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導くカードは正解を知らない  作者: さんご
第一章 導くカード

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11/20

偽りの勝利か、選び取る勝利か

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

屋敷の中は、異様な熱気に包まれていた。


「こちらが例の冒険者か……」

「本当にお嬢様を救ったと?」

「見たところ、ただの若造だが……」


視線が刺さる。

ベルジュールは居心地の悪さを隠そうともせず、頭をかいた。


「……やっぱ帰っていいか?」

(もう遅い)

「だよな……」


空気は一方向に流れていた。

――“英雄”。

その言葉が、勝手に一人歩きしている。


そして。


「……では、その実力。拝見させていただこう」


低く、よく通る声。

現れたのは、一人の男。

重厚な鎧。無駄のない体躯。

一歩踏み出すだけで、空気が沈む。


「護衛騎士団長、アルヴェルトだ」


「……ベルジュールです」

自然と背筋が伸びる。


(強いな)

「分かる」


見ただけで理解できる。

――格が違う。


「模擬戦を申し込む」

団長は淡々と言った。

「断る理由はないだろう?」


「……まあ、な」

断れる空気ではない。

断れば“何か”が壊れる。


「いいぜ。やる」

ベルは剣を抜いた。


――中庭。

広く整えられた戦場。

周囲には騎士たち。

そして、あの少女――エリナの姿もあった。


「頑張ってくださいね!」

無邪気な声。


(プレッシャーが増したな)

「やめてくれ……」


対峙する。

団長は微動だにしない。


「先に言っておく」

静かな声。

「手加減はしない」


「……上等だ」


ベルは構える。


だが――

始まった瞬間、理解した。


「――速っ!?」


見えない。

いや、見えているのに追いつかない。


一撃。剣が弾かれる。

二撃。体勢が崩れる。

三撃。地面に叩きつけられる。


「がっ……!」

呼吸が止まる。


(……話にならないな)

カードの分析は冷静だった。


「くそ……!」

立ち上がる。

だが差は歴然。

力、速度、技術――すべてが上。


「終わりだ」

団長の剣が喉元に迫る。

避けられない。防げない。


――負け。


その瞬間。


(……いいのか?)

カードの声が響く。


「……は?」


(このまま、“英雄はただの偶然だった”で終わるぞ)


時間が引き延ばされる。


(それは事実だ。否定はしない)

「……ああ」


(だが、“そう見せる必要がある”のも事実だ)


ベルの視界に、再び“線”が走る。

団長の動き、癖、踏み込み。

すべてが分解される。


(使え。俺を)


一瞬の迷い。


「……それ、ズルじゃねえのか」


(戦術だ)


「……」


(ここで負ければ、お前の言葉も価値も軽くなる)

(そして――面倒になる)


ベルは笑った。


「面倒は嫌いだ」


(だろうな)


次の瞬間。

時間が戻る。

団長の剣が振り下ろされる。


――だが。


ベルは“そこにいない”。


「……何?」

初めて、団長の声が揺れた。


(右後方、死角)

ベルは滑り込む。

剣を振るう。


「ッ!」

団長が反応する。

だが――わずかに遅い。


(次、来る)


“予測”。

未来の断片。


ベルはそれを“なぞる”。

攻撃を躱し、逆に差し込む。


「馬鹿な……」

騎士たちがざわめく。


団長の動きが読まれている。

いや――“先に動いている”。


(今だ)


ベルは踏み込む。

全力の一撃。

団長の剣を弾き飛ばす。

金属音が響く。


そして――

剣先が、団長の喉元に止まった。


静寂。


誰も動かない。


「……参った」

団長が静かに言った。

その一言で勝負は決した。


ざわめきが爆発する。


「まさか……」

「団長が……」

「逆転した……!」


ベルはゆっくりと剣を下ろした。


「……はぁ……」

心臓がうるさい。


(成功だな)

「……ああ」


だが、胸の奥が少し重い。


団長が近づく。


「見事だ」

短い言葉。だが真剣だった。


「……どうも」

ベルは苦笑する。


団長の視線が少しだけ鋭い。


「……何か、隠しているな?」


「……ッ」


(鋭いな)


「……気のせいだろ」

ベルは軽く肩をすくめた。


団長はしばらく見つめ――

やがて小さく笑った。


「まあいい。勝ちは勝ちだ」


それ以上は追及しない。

だが、完全に納得したわけではない。


ベルはカードへ意識を向ける。


「……なあ、相棒。これでよかったのか?」


カードは少しだけ間を置いた。


(“正しい”とは言わない)


「……だよな」


(だが、“必要だった”)


ベルは息を吐く。


「……難しいな」


(そういうものだ)


空を見上げる。

青く、広い。


「……ま、いっか。勝ちは勝ちだ」


(開き直ったな)


「生きるためだ」


その言葉はどこか現実的で、

そして――少しだけ強くなっていた。


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