純粋という刃
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
屋敷の庭園は静かだった。
整えられた芝生。風に揺れる花々。
その中央に――
「ベルー!」
元気な声が響く。
駆け寄ってくる少女。
ルーデンハイム公爵家次女――エリナ。
「まあな」
ベルは少しだけ気まずそうに笑った。
「呼ばれたから来ただけだ」
「ふふ、言い訳ですね」
無邪気に笑う。
打算がない。
ただ“嬉しい”が、そのまま出ている。
(……分かりやすいな)
「お前な……」
ベルは小さく息を吐く。
「その距離感、普通じゃねえぞ」
「そうですか?」
首をかしげる。
「助けてもらったんですから、当然です」
あまりにもまっすぐ。
「ベルは、すごいです」
「……何がだよ」
「団長にも勝ったじゃないですか!」
きらきらとした目。
疑いなど一片もない。
「本当に、強いんですね!」
その一言が妙に重かった。
「……いや」
ベルは言葉に詰まる。
「……あれは」
続かない。
(言うのか?)
「……」
ベルは黙る。
言えない。
“全部が自分の力じゃない”なんて。
この純粋な視線に、どう向き合えばいいのか分からない。
「……すげえな、お前」
代わりに出たのは別の言葉だった。
「こんな俺を、そこまで信じられるの」
エリナはきょとんとする。
「変なこと言いますね」
そして微笑む。
「だって、目の前で見たんです」
一歩、近づく。
「助けてくれた時も、団長との戦いも」
「嘘じゃないです」
その距離の近さに、ベルはわずかにたじろぐ。
「ベルは、ベルです」
言い切る。迷いなく。
「それで十分です」
――その言葉が胸に刺さる。
「……っ」
ベルは拳を握った。
(……効いてるな)
「うるせえ……」
エリナは気づかない。
ただ嬉しそうに笑っている。
その姿が、余計に苦しい。
「……ちょっと、外す」
ベルは背を向けた。
「え?もう行っちゃうんですか?」
「すぐ戻る」
足早にその場を離れる。
庭園の外。
人気のない回廊。
「……はぁ」
深く息を吐く。
壁にもたれる。
「……ダメだな、俺」
(何がだ)
「分かってんだろ」
ベルは目を閉じる。
「俺が勝ったの、半分以上お前のおかげだ」
(半分どころじゃないな)
「やめろ」
苦笑する余裕もない。
「なのにさ」
声が少し低くなる。
「全部、自分の力みたいに思われてる」
(事実としては違うな)
「だろ?」
拳がわずかに震える。
「なのに……訂正できねえ」
(なぜだ)
「……怖いからだよ」
短い答え。
「“違う”って言ったら、どうなるか分かんねえ」
「今の立場も評価も、全部崩れるかもしれねえ」
「……それが怖い」
沈黙。
カードはすぐには答えなかった。
やがて。
(それが“依存”だ)
ベルは小さく笑った。
「……だろうな」
(慣れるな。言い訳になる)
「……分かってる」
(使われるな。“使え”)
「……難しいこと言うな」
(事実だ)
ベルは少しだけ頷く。
「次は、もうちょい自分で戦ってみる」
(……ほう)
「全部頼るのは、なんか違う」
(いい判断だ)
ベルは少しだけ笑う。
「……相棒、だからな」
(ああ)
依存ではない。
共存へ向かうための線が引かれた。




