箱入り娘、刃を持つ
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
城下町は、どこか整いすぎていた。
石畳は欠け一つなく、露店の配置すら美しい。
警備兵の巡回は正確で、空気に“管理”の匂いがある。
「……なんだこの安心感」
ベルジュールは宿の窓から通りを眺めながら呟いた。
(領主の統治が行き届いている証拠だな)
「行き届きすぎだろ」
(過保護とも言う)
「だな」
――バンッ!
扉が勢いよく開いた。
「ベル!準備できました!」
現れたのはエリナ。
軽装の鎧。腰には剣。
「……雰囲気、変わったな」
ベルは目を細めた。
立ち方、視線、重心。
すべてが“整っている”。
「ふふ、分かりますか?」
「帰ってから、ちゃんと修行しましたから!」
(ほう)
「……あの短期間で?」
「はい!」
「……あの親父、過保護すぎるだろ」
(“安全な範囲で最大効率”を叩き込んだな)
「教育ってレベルじゃねえぞ」
エリナは首をかしげる。
「?普通ですよ?」
「どこがだよ!」
――森。
前回と同じ場所。
「行きます!」
エリナが先に踏み出す。
「おい、待て――」
止める間もなく魔物が現れる。
二体。
前回なら危険な数。
だが。
「はっ!」
一閃。
正確な軌道。
無駄のない踏み込み。
一体が崩れる。
「なっ……」
回避、反撃。
もう一体も沈む。
静寂。
「……え?」
ベルは素で間抜けな声を出した。
「終わりです!」
エリナはにこっと笑う。
息一つ乱れていない。
(……完成度が高いな)
「強くなりすぎだろ!」
「そうですか?」
(短期間でここまで仕上げるのは異常だ)
「だよな!?」
「あ、でも。先生が“実戦ではまだまだ”って言ってました」
「その先生連れてこい」
(基準がバグってるな)
さらに進む。
魔物が三体。
ベルも動こうとするが――
「任せてください!」
エリナが前に出る。
連撃。
流れるような動き。
一体、二体。
残り一体も時間の問題。
「……マジかよ」
ベルは完全に観戦モードだった。
「どうですか!」
エリナが振り返る。
期待に満ちた目。
「……すげえよ。この辺りじゃ敵なしだな」
「本当ですか!」
顔がぱあっと明るくなる。
(事実だな)
「……ほんと、何されたんだよあの数日で」
「えっとですね。朝から基礎訓練で、昼は対人戦で、夜は反省と座学で――」
「やめろ、聞いてるだけで疲れる」
(軍隊か何かか?)
だが、ふとベルは気づく。
「……なあ。それ、楽しかったか?」
エリナは一瞬だけ考えて。
「……ちょっと大変でした」
「だろうな」
「でも」
笑う。
「ベルとまた冒険できるって思ったら、頑張れました」
(また来たな、“純粋”)
「刺さるんだよな、これ……」
森の奥へ。
今度はベルが前に出る。
「よし、次は俺の番だ」
(カードは使うか?)
ベルは剣を握り直す。
「……最低限でいい」
(了解)
ベルは自分の感覚で踏み込む。
遅い。荒い。
だが――確実に“自分の動き”だった。
(右、少し甘い)
「分かってる!」
最小限の補助。
それだけで戦いは変わる。
撃破。
「……よし」
エリナが目を輝かせている。
「すごいです!」
「……いや、お前の方がすげえよ」
「そんなことないです!」
ベルは苦笑した。
「……いいな、それ」
(依存もしていない。無理もしていない)
「バランスってやつだな」




