魔力は、吐くほど使え
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
翌朝。
「はい、次」
エリナは机の上に小瓶を並べた。
青く透き通る液体。
レオは、その時点で嫌な予感しかしなかった。
「……なんですか、それ」
「マナポーション」
「嫌な予感しかしないんですけど」
「正解」
エリナはにこりと笑った。
数分後。
屋敷の裏庭。
レオはふらふらになりながら杖を構えていた。
「はぁ……はぁ……っ」
「次、火球」
「もう無理です……!」
「無理じゃない」
「いや、無理ですって!」
「倒れるまでやるの」
鬼だった。
エリナは魔法訓練に関して容赦がなかった。
火球。
風刃。
氷結。
補助魔法。
身体強化。
使える魔法を片っ端から使わせる。
魔力が切れたらマナポーション。
回復したらまた魔法。
限界が来たら休ませるのではなく、「もう一回いける」と言う。
そして本当に、もう一回いけてしまう。
昼過ぎ。
レオは庭の隅で膝をついていた。
顔色は真っ青。
「吐きそう……」
「吐いてから続ける?」
「鬼ですか!?」
エリナは腕を組む。
「魔力は筋肉と同じよ」
「限界まで使って、回復して、また使う。そうすると器が広がるの」
「そんな理屈、初めて聞きました……」
「私もカードにやられた」
レオは少し遠い目をした。
なるほど。
この人が時々無茶苦茶なのは、カードのせいでもあるらしい。
カードは庭のテーブルの上で静かに置かれていた。
(選択肢を与える)
「やめて! それ絶対ろくなやつじゃない!」
(1:今すぐ休む。安全だが、伸びは遅い)
(2:今日だけは続ける。伸びるかもしれない。倒れるかもしれない)
(3:やめる。平穏。だが“魔導士になりたい”は遠のく)
レオは唸った。
「2……!」
「よし」
エリナが即答した。
即答が怖い。
カードが付け足す。
(補足:2を選んでも伸びるとは限らない)
「余計なこと言わないでください!」
(事実だ)
「事実でも黙って!」
訓練は続く。
(まだ足りん)
「足りてますって……!」
(お前の魔力は少ないのではない)
(出力も循環も雑なだけだ)
「うっ……」
図星だった。
レオの魔法はいつも勢い任せ。
必要以上に魔力を込めて、すぐ息切れする。
細く、長く流す技術がない。
カードが言う。
(火球を維持しろ)
「維持?」
(大きくするな。消すな。小さく保て……かも)
「“かも”って何ですか!?」
(断言すると、失敗した時にお前が折れる。だから“かも”だ)
「性格悪っ!」
(褒め言葉か?)
「褒めてない!」
レオは掌に小さな火球を出す。
だが数秒で揺らぎ、消える。
「難しい……!」
(呼吸を合わせろ。押し出すな。流せ……たぶん)
「たぶん!?」
(やって確かめろ)
何度も。
何度も。
失敗して。
消えて。
ふらついて。
またポーションを飲んだ。
夜になる頃には、もう立っているのもやっとだった。
「もう無理……」
地面に倒れ込む。
その顔を見て、エリナは少しだけ笑った。
「初日でここまで出来れば十分よ」
「最初の人間は、死んだ魚みたいな顔で三日寝込んだもの」
「……誰ですか、その人」
「私」
レオは地面に突っ伏したまま笑った。
そんな訓練が一週間続いた。
朝から晩まで魔法。
倒れては回復。
吐いては回復。
飲んでは撃つ。
マナポーション代だけで、小さな家が建つくらいの額になっていた。
全部、エリナ持ちである。
「領主ってすごい……」
「領主だから出来る無駄遣いよ」
そして一週間後。
いつもの裏庭。
レオは掌を前に出した。
小さな火球が浮かぶ。
以前よりもずっと滑らかに。
そして、消えない。
揺れない。
まるでそこに存在するのが当たり前みたいに、静かに燃えていた。
「……え?」
レオは自分の手を見る。
今までなら数秒で息が切れていた。
だが今は違う。
まだ余裕がある。
エリナが頷く。
「魔力が増えたわね」
カードが静かに言う。
(ようやく、人並み……かもな)
「また曖昧!」
(人並みの定義が揺れるのは、世界のせいだ)
「便利な言い訳!」
だが、その声に以前ほど腹は立たなかった。
むしろ少し嬉しかった。
人並み。
それはつまり、ここから先へ進めるということだ。




