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導くカードは正解を知らない  作者: さんご
第一章 導くカード

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受け継がれるもの

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

カードは、静かに光っていた。

レオの手の中で、淡い金色の紋様が浮かび上がる。


「うわっ!?」


思わず落としそうになり、レオは慌てて両手で抱えた。


「な、なんですかこれ!?」


「落とさないで」

エリナは平然と紅茶を飲む。


「かなり貴重なんだから」


「いや、貴重とかそういう話じゃないですよ! 光ってますよ!? 今!」


カードは、まるで呼吸をするように明滅していた。

やがて光が収まる。


するとカードの表面に、見たこともない文字が浮かび上がった。


《料理》

《魔道具作成》

《交渉》


レオは目を丸くした。


「……なんですか、これ」


エリナは少しだけ目を細めた。

その文字は昔にはなかった。


自分が積み重ねてきたもの。

料理を作り、人を笑顔にした日々。

必死に覚えた魔道具。

領民のために頭を下げ、商人と戦い、騙され、勝ち取ってきた交渉。


その全部が、今、形になっていた。


「たぶん、それは私が覚えたこと」


「……はい?」


「昔はなかったの。ベルの剣術とか知識とか、そういうのしかなかった」


レオはカードとエリナを交互に見た。


「じゃあ、これ……エリナ様の力が入ってるんですか?」


「そういうことになるのかな」


カードが、ふっと鼻で笑うような声を出した。


(断言はしない。可能性は三つ)


「え?」


(1:本当に“スキル”として継承された)

(2:お前の脳が“借り物の経験”を再構成している)

(3:両方だ)


レオは固まった。


「……え、つまり?」


(つまり、使って確かめろ)


「怖いなぁ!」


エリナは慣れた様子でため息をついた。


「うるさい」


レオが突っ込み切る前に、カードが改めて言った。


(私は、持ち主の経験を記録する)


「……喋った!?」


レオは飛び上がった。

椅子が倒れる。


「うわっ、ごめん! ごめんなさい!」


(謝るのは椅子だ)


「椅子にも謝ります!」


エリナは紅茶を飲み干し、淡々と言う。


「そのカード、うるさいから慣れて」


(うるさくない)


「今の反論がもううるさいんだよ!」


カードの声は続く。


(ベルの知識も剣も思考も蓄積された。エリナが得た経験も刻まれた)


(料理。魔道具。交渉。領地経営。人との向き合い方。失敗。後悔。覚悟)


レオはごくりと唾を飲んだ。


(これは単なる道具ではない)


(人が積み上げた人生――その“抜粋”だ)


「抜粋って言いました?」


(全部は入らん。都合よく便利な部分だけ、というわけでもない)


「めちゃくちゃ信用しづらい仕様……!」


窓の外では、町の子供たちの笑い声が聞こえる。


レオは小さな声で言った。


「……そんな大事なもの、俺なんかが持っていいんですか」


エリナは少し笑った。


「いいの」


「でも……」


「昔の私は、もっと酷かったわ」


レオは黙る。


「泣いて、逃げて、怖がって、何もできなくて。誰かに守られてばかりだった」


エリナは窓の外を見る。

遠くに見える畑。

新しい工房。


「でも、誰かの役に立ちたかった」


「あなたも、そうでしょ?」


レオは少しだけ目を伏せる。


「……はい」


「だったら、大丈夫」


カードが小さく光る。


すると、レオの頭の中に、突然、知らない感覚が流れ込んだ。


包丁の握り方。

火加減。

保存食の作り方。

壊れた鍋を補修する簡単な魔道具。

値切りを仕掛ける商人への返し方。

人の目を見ること。

相手の言葉の裏を読むこと。


「うわっ……!」


レオは頭を押さえた。


「な、なんか急に分かる……!」


「最初は酔うわよ」

エリナはどこか懐かしそうに笑った。


「私も最初、三日くらい寝込んだから」


「そんな危険物みたいに言わないでくださいよ……!」


だが、その顔は少し嬉しそうだった。


何も持っていないと思っていた自分に、急に可能性が生まれた。

役に立てるかもしれない。

誰かを助けられるかもしれない。


カードが最後に静かに告げた。


(勘違いするな)


(知識だけでは人は変わらない)

(料理を知っても作らなければ意味はない)

(交渉を知っても向き合わなければ意味はない)


(そして――)


(選択は、お前がする)


レオはカードを強く握った。


「……はい」


その目には、初めて少しだけ、自信が宿っていた。


エリナはそんな彼を見て、静かに微笑んだ。


ベルが自分にくれたもの。

それは力ではない。

前に進む勇気だった。


そして今、その勇気は、また次の誰かへ渡っていく。


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