地図に刻まれた“◯”と“✕
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
朝の森は、やけに清潔だった。
ダンジョンの湿気とは違う。命の匂いがする。
「……こういう仕事、久しぶりだな」
――薬草採取。
冒険者として最も基本で、最も安全……のはずの仕事。
「相棒。場所、分かるか?」
(試すのか)
「試す」
ベルが頼むと、視界が切り替わった。
森の風景の上に半透明の“地図”が重なる。
起伏、木々の密度、地形。
そして――点在する“◯”。
「うわ……便利……」
(視覚イメージの転送だ。言葉より精度が高い)
「……なんつーか、迷わねぇな」
(迷うタイプだろ、お前)
「うるせえ!」
だが、地図には異質な印が混ざっていた。
“✕”。
「これ何?」
(危険地点。近づくな)
「了解」
最寄りの◯へ向かう。
迷いがない。
「あった。これ薬草?」
(ああ。状態もいい。根を傷つけるな)
「了解、先生」
次へ、また次へ。
◯を辿るたび成果が増える。
「効率、やばいな……」
(無駄がない)
袋が膨らむ。
ベルは調子に乗りかけた。
「これなら誰にも負け――」
(慢心するな)
「はいはい」
その時、視界の端に✕が映る。
「……なあ、ちょっとだけ見ていい?」
(推奨しない)
「ちょっとだけ!」
(自己責任だぞ)
ベルは慎重に進路を変えた。
森の空気が変わる。
鳥の声が消えた。
(止まれ)
足を止めた瞬間、地面がわずかに沈んだ。
「――ッ!?」
ベルが飛び退く。
次の瞬間、バン、と乾いた音。
鋭い木の杭が地面から突き出た。
「トラップかよ!」
(“✕”の一つだ)
「さすが先生……」
(まだある。周囲、三箇所)
地図が強調され、見えなかった✕が浮かび上がる。
「……全部罠か」
(もしくはそれに類する危険)
「もう近づかねえ」
袋は満杯。
森の出口が見える。
「……いいな、これ。ちゃんと“組んでる”感じ」
(……ああ。悪くない)
◯と✕。
それは単なる記号ではなく、
二人の関係を“実務”に変える道標だった。




