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4話:…なんという召喚詐欺

「ま、妹かもしれない女の子だし、ここは話を聞こうじゃないか」

「大事なチュートリアルみたいなものかもしれませんしね」

二人は真顔で言った。

「…誰が誰の妹だっつーの」

少女はあまりのバカバカしさに深いため息をつき、乱れた髪をかき上げる。そして、もうこの二人の会話に付き合う気はないと言わんばかりに視線を切った。

「…じゃあ、ちょっと注目!」

パン、と手を叩く。

召喚者たちの視線が一斉に少女へ向く。

先ほどまで彼女をほぼ無視していた者たちも、今は警戒心より“あのオタク二人に遊ばれていた少女”という印象の方が強いらしく、どこか侮った目を向けていた。

少女はそんな空気を一瞬で読み取り、きつめの視線で全員をざっと見渡す。

少し空気がピリついた。

そして、先ほど腰かけていた岩の前に立ち、軽く拳を握った。

「ふんっ!」

少女は岩に拳を打ち付ける。力はそんなに入っていない。

次の瞬間、乾いた破壊音が森に響いた。

岩がえぐれ、破片が四方に飛び散る。

空気が震え、木々がざわりと揺れた。

その場に漂っていた緩んだ空気が、一撃で吹き飛ぶ。

「…このくらいはできるんで、よろしく」

少女は笑顔で振り返る。

だがその笑顔には、誰もが背筋を冷やすほどの威圧感があった。

召喚者たちの顔色が一気に青ざめる。

金田と秋元も、さすがに言葉を失った。

…これはイカン!

金田はここにきて初めて、具体的な恐怖を感じた。

秋元はメガネに当たった岩の破片が気になったが、動けなかった。

「とりあえず、オタク二人は正座な」

少女は腕を組んで仁王立ちし、感情の読めない声で言い放つ。

金田と秋元はさすがにもう、何も言うことができなかった。

「金田?ぼくたちの覚醒はまだですかね…」

「…んー、あるといいねー」

二人は渋々ながらも正座し、少女の前に並んだ。

「ありませーん!今度ふざけたら確実にさっきのをくらわすからな!」

少女が顔を寄せて怒鳴る。

金田は、ちょうど目の前にある少女の“たわわ”が気になったが、怖くて直視できなかった。

少女は場の空気を完全に掌握すると、形の変わった岩に腰を下ろした。

岩の形が変わったことで、先ほどより座りやすくなったようだ。

少女が足を組む。

金田は目の前に広がる“絶対領域”の光景から、眼をそらそうと必死だった。

「で、どこから話す?」

少女は全員に聞こえるように問いかけた。

しかし、誰も口を開かない。

自然と視線は金田へ集まる。

「では、質問ですが、いいでしょうか」

金田は召喚者たちの視線を受けて、渋々手を挙げて質問を始める。

「はーい、どうぞ」

少女は勝ち誇ったようにニヤニヤしながら、金田を見下ろして言う。

「少なくとも俺とコイツは勇者として召喚されたんですが…?エミリーちゃんに」

「エミリー?誰だよそれ?どうせ、おっさんの好きなコかなんかでしょ?」

少女は興味なさそうに返す。

「…なんでそれを…お母さんも知らないのに」

図星を突かれた金田は思わずつぶやく。

「お母さんとかどうでもいいわ。あれはそういうものなの。自分の願望に沿ったシチュエーションが反映されて、召喚に引きずり込む。そういう仕掛け」

少女は淡々と説明した。

「え?じゃあ…あれは、あなたが仕掛けた召喚ということですか?」

秋元が口を挟む。

「そそ。実際にやったのは別のヤツだけど、言い出したのはあたし。鏡とか窓とかに願望を映し出して召喚をそそのかすってカンジ?」

少女はわざとらしくにっこり笑って見せた。

「…じゃあ、あれ自体が嘘ってことじゃねーか!うっかり今の今までちょっと期待しちゃってたんだぞ!」

金田が正座のまま身を乗り出して叫ぶ。

召喚者たちの間にも動揺が広がる。

「そうだよ」

少女は事も無げに言い切る。

「…詳しくは知らんけど、どうせ毎日、好きな女の子がお姫様で、自分が勇者で、イチャイチャしながら冒険する妄想でもしてたんでしょ?…キモ」

「そんなの男の子のたしなみだろうが!妄想だけなら25年はしているし、お姫様役の女の子は少なくとも5回は変わってる!」

金田は真剣なまなざしで言い返す。

その熱量に、召喚者の一部から同意の声が上がった。

秋元はその空気を感じ取り、

(…あ、同じような理由で騙されて来たヤツ、絶対いるな)

と内心で思った。

「いや、知らんし…マジキモいなおっさん…」

少女はドン引きした目を向ける。

だが召喚者たちは金田に妙な連帯感を抱いていた。

「…そもそも、ぼくら行くなんて言ってないし…」

秋元がぽつりと言う。

「だよな!俺たちは“どっか行く”とは言ったけど、“ここに行く”とは言ってねぇ!なんか最後は無理やりだったぞ!?」

少女は一瞬目を丸くし、次の瞬間ケラケラ笑い出した。

「うっわ、マジウケるー!黙ってスルーすれば召喚されないはずなのに、なんでこんなマヌケが来ちゃったのかなー?なにこのおっさんたちヤバいんですけど」

「…くそう、エミリーちゃんにお城の中で“スキル0ですね、追放です”とか言われるならまだしも…こんなギャルに好きに笑われるとは…」

「…問題はそこじゃねーだろ…なぁメガネの方?このおっさんは本当に大丈夫か?」

少女は金田の地団駄に呆れ、秋元へ確認する。

「…多分ダメだと思うけど…ぼくはギャルにバカにされるの嫌いじゃないです。慣れてるから…」

秋元はメガネを直しながら控えめに言った。

その顔はややニヤついていた。

「だからそこじゃねーっつうの…お前もたいがいだな」

少女は引き気味に突っ込む。

「もういい…俺の夢は儚く散ったということは認める!俺たちが騙されてここにいるとして…なんでこんなに大量に召喚したんだ?」

「…しかもなんか、さえない人たちばっかりですね」

秋元が後ろを振り返る。

確かに、原始人風と侍風の男を除けば、ほとんどが現代人で、しかもさえない。

「お前が言うな。あたしだってミルコとかヒョードルとか強い人間ほしかったよ。でも優秀な人間はコスト高いんだ」

(…なんで一昔前の格闘技で例えた…)

秋元は心の中で突っ込む。

「召喚は大量の魔力が必要なんだ。それこそ、勇者にすごい能力を持たせる…なんて、奇跡を意図的に創り出すくらいのレベルだよ。今回は大量に人がほしかったんだよ。だからコストの安〜い、すぐに騙され〜る、全然さえな〜い、あんたたちが釣れたってだけ。残念!」

少女は座ったままで金田と秋元の方に顔を向け、言い聞かせるような口調でそう言った。

「…ひどい、だが納得せざるを得ない」

「…なんという召喚詐欺」

おっさん二人は、異世界の少女に完膚無きまでに叩きのめされ、うなだれた。

「…しょうがないだろ、こっちだって必死なんだから…時間ないんだ」

少女は一瞬だけ顔を伏せ、ポツリとつぶやいた。

「で、ここまではオッケー?さっきも言ったけど、あんたたちはあたしの手下。戦闘員で使い捨て要因。分かった?」

少女は立ち上がると、いきなり面倒くさそうな口調に戻り、周囲の反応を促した。

しかし、反論する者はいなかった。

空気が、渋々ながら全員が承諾したことを告げていた。

「あたしの名前はミオン。これからはミオン様って呼びなさい、そしてあたしたち魔族のために働いてよね」

少女は言った。

全員がなんとなく予想していた事実を突きつけられ、場は一気に残念ムードに包まれた。

「…ま、魔族…でございますかー」

「…主役側ですらないと…」

二人は正座のままミオンを見上げてつぶやく。

「そう!魔王軍!」

ミオンはいたずらっぽい笑みを浮かべ、堂々と言い切った。


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