剣と魔法の間
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
その日の夜。
屋敷の一室で、レオは机に向かって座っていた。
目の前には、例のカード。
料理の知識を流し込まれたせいで、なぜか今、彼は「卵をふわふわに焼くには空気を混ぜ込むと良い」という情報を知っていた。
魔道具の知識のせいで、燭台に風避けを付けた方が火持ちが良くなることも分かる。
交渉の知識のせいで、昼間に市場の商人から少し多めに銅貨を取られていたことにも気付いてしまった。
「……なんだこれ」
頭が良くなったというより、急に人生経験を借りてきたみたいだった。
その時。
カードが、机の上でふわりと光った。
(さて)
「うわっ」
(お前は、何がしたい)
レオは瞬きをした。
「何がしたい、って?」
(将来だ)
(何になりたい)
いつもの少し偉そうな声。
だが、その問いだけは妙に真っ直ぐだった。
レオは少し黙る。
自分は何になりたいのか。
今までそんなことをまともに考えたことはなかった。
ただ依頼を受けて。
食べていくために剣を振って。
失敗して謝って。
それでも、人を助けたくて。
「……俺」
レオは照れくさそうに笑った。
「立派な魔導士になりたいです」
数秒。
沈黙。
(は?)
カードが、明らかに動揺した。
(お前、剣士ではないのか?)
「剣も使いますけど」
(あれだけ剣を持ち歩いていて?)
「いや、だって魔力少ないんで……」
カードが静かになった。
嫌な静かさだ。
「魔法だけで戦うと、すぐ息切れするんです」
レオは頭をかいた。
「火球を二、三発撃ったら、もうふらふらで」
(弱いな)
「はっきり言わないでくださいよ!」
レオは机に突っ伏した。
「だから普段は剣で戦って、魔法は補助に使うんです」
「足場を凍らせたり、風で相手の動きを崩したり、灯りを出したり……」
「本当は、もっとすごい魔法を使いたいんですけどね」
カードは少しだけ黙った。
(……なるほど)
(魔法剣士、というやつか)
「そんな格好いいものじゃないですよ」
レオは苦笑する。
「中途半端なんです」
「剣士としても二流」
「魔導士としても三流」
「どっちつかずで、器用貧乏で……」
窓の外から夜風が吹き込む。
蝋燭が揺れた。
レオは小さな声で続ける。
「でも……守りたい時って、一つのやり方だけじゃ足りない気がして」
「剣しか使えないより、魔法も使えた方が助けられる人が増えると思うんです」
「……だから、ちゃんと魔導士になりたい」
カードは、しばらく何も言わなかった。
その沈黙が少し怖い。
変なことを言っただろうか。
そう思った時だった。
(選択肢をやる)
「え、はい」
(1:剣士を極める。安定する。だが“届かない場所”が残る)
(2:魔導士に寄せる。夢は叶いやすい。だが魔力が追いつかないと死ぬ)
(3:両方やる。面倒だが、救える範囲が広い。代わりにどっちも半端のまま終わる危険)
レオは目を見開いた。
「……3、怖いな」
(怖いのは当然だ。だが、怖いからといって1が正解とは限らない)
「それも怖いんですよ!」
カードは小さく光った。
(お前は、どれを選ぶ)
レオは少しだけ笑った。
「……3です」
「中途半端でいい」
「いや、良くはないんですけど」
「でも、俺は……それが俺なんで」
カードは、少しだけ間を置いて。
(……ベルに少し似ているな)
「え?」
(あいつも剣しか使えなかったくせに、何でもやろうとしていた)
(料理も掃除も交渉も裁縫も、中途半端に手を出しては失敗していた)
レオは思わず吹き出した。
「なんですかそれ」
(だが、そういう人間ほど誰かを救う)
(剣だけの者には救えない人がいる)
(魔法だけの者には届かない場所がある)
(半端者は、半端者にしか行けない場所へ行ける)
レオは胸の奥に熱いものが灯るのを感じた。
「……じゃあ」
「俺、案外悪くないかもしれないですね」
(調子に乗るな)
「ひどいなぁ!」
だが、その声はどこか少しだけ柔らかかった。
机の上でカードは静かに光る。
まるで、次の主の未来を“決めずに見ている”みたいに。




