◯の正体は、金貨か運命か
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
森を抜けたとき、ベルはまだ知らなかった。
今日の収穫が、薬草では済まないことを。
ギルドに戻る。
薬草の山に職員が苦笑した。
「これ、全部一人で?」
「ああ」
(正確には二人)
「はいはい」
――その時。
コツ、コツ、と静かな足音。
それだけで空気が変わった。
ギルドの喧騒が、すっと引く。
現れたのは黒衣の男。
無駄のない所作。
五十を過ぎているのに背筋は微塵も曲がっていない。
「冒険者ベルジュール様、とお見受けいたします」
「……ああ、そうだけど」
(ただ者じゃない)
男は深く一礼。
「本日は、我が主のご息女をお救いいただき、誠にありがとうございました」
「……は?」
「森にてお助けいただいた若き冒険者――」
「ああ、あの子か」
「この地域一帯を統治されております、ルーデンハイム公爵家にございます」
「…………」
(おい)
「おい」
(やばいな)
「やばいな」
男は淡々と言う。
「次女様であらせられます」
「……貴族?」
「大貴族でございます」
ベルは天井を見上げた。
「……やっちまった」
(何をだ)
「助ける相手、選べるなら選びたかった……!」
(逆だろ)
男は小袋を差し出す。
「こちらを。謝礼にございます」
袋を開くと金貨がぎっしり。
「……多くね?」
職員が覗いて息を呑む。
「金貨五十枚はありますね……」
「ご、五十!?」
薬草収入の倍近い。
ベルはカードに意識を向ける。
「これ、“◯”の結果だよな」
(ああ。“価値がある場所”の回収だ)
「価値、でっけぇ……」
男は再び頭を下げた。
「改めて感謝を」
「いや、たまたまだよ」
(半分は事実だ)
「黙れ!」
男は去っていく。
ギルドのざわめきがゆっくり戻る。
「相棒。◯、もう一回定義し直した方がいい気がする」
(同感だ。“金貨”も“運命”も入ってくる)
ベルは金貨袋の重みを握りしめた。
見えない“何か”が、確かに積み重なっていた。




