礼という名の鎖
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
数日が経った。
薬草採取は順調。
収入も安定し、ベルの生活は穏やかだった。
「……こういうのでいいんだよな、本来は」
(生き延びるには最適だ)
「夢がねえな」
(現実的と言え)
――その時。
コツ、コツ。
覚えのある足音。
ベルは振り返る。
「……またかよ」
黒衣の執事。
「ベルジュール様。再びお目にかかります」
「どうも……」
執事は静かに言った。
「先日の謝礼について、不備がございます」
「不備? 金貨もらったけど?」
「はい。しかしあの形では“個人的な謝礼”に過ぎません」
「それでいいだろ」
「いいえ」
きっぱり否定。
「世間体が悪い」
「……は?」
(来た、“面倒なやつ”)
「他の貴族、冒険者、領民に対し“示し”がつきません」
「俺は別に気にしてねえよ?」
「問題はベルジュール様ではございません。“周囲がどう見るか”でございます」
ベルは天井を仰いだ。
「……めんどくせえ」
(同感だ)
執事は淡々と続ける。
「つきましては、改めて正式な謝礼を。屋敷にお越しいただきたく」
「もういいって!」
「お越しいただきたく」
「聞けよ!?」
執事は、逃がさない微笑みを浮かべた。
(断れると思うか?)
「理屈上は可能。現実は?」
(ほぼ不可能だな)
「だよなあ……」
――後日。
ベルは屋敷の前に立っていた。
巨大な門、整えられた庭園、無駄のない美しさ。
「……帰りてえ」
(今さらだな)
通された広間。
そこに座っていたのは、威厳と静けさを纏う男。
ルーデンハイム公爵。
「娘を救ってくれたそうだな」
「……たまたまです」
「たまたまで、人は救えん」
短い断言。
言葉に重みがある。
「礼を言う」
執事が小箱を運び、ベルの前に置く。
「正式な謝礼だ。開けていい」
ベルが蓋を開けると――金貨。
しかも先日の比ではない。
「……いや、多すぎるだろ」
(桁が違う)
「これ、もらっていいのか?」
「それでも足りぬくらいだ」
ベルは頭をかく。
「なんか、すげえことになってんな」
(◯の延長線だ。礼には鎖がつく)
「礼という名の鎖……やめろ、かっこいいけど怖い」
ベルは箱を閉じる。
重みが手に残る。
それはただの金ではない。
責任。
関係。
そして――世界との接点。
「なあ、相棒」
(なんだ)
「冒険ってさ。思ってたより、でかいな」
(ああ。だから面白い)
ベルは小さく笑った。
「……上等だ」
――しかし、その“英雄扱い”は屋敷の中にも波紋を広げていた。
護衛騎士団に話が入る。
そして、団長が言う。
『本当に君が娘を救ったのか? 実力を示してもらおう。模擬戦だ』
ベルは固まった。
「……え、待って。俺、実力じゃなくて運で生きてるタイプなんだけど」
(運も実力、と言い張れ)
「無理があるわ!」




