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第7話:とんだ異世界生活のスタートですな

気が付くと、ベッドの上だった。

天井は高く、木で組まれた構造がそのまま丸見えの屋根の裏側が見える。

寝心地は異質で、硬いとまで言わないが、家の布団、ホテルのベッド、そのどれとも違う感触だった。

硝子かもしれない材質でできた窓からは、午前中の光が差し込んでいる。

全身のあちこちが痛かった、体を動かすたびにどこかに鈍痛が走った。

「…あー、そっか」

金田はつぶやいた。

そして、これまでのことをぼんやりと思い出した。

異世界召喚の事、ミオンのこと、村襲撃の事、残念ながら夢ではなく今もその延長線上にいることを思い出し、確認した。

…そういえば、あの後みんなはどうしたんだろうか。

そう考えた。

窓の外を見ると、どうやら襲撃した村のどこか、という推測はできた。

隣では秋元が寝ていて、彼もまたすぐに気が付いて、全身の痛みにもだえ苦しんだ。

「…いやー、とんだ異世界生活のスタートですな」

「ほんとなー、これからどうなるんだか…」

金田がため息交じりにそうつぶやく。

ほどなくして、正面のドアがノックされ二人の男が姿を現す。

ゆったり目の服を着た穏やかだが瞳の奥に厳しさを宿した男、恐らく聖職者。

「目覚めたか?気分はどうかな?」

男は静かにそう言い、こちらに向かってくる。

「お前ら、一体どういうつもりだったんだ!?」

その後ろからスキンヘッドでいかつい男が、険しい表情を隠さずにその感情をそのまま声にしたような激しい口調で金田たちに言葉を浴びせる。

恐らくは村の代表クラスの人物だな。

金田は罵声を浴びながら、そう考えた。

「…すいません」

「すいませんじゃねーんだよ!本来なら二人まとめて自警団に引き渡すところだよ…あいつら結局、テキトーに暴れるだけ暴れて帰っていきやがって!全くなんなんだ…」

苦々しい口調でそう吐き捨てる男。

むしろ金田にしてみれば意外だった。

この男の口ぶりだと、自分たちはそういう刑罰から免れているとも読み取れたからだ。

そして、召喚者たちがみんな無事に引き上げたことについては少し安心した。

でも、お前らにミリアが助けてもらったっていうから…牢獄行だけは勘弁してやるよ」

スキンヘッドの男は金田から視線をはずして、もう一人の男の方を見た。

聖職者とおぼしき男は、未だ怒りの収まらない彼をたしなめるようなしぐさをする。

「…ミリア…あ、あの女の子…」

秋元が思い出したように呟く。

「この修道院で生活している娘さ、わしが面倒を見ている、嘘をつくような子ではないのでな」

聖職者らしき男が答えた、やはりこの男は司祭ということだろう。

「…まぁ、このまま全くおとがめなし、にすることはできんが、そこだけは評価しといてやる!」

「…まあそういうことだ、沙汰があるまではここにいるといい」

司祭は静かに言った。だが、甘やかしではない、厳しさを伴った口調だった。

何かの刑罰は覚悟した方がいい、そういう空気だった。

金田と秋元が部屋に残されて、しばらく無言の時間が続いた。

「…女の子、無事でよかったな…」

金田はポツリと漏らす。

「…そうだね、でも異世界って結構しんどいね…」

秋元は力なく笑いながらそう答えた。

突然、ドアがノックされた

「…入っていいですか?」

少女の声だった。

聞いたことがない声だったが、二人はなんとなくそれが誰だか察した。

「どうぞ」

金田が答えると、ドアが開き、一人の少女が姿を現した。

長い黒髪が動きとともに柔らかく揺れた、肌は白く、大きな瞳は優しさと少しの影を帯びていながらも輝いている。白いワンピースのような服もその透明感を際立たせていて、癒しとはかなさが同居するような印象の少女だった。

「ミリアといいます。あの時は…助けてくださって、本当にありがとうございました」

少女は柔らかな笑顔を二人に向けて挨拶をした。

その瞬間金田と秋元は、驚きのあまり言葉を失った。

ただの美少女だったからではない。

そこに立っていた少女は、二人が推しのアイドル”天使エミリー”に瓜二つだった。

「…あ、あ、あまつか…」

「…エミリーたん…」

二人は声にならない声を発しながら、少女を指さしたまま動かない。

ミリアはそんな二人を見て、不思議そうに小首をかしげる。

そして、手にした食事をテーブルの上に置いて、去っていった。

「…助けて、ほんとに、よかったな!」

「…そうだね」

金田と秋元は真っ白になった頭で、それだけつぶやいた。


翌朝、金田と秋元は司祭に呼び出されて今後の方針を聞かされた

結局、金田と秋元に課せられたのは召喚者たちが破壊していった村の備品の修復と片付け、そして労働に決まった。

毎日、どこかの家の労働を無償でこなし、召喚者の分まで謝罪して回った。

当然、どこに行って

も迎え入れられることはなかったが、誰もが、本当に大切なものは破壊されていなかったという点は喜ばしいことだった。

あの状況の中で、召喚者たちはちゃんと最低限のルールの中で行動していた、金田にとってもそれは救いだった。

金田は次第に、その生活に順応していった。

常に心の片隅で、ミオンたち魔王軍の存在におびえながら。

襲撃から二週間ほど経過していた。

村の広場の草むしりをやらされている金田のもとに、スキンヘッドの男と司祭がやってきた。

スキンヘッドの男は、案の定村の代表だった。

名はリーガン、彼はたびたび金田の素行を監視しに来ては説教と雑談を繰り返していた。

ひょっとしたら、暇なのかもしれないな、と金田は思っていた。

「…魔王軍ねぇ、」

リーガンは顎ひげを撫でるようなしぐさをしながら金田の話を聞いていた。

「…そうなんです、そこのボスに言われてやったんですけど向こうも殺すな怪我させるな、って…」

金田は、今回ミオンに命令された内容を公平に話した。

今となってはミオンの事情は分からないが、必要以上の危害を加える気がなかったことだけは強調しておきたかった。

「…確かに、森一つ挟んで向こうは魔族の領域だが…魔王が討伐されてからこっち、こちら側になにかをしに来たなんて聞いたことがねぇな」

「…しかし、魔族が関わっているとなれば、私はこの男も信用できませんな…助けてくれたとはいえ、娘にどんな危害があるやもわからん…」

リーガンは少し考え込むような顔をし、司祭はあからさまに眉をひそめてそういった。

二人のそのやりとりに、金田は驚きを隠せなかった。

「…魔王って倒されているんですか?」

「魔王軍にいたのに、知らんのか?10年くらい前に倒されているじゃないか」

金田が尋ねると、リーガンは意外そうな顔をした。

「はい…あれが魔王軍に所属して初日なもので…」

金田は気まずそうに答えた。リーガンは金田の予想外の言葉に、苦笑いしかできなかった。

「倒されておるよ、名もなき勇者様と大魔術師ビブラス様の手によってな」

司祭はリーガンに続けてそう言った。

勇者、魔王、大魔術師、いかにもな言葉のオンパレードに金田の心は少しときめいていた。

「…魔王ってどんなヤツだったんですか?勇者は?」

「知らん、知っているのは一部の人間だけだ」

嬉しそうに尋ねる金田とは対照的に、リーガンの答えは実にあっさりしていた。


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