◯の中の例外
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
薬草採取をしばらく続けた。
順調すぎて逆に怖い。
「……順調すぎて怖いな」
(効率がいいだけだ)
「いや、“今のところ”って枕詞がつくだろ」
軽口を叩きつつ、新たな◯へ向かう。
だが、空気が揺れた。
葉の擦れる音ではない。
――金属。
「……戦ってる?」
(そのようだな)
「おいおい……◯だぞここ」
(通常は価値がある地点だ)
「安全とは言ってないもんな。くそっ、言い返せねえ」
木々の隙間から見えた。
若い女の冒険者。
装備は軽装。動きが荒い。
三体の魔物に囲まれていた。
「まずいな」
(時間の問題だ)
ベルは舌打ち。
「チッ……面倒なことに」
(行くのか)
「当たり前だろ。見捨てるほど割り切れねぇ」
カードがわずかに沈黙。
(……そうか)
ベルは率直に聞く。
「勝てるか?」
(……微妙だな)
「おい」
(“普通にやれば”の話だ。だが“道筋”はある)
視界に戦場が重なる。
魔物の位置、動線、冒険者の隙。
(右の個体、反応が遅い。最初に落とせ)
「了解!」
(次に奥。ただし直行するな。左へ一歩フェイント)
「細かいな!」
(生き残りたいなら黙って従え)
「言うようになったな、相棒!」
(言語理解の成果だ)
ベルは飛び出した。
「おい! 伏せろ!!」
女冒険者が反射的に身を屈める。
その頭上をベルの剣が走る。
一体目、撃破。
(いいぞ。次)
二体目の攻撃をフェイントで空振りさせ、懐へ。
突き刺す。
残り一体。
女冒険者が狙われる。
間に合わない。
(間に合う。走るな。投げろ)
「は?」
(剣を)
「任せた!」
ベルは剣を投げた。
回転する刃。
頭の中で“線”が引かれる。
剣は――魔物の喉を正確に貫いた。
静寂。
森が静けさを取り戻す。
「無茶言うなよ……!」
(成功したから問題ない)
「結果論だろそれ!」
女冒険者が震える声で言う。
「助けて、くれて……ありがとうございます……!」
ベルは手を振った。
「気にすんな。通りすがりだ」
(嘘だな。“◯”に導かれた)
「うるせえ」
ベルはカードに意識を向ける。
「なあ。なんでここ、◯だったんだ?」
カードは少し考える。
(結果的に“利益”があった。薬草も取れた。経験も積んだ。そして――“助けた”)
「……利益って、人助けも入るのかよ」
(価値の一つだろう)
ベルは小さく笑った。
「じゃあ◯は“安全”じゃなくて、“価値がある場所”なんだな」
(ああ。安全とは限らない)
「面倒くせえけど、冒険っぽいな」
二人は歩き出す。
◯と✕の意味は、少しずつ深まっていく。




