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導くカードは正解を知らない  作者: さんご
第一章 導くカード

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13/20

任されるということ

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

重厚な扉が静かに閉まる。

再び通されたのは、あの広間だった。


ルーデンハイム公爵がいた。


「来てくれたか、ベルジュール」


「……どうも」

ベルは軽く頭を下げる。

以前よりほんの少しだけ自然に。


(慣れてきたな)

「慣れたくはねえけどな」


公爵はそのやり取りを見逃さなかったが、あえて触れない。


「単刀直入に言おう。頼みがある」


「……でしょうね」

ベルは苦笑する。


「内容次第だな」


公爵はゆっくり頷いた。


「娘――エリナのことだ」


その名前が出た瞬間、ベルの表情がわずかに変わる。


「……あいつが、どうした」


「見ての通りだ。家に収まる性格ではない」


「まあ……そうだな」


「閉じ込めれば反発する」


「分かる気がする」


「そして、隙を見て外へ出る」


ベルはため息をついた。


「もうやってるしな」


「その通りだ」

公爵の視線がわずかに鋭くなる。


「問題はその先だ。次は取り返しのつかない場所へ行くかもしれん」


(現実的なリスクだな)

「……ああ」


「だから考えた。“止める”のではなく、“任せる”」


「……任せる?」


「外の世界に触れたいのだろう。ならば触れさせる」


「……危なくねえか、それ」


「危険はある。だが――制御された危険なら学びになる」


ベルは黙る。


「お前に、エリナを任せたい」


「……は?」


「護衛、兼、指導役だ」


「いやいやいや、無理だろそれ」


「なぜだ」


「俺、そんな立場じゃねえし」


「実力は証明されている」


「それが問題なんだよ!」

思わず声が上がる。


(核心を突くな)

「黙ってろ」


「俺の“実力”、怪しいんだっての……」


公爵は静かに見ている。


「報酬は用意する」


「金の問題じゃねえ」


「では何だ」


ベルは言葉に詰まる。


「……責任、だよ。何かあったら、どうすんだ」


公爵は少しだけ頷いた。


「その懸念は理解する。だからこそ、お前に頼む」


「……は?」


公爵は続ける。


「お前は“無理をしない”。そして“見捨てない”」


森での行動。

模擬戦での判断。

すべて見られている。


「……評価高すぎねえか。買いかぶりだ」


「かもしれん。だが、それでも構わん」


一拍。


「娘が死ぬよりはな」


沈黙。

その言葉は重かった。


(……逃げ道はないな)

「……ああ」


ベルはゆっくり息を吐いた。


「条件つけていいか」


「聞こう」


「完全な護衛は無理だ。俺は冒険者だ。仕事もある」


「構わん」


「危ないと思ったら引く」


「当然だ」


「それでも文句言うなよ」


「言わん」

即答だった。


ベルは少し驚く。


「……いいのか、それで」


「“制御された危険”でいいと言った」


ベルはしばらく考えた。

エリナの顔が浮かぶ。

あの無邪気な笑顔。


「……あいつ、絶対めんどくせえぞ」


(間違いない)


公爵はわずかに笑った。

それは初めて見せる“父親の顔”だった。


「それでも、頼む」


ベルは頭をかいた。


「……はぁ。分かったよ。やる」


公爵が深く頭を下げる。

貴族としてではない。

一人の父として。


ベルは苦笑した。


「……やめてくれよ、そういうの」


(もう逃げられないな)

「分かってる」


守るだけじゃない。

教えるでもない。

“関わる”という選択。

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