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導くカードは正解を知らない  作者: さんご
第一章 導くカード

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26/27

魔力は、吐くほど使え

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

翌朝。


「はい、次」


エリナは机の上に小瓶を並べた。

青く透き通る液体。


レオは、その時点で嫌な予感しかしなかった。


「……なんですか、それ」


「マナポーション」


「嫌な予感しかしないんですけど」


「正解」


エリナはにこりと笑った。


数分後。

屋敷の裏庭。


レオはふらふらになりながら杖を構えていた。


「はぁ……はぁ……っ」


「次、火球」


「もう無理です……!」


「無理じゃない」


「いや、無理ですって!」


「倒れるまでやるの」


鬼だった。

エリナは魔法訓練に関して容赦がなかった。


火球。

風刃。

氷結。

補助魔法。

身体強化。


使える魔法を片っ端から使わせる。

魔力が切れたらマナポーション。

回復したらまた魔法。


限界が来たら休ませるのではなく、「もう一回いける」と言う。

そして本当に、もう一回いけてしまう。


昼過ぎ。

レオは庭の隅で膝をついていた。

顔色は真っ青。


「吐きそう……」


「吐いてから続ける?」


「鬼ですか!?」


エリナは腕を組む。


「魔力は筋肉と同じよ」


「限界まで使って、回復して、また使う。そうすると器が広がるの」


「そんな理屈、初めて聞きました……」


「私もカードにやられた」


レオは少し遠い目をした。

なるほど。

この人が時々無茶苦茶なのは、カードのせいでもあるらしい。


カードは庭のテーブルの上で静かに置かれていた。


(選択肢を与える)


「やめて! それ絶対ろくなやつじゃない!」


(1:今すぐ休む。安全だが、伸びは遅い)

(2:今日だけは続ける。伸びるかもしれない。倒れるかもしれない)

(3:やめる。平穏。だが“魔導士になりたい”は遠のく)


レオは唸った。


「2……!」


「よし」


エリナが即答した。

即答が怖い。


カードが付け足す。


(補足:2を選んでも伸びるとは限らない)


「余計なこと言わないでください!」


(事実だ)


「事実でも黙って!」


訓練は続く。


(まだ足りん)


「足りてますって……!」


(お前の魔力は少ないのではない)

(出力も循環も雑なだけだ)


「うっ……」


図星だった。

レオの魔法はいつも勢い任せ。

必要以上に魔力を込めて、すぐ息切れする。

細く、長く流す技術がない。


カードが言う。


(火球を維持しろ)


「維持?」


(大きくするな。消すな。小さく保て……かも)


「“かも”って何ですか!?」


(断言すると、失敗した時にお前が折れる。だから“かも”だ)


「性格悪っ!」


(褒め言葉か?)


「褒めてない!」


レオは掌に小さな火球を出す。

だが数秒で揺らぎ、消える。


「難しい……!」


(呼吸を合わせろ。押し出すな。流せ……たぶん)


「たぶん!?」


(やって確かめろ)


何度も。

何度も。

失敗して。

消えて。

ふらついて。

またポーションを飲んだ。


夜になる頃には、もう立っているのもやっとだった。


「もう無理……」


地面に倒れ込む。


その顔を見て、エリナは少しだけ笑った。


「初日でここまで出来れば十分よ」


「最初の人間は、死んだ魚みたいな顔で三日寝込んだもの」


「……誰ですか、その人」


「私」


レオは地面に突っ伏したまま笑った。


そんな訓練が一週間続いた。

朝から晩まで魔法。

倒れては回復。

吐いては回復。

飲んでは撃つ。


マナポーション代だけで、小さな家が建つくらいの額になっていた。


全部、エリナ持ちである。


「領主ってすごい……」


「領主だから出来る無駄遣いよ」


そして一週間後。

いつもの裏庭。


レオは掌を前に出した。

小さな火球が浮かぶ。

以前よりもずっと滑らかに。


そして、消えない。

揺れない。

まるでそこに存在するのが当たり前みたいに、静かに燃えていた。


「……え?」


レオは自分の手を見る。

今までなら数秒で息が切れていた。

だが今は違う。

まだ余裕がある。


エリナが頷く。


「魔力が増えたわね」


カードが静かに言う。


(ようやく、人並み……かもな)


「また曖昧!」


(人並みの定義が揺れるのは、世界のせいだ)


「便利な言い訳!」


だが、その声に以前ほど腹は立たなかった。

むしろ少し嬉しかった。


人並み。

それはつまり、ここから先へ進めるということだ。

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