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14/20

文烈様、不在のくせに文で落としに来るのですか?

劉明珠でございます。


前回、文烈様のいない曹休家で、私は曹纂様に捕まりました。

比喩ではございません。

本当に袖をつかまれました。

しかも両袖です。

幼い若君の手というものは、小さいくせに、たいへん強力でございます。

私は文烈様を待つ女になっただけでは足りず、文烈様が戻られるまで曹肇様と曹纂様のそばにいる者にもなったようです。

人生とは、まことに配置換えが早いものです。

捕虜から妻へ。

妻から留守居へ。

留守居から子守へ。

そろそろ私の札に、何と書かれているのか確認したくなってまいりました。


曹肇様も、少しずつ近づいてこられました。

行かない、と仰りながら一歩。

また一歩。

結局、私のそばに座られました。

言葉と足が別々の主人に仕えているところは、少しだけ誰かに似ております。

誰かとは申しません。

申しませんが、私の足も、先日なかなか不忠でございました。

玉珠は相変わらずです。

戸には誰もいないのに、私が何度も戸を見ていると言い出しました。

見ておりません。

見ていないはずです。

ただ、戸の外から聞こえるはずのない声が、聞こえないことを確認していただけでございます。


入ってよいか――


そう尋ねる声がないだけで、戸というものは妙に静かになります。

静かすぎる戸は、たいへん困ります。

そして最後に、文烈様からの文が出てまいりました。

出立してまだ一日。

西から届くはずはございません。

つまり、文烈様は出立前から、私に文を残しておられたことになります。

ご本人が不在になっても、文で人を困らせに来る。

たいへん周到です。

武人であれば、剣や槍で攻めてくるものだと思っておりました。

まさか文で来るとは。

今回は、その文を読むお話です。

文とは恐ろしいものです。

刃物なら、光ります。

危ないと分かります。

けれど文は、静かに置かれているだけです。

それなのに、人の胸を勝手に裂きに来ることがございます。

文烈様は、どうやら不在のまま、私を落としに来ているようです。

もちろん、私は落ちてなどおりません。

落ちてなどおりませんが、念のため、足元を確認しておこうと思います。


父上――


あなたの娘は、敵地で文に攻められております。

戦場ではございません。

屋敷の奥です。

それでも、敗色は濃いかもしれません。

封じられた文というものは、刃物より始末が悪い場合がございます。

刃物なら、光ります。

危ないと分かります。

文は違います。

静かに置かれているだけです。

それなのに、人の胸を勝手に裂きに来るのです。

侍女の手の上に、文烈様からの文がありました。

出立して、まだ一日……

西から届いたはずはありません。

つまり、文烈様は出立前からこれを残しておられたことになります。

たいへん困ります。

ご本人がいないだけでも困っているのに、文まで置いていくとは、逃げ道をふさぐのが上手すぎます。

「姉上、読まないの?」

玉珠が横から覗き込んできました。

「読みます」

「今?」

「今ではありません」

「じゃあ、いつ?」

「曹纂様が私の袖を離してくださったらです」

私の袖は、まだ曹纂様の小さな手に捕まっておりました。

寝ているはずなのに、離しません。

幼子の執念とは恐ろしいものです。

眠りながら人を拘束するなど、なかなかできることではございません。

玉珠は真剣な顔で頷きました。

「じゃあ、玉珠が開ける?」

「絶対にやめなさい」

「まだ何もしていません」

「しそうな顔をしています」

「顔で怒られた」

当然です。

妹の手に文を渡せば、封を開ける前に菓子の粉がつく可能性がございます。

文烈様の文が甘味にまみれるなど、あまりに情緒が崩れます。

もっとも、情緒は昨日から玉珠によって何度も破壊されておりますが。

廊下の向こうには曹肇様が立っていました。

近づきたい――

けれど近づきたくない顔です。

この若君も、実に分かりやすく分かりにくい方です。

「曹肇様」

「見ていただけだ」

「文烈様の文です」

「知っている」

「気になりますか」

「気にならない」

そう言いながら、一歩近づいてきました。

気にならないとは……

曹肇様の言葉と足は、やはり別々の主人に仕えているようです。

私は曹纂様の手をそっと外そうとしました。

曹纂様の眉が寄ります。

泣く寸前の顔です。

負けました。

早い敗北です。

私は片袖を拘束されたまま、もう一方の手で文を受け取りました。

封じ目はきちんとしていました。

文烈様らしい……

乱れがありません。

それがまた腹立たしいのです。

こちらの心は昨日から乱れっぱなしだというのに、文の封じ目だけは端正でございます。

私は息を整え、封を開きました。

玉珠が身を乗り出します。

「玉珠」

「はい」

「読んではいけません」

「聞くのは?」

「まだ駄目です」

「姉上の顔を見るのは?」

「……それは、止められません」

玉珠は嬉しそうに座り直しました。

この妹は、時々たいへん賢くなります。

困った方向に……

私は文へ目を落としました。

明珠殿。

この文を読む頃、私はすでに屋敷を出ているだろう。

まず、そなたに詫びる。

出立の朝に、待っていてくれなどと言った。

戦へ出る者が、残る者へ願いを置いていくのは、重いことだ。

それでも言った。

そなたに待っていてほしかった。

最初の数行で、私は文を閉じました。

いけません。

これはいけません。

文烈様……

あなたは武人でございましょう。

なぜ文で正面から斬り込んでくるのですか。

「姉上」

玉珠が目を丸くしています。

「顔が赤いです」

「紙のせいです」

「紙は赤くありません」

「黙りなさい」

「はい……」

曹肇様も、なぜかこちらを見ています。

やめていただきたい。

子どもの前で何を読まされているのでしょうか。

いいえ、まだ何も読んでおりません。

ただ待っていてほしかったと書いてあるだけです。

ただ、ではありません。

その一文で人を殴ってよい決まりはないはずです。

私はもう一度、文を開きました。

肇は泣かぬと言うだろう。

あの子は、そういう子だ。

泣かぬなら、それでもよい。

ただし、泣かぬことと、寂しくないことは同じではない。

そばに来た時は、追い返さないでやってほしい。

纂は泣くだろう。

袖をつかむかもしれぬ。

離れぬ時は、乳母に任せてもよい。

だが、そなたが嫌でなければ、少しだけそばにいてやってくれ。

玉珠殿は、おそらく菓子で何とかしようとする。

止めすぎるな。

ただし、食事の前は止めよ。

私は文を持ったまま、ゆっくり曹肇様を見ました。

曹肇様は目を逸らしました。

耳が赤くなっています。

「父上は……」

小さな声でした。

「父上は、知っていたのか」

何を、と聞く必要はありませんでした。

泣かないこと。

それでも寂しいこと。

近づきたいのに近づけないこと。

文烈様は、見ておられたのです。

言葉にしないものまで。

「文烈様は、よく見ておられたようです」

私がそう言うと、曹肇様は唇を結びました。

けれど、先ほどより少しだけ顔が緩んだように見えました。

玉珠が小声で言います。

「文烈様、いないのに曹肇のこと分かるの?」

「分かるのでしょう」

「すごいね!」

「ええ……」

本当に……

不在のくせに、よく見ています。

そのせいで、こちらはまた困らされております。

私は続きを読みました。

そなた一人で背負うな。

家令を使え。

乳母を頼れ。

侍女に命じよ。

そなたは、ただ我慢するためにこの屋敷にいるのではない。

守られる者であると同時に、ここにいてよい者だ。

ここにいてよい者――

その言葉が、静かに胸に刺さりました。

私は何度も置かれてきました。

長坂で落ち、曹純様の屋敷に置かれ、文烈様のもとへ移され、本邸の奥へ入れられました。

置かれることと、いてよいことは違います。

運ばれることと、迎えられることも違います。

私はそれを、なるべく考えないようにしていたのかもしれません。

考えれば、戻れなくなるからです。

「姉上?」

玉珠の声がしました。

「泣くの?」

「泣きません」

「泣かない人は、泣きたい時があるのかもしれません」

どこで覚えたのですか、その言葉を……

たぶん先ほど自分で言っておりましたね。

妹は時々、自分の言葉で人を刺しに来ます。

私は文へ視線を戻しました。

待っていてくれと言ったが、苦しんで待てという意味ではない。

息をしていてくれ。

食べてくれ。

眠れる時は眠ってくれ。

肇と纂を頼むと言った。

玉珠殿も頼むと言った。

だが、そなた自身を置き去りにしてよいとは言っていない。

戸の外から声をかけられぬ分、この文を残す。

明珠殿。

私は戻るために戦う。

そなたは、戻る場所で生きていてくれ。

そこで文は終わっていました。

終わっているはずでした。

私はしばらく動けませんでした。

文烈様――

これは、文ですか。

それとも兵法ですか。

敵の城を落とすには、門を焼き、壁を崩し、兵糧を断つものかと思っておりました。

まさか、相手の逃げ道を一つずつ優しく塞ぎ、最後に「生きていてくれ」と置いていくとは……

たいへん卑怯です。

優しさで包囲するなど、武人のなさることでしょうか。

私は負けていないと言いたい。

言いたいのですが、手元の文が少し震えております。

これは私の手ではありません。

紙の震えです。

そういうことにしておきます。

「姉上」

玉珠がそっと近づきました。

「文烈様、何て?」

「曹肇様と曹纂様を頼む、と」

「玉珠は?」

「食事の前の菓子は止めよ、と」

「えっ……」

玉珠は衝撃を受けた顔をしました。

そこですか……

あなたが今いちばん気にするのは、そこなのですか……

曹肇様が一歩近づきました。

「父上は、私のことを何と」

私は文の一部を伏せました。

全部をそのまま伝えるには、あまりに文烈様の眼差しが深すぎます。

「泣かぬなら、それでもよい、と」

曹肇様は黙りました。

「ただ、そばに来た時は追い返さないでやってほしい、とも」

曹肇様はうつむきました。

そして、ほんの小さな声で言いました。

「では、いてもよい」

「はい」

「ここに」

「はい、おいでください」

曹肇様は私のそばに座りました。

昨日より近いです。

曹纂様は眠ったまま、私の袖を握り直しました。

玉珠は食事前の菓子禁止について、まだ小さく衝撃を受けています。

私は文を折り直そうとしました。

その時、紙の端に、さらに小さく書かれた一行を見つけました。

追伸――

屋敷の奥の小箱を、そなたに預ける。

鍵は、肇に渡してある。

私はゆっくり顔を上げました。

曹肇様が、私を見ています。

その表情は、先ほどまでの幼い不安とは違いました。

何かを知っている顔です。

「曹肇様」

私の声は、自分でも少し硬く聞こえました。

「鍵を、お持ちなのですか?」

曹肇様はしばらく黙っていました。

それから、衣の内側へ手を入れます。

小さな手が、古びた鍵を取り出しました。

玉珠が息を呑みました。

「姉上、小箱って、お菓子?」

違うでしょう。

たぶん――

そう答えたいのに、声が出ませんでした。

文烈様――

あなたはいったい、何を私に預けたのですか。

曹肇様の手の中で、鍵が小さく光っておりました。

劉玉珠です。


今回は、文烈様の文を読みました。

正しく言うと、姉上が読みました。

玉珠は読んでいません。

読んではいけません、と言われました。

聞くのも、まだ駄目だと言われました。

でも、姉上の顔を見るのは止められませんでした。

だから見ました。

姉上の顔は、たいへん忙しかったです。

赤くなりました。

静かになりました。

困った顔になりました。

少し泣きそうにも見えました。

でも、姉上は泣きませんと言いました。

姉上が泣きませんと言う時は、たぶん少し泣きたい時です。

玉珠は、少し分かります。

文烈様の文は、すごいです。

文烈様はいないのに、文だけで姉上を困らせました。

文烈様はいないのに、曹肇のことも分かっていました。

曹纂様が泣くことも、袖をつかむことも分かっていました。

玉珠がお菓子で何とかしようとすることも分かっていました。

すごいです!

でも、食事の前のお菓子は止めよ、と書いてあったそうです。

そこは、少し困ります……

文烈様は、遠くへ行っても玉珠のお菓子を止めるのです。

いないのに止める。

すごいですが、困ります。


曹肇は、父上は知っていたのか、と言いました。

玉珠は、その時の曹肇の顔を見ました。

少し驚いていました。

少し嬉しそうでした。

でも、嬉しい顔は下手でした。

曹肇はやっぱり難しいです。

文烈様は、曹肇が泣かないことも知っていました。

泣かないことと、寂しくないことは同じではないそうです。

玉珠は、それを聞いて、なるほどと思いました。

曹肇は泣きません。

でも、姉上の近くには来ます。

行かないと言って、来ます。

見ていただけだと言って、見ています。

曹肇は言葉より足の方が正直です。

姉上と似ています。

姉上も、落ちていないと言いながら、たぶん少し落ちています。

何から落ちているのかは、玉珠にはまだよく分かりません。

でも、文烈様の文を読んだ姉上は、いつもより少し落ちていたと思います。

たぶん、文の穴です。

文には穴があるのかもしれません。

姉上は、文は刃物より始末が悪いと言っていました。

玉珠には、少し難しいです。

刃物は切れます。

文は切れません。

でも、姉上の顔を見ると、文も少し切れるのかもしれません。

文烈様は、姉上に、ここにいてよい者だ、と書いていたそうです。

姉上は、それを読んで静かになりました。

姉上は、静かになると、心の中が静かではありません。

玉珠は知っています。

だから、玉珠はあまり騒がないようにしました。

少しだけです。

曹纂様は眠っていました。

でも、姉上の袖は離しませんでした。

曹纂様も、姉上がここにいてよいと思っているのだと思います。

袖をつかむということは、いてくださいということだと思います。

たぶん――

曹肇も、姉上のそばに座りました。

昨日より近かったです。

曹肇も、姉上がここにいてよいと思っているのだと思います。

言いませんけれど。

曹肇は、言うのが下手です。

姉上も、認めるのが下手です。

似ている人が増えると、玉珠は少し忙しいです。

最後に、文の端に追伸がありました。

屋敷の奥の小箱を、姉上に預ける。

鍵は、曹肇に渡してある。

そう書いてあったそうです。

小箱です。

玉珠は、お菓子かと思いました。

でも、姉上の顔を見ると、たぶん違います。

お菓子なら、姉上はあんな顔をしません。

お菓子なら、玉珠の方が先に喜びます。

曹肇は鍵を持っていました。

古い鍵です。

小さいけれど、少し重そうでした。

曹肇は、その鍵を出す時、さっきまでとは違う顔をしていました。

何か知っている顔です。

玉珠は気になります。

小箱には何が入っているのでしょうか?

お菓子ではないなら、何でしょう。

文烈様の大事な物でしょうか?

曹休家の大事な物でしょうか?

姉上をまた困らせる物でしょうか?

たぶん、最後のものです。

文烈様は、いないのに姉上を困らせます。

文でも困らせます。

小箱でも困らせそうです。

すごいです。

次回は、小箱を開けるのでしょうか?

曹肇が鍵を渡すのでしょうか?

姉上は受け取るのでしょうか?

玉珠も見てよいのでしょうか?

姉上は、たぶん駄目と言います。

でも、玉珠は見たいです。

お菓子ではないとしても、気になります。

文烈様が姉上に預けるものです。

きっと、ただの小箱ではありません。

姉上がまた困った顔をすると思います。

玉珠は、ちゃんと見ています。


あと、食事の前のお菓子は止めよと書いてありました。

でも、食事の後ならよいはずです。

玉珠は、そこを忘れないようにしようと思います。

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