それから魏公様は言いました。
父上が益州を得たら、姉上をまた呼ぶそうです。
その時は、父としてではなく、益州の主として父上を読め、だそうです。
父上なのに、父として読まない。
劉備玄徳なのに、父上――
益州の主なのに、玉珠たちが生きていることをまだ知らない人……
大人は、人に名前をたくさんつけます。
でも玉珠には、父上は父上です。
姉上は姉上です。
文烈様は文烈様です。
魏公様は怖い人です。
元譲様は、鼻を見張る人です。
父上――
玉珠たちは、まだ生きています。
魏公様は、まだ文を送りません。
姉上は、もう父上のところへ帰りたくないそうです。
でも玉珠は、父上が知らないままなのは、少し困ります。
いつか知るなら、早く知ってください。
お菓子は腐ります。
待つ人も、たぶん少しずつ困ります。
……元譲様……
今のは鼻ではありません。
父上のことを考えていただけです。
指は、少ししか動いていません。




